丁度1ヶ月ぶりの更新です。前回”その16”では、ホテルの従業員の1人である中年女とネンゴロになり何某かの情報を得ようとするんですが。一体どうなる事やらで、書いてる私も全く見当がつかなくなってきました。
男は目の前の中年女に縋るしか、他に成す術はなかった。まるで女を支配するかの様に彼女の”全て”を弄った。
男は全てを破棄したかの様に我を忘れ、女の肉体も精神も心も全てを独占しようとした。瞬く間の悦楽が終わった後も、女をずっと眺めていた。快楽と放蕩が咆哮に変わっていく感覚が男を支配した。
喋り方で気付いたんだが、
アンタはメキシコ系なのか?
まさか不法移民って事はないだろうな?
ああ、間違ってたらすまない、でも
よかったら名前くらい教えてくれないか
ファーストネームだけでもいい
俺が気に入ったらの話だけど
いや、俺みたいなのはヤッパリ用無しか?
女はずっと瞳を閉じていた。事を終えた後もずっと目を閉じたままだった。
私の事そんなに知りたい?
アナタの事知ってて、
私の事知らないのは不公平よね
実は私もアナタと同じで、少し訳ありなの
そう、このホテルには訳ありしかいないのよ
先日、探偵サン来てたよね、
それでその訳あり達を調べ上げてんだけど、
誰も本当の事言う人はいないわ
いや言う人もいるかもしれれないけど、
極端な司法取引がない限り、
絶対に口を割らないと思うわ
いくら優秀な探偵サンが相手でもね
男は女にブラウスを羽織るように仕向けた。豊満な乳房がやけに気になった。男は目の前の女に、愛人で娼婦のレオニーを見ていたのだ。
アンタは僕の愛人とよく似てるよ、
お陰で昔を思い出した
愛人といっても、高級取りの娼婦で、
苦しい時は、散々お世話になったもんさ
でも俺は、彼女の為に何一つしてやれなかった
彼女が今どうしてるのか?
それすら分からない
彼女が客の情報を売ってたなんて
それすら知らなかったんだ
全く憐れな男なんだ、
この亡霊ホテルにお似合いって事か
女は少し微笑んだ。目尻の微妙なシワがやけに可愛く、そして貧相に見えた。濃緑の大きい瞳の中に、苦悩と失意の2文字が窺えた。
名前はサビオレよ、
”賢い”という意味だけど、全く笑わせるわね
メキシコの不法移民だといいけど、
実は違うの
メキシコ第3の都市モンテレイって知ってる?
そこのスラムで育ったわ
10才の頃、ある裕福なアメリカ人に拾われて、
この西海岸に移ってきたの
でもその義理の親がすぐに失踪して
孤児院に入れられたわ
そして気が付いたら、
ずっとここで働いてるという訳ね
今はこれしか言えないわ
男はこの女にある種の危険な香りを見出す事はなかった。レオニーに比べればずっと真正直な生き物に思えたし、受付の若い女(カミーユ)に比べればずっと潔い女に見えた。勿論、二枚舌の妻シルフィーに比べたらずっと信用できそうだが。
男はひと安心した。
”この女だったら信頼できる。オレの全てを託せるかもしれない。それに意外にもこの女が、突破口の鍵を握ってるかもしれない。今までオレの前には、カミーユと支配人、マーロウと目の前のサビオレが現れたが、一番信用できるのは間違いなくこの女だ。ひょっとしたら俺の救世主になり得るかもしれない”
男はもう一度女を強く抱きしめた。スラムで育った女の悲しい背中に、自らの全てを捧げたかった。そして自然と涙が溢れた。
オレはアンタの全てを信じる
言っただろ、俺達は友情で結ばれてるって、
アンタなら俺の全てを任せられる
いやアンタだって、俺に全てを任せて欲しい
今夜から俺たちはチームなんだ
全てを許し合える最強のコンビさ
探偵のマーロウも若い女カミーユも、
毒牙をひた隠す獣に過ぎないのさ
でも、ここから逃げ出すにはどうしたらいい?
女はもの惜しげに首を横に振る。
ここからはまず、逃げられっこないわ
マーロウを上手く出し抜いたとしても
支配人やカミーユが壁になるわ
それに万が一脱出できたとしても、
アナタはある組織に追われてるし、
警察にも追われてるのよ
もう何処にも逃げ道はないわ
今の私と同じなのよ
今はじっと我慢して、
ここで大人しくするしか方法はないの
男は女に落胆した。悔しさと失望が自然とこみ上げてくる。
アンタもマーロウやカミーユと同じ事を言うんだな、
俺はアンタの全てを信じようとしてたのに、
そんな説教にはウンザリなんだよ
アンタだって奴らの手下なのか?
組織がなんだ?警察がなんだ?
そういった奴らの手の届かない所に
逃げ出せばいいじゃないか
そう思わないか?
俺たちだけで新しい人生を始めるんだ!
女は再び首を降る。
家族はどうなるの?娘たちは?奥さんは?
もう少し現実を見なさいよ
ここは私の言う事をちゃんと聞くの
悪い事言わないわ、今は大人しくしてるの
そして、カミーユの誘惑を排除するのよ
あのバカ女、絶対にしびれを切らし、
墓穴を掘るはずだから、絶対にね
今はまずカミーユという女を孤立させるのよ
私達は友情で結ばれた特別なチームでしょ?
そこに信頼がなければ、全てはパーだわ
まずは探偵サンを味方につけて、
あの若い生意気な女を血祭りに上げるの
悪くないアイデアでしょ?
ああもうこんな時間だわ、仕事に戻らないと
とにかくカミーユには心を許さない事よ
それだけは約束して頂戴
女は男に背中に顔を埋める様にしてポツンと呟く。
今なとても大切な時だわ、
少しでも色気を出すとアンタは終りよ、
それだけは言っておくわ
何かあったら、受付にいるわ
要件は紙に書いて、そっと渡してね
カミーユは、探偵サンから雲隠れする為に、
貴方の部屋を訪れるかもしれないから、
自分の事は絶対に喋っちゃダメよ
アンタの情報を警察に売って、
何処かに逃げるつもりなのよ
男は別れ際にそっと口づけ交わす。
ああ解った、アンタの言う通りにするよ
俺たちは最強のチームさ
アンタに会えて本当に助かった
心から感謝するよ
「放蕩」と「咆哮」は韻律がいいから、一度短歌に使ってみたい。
だけど、問題は、私が今後こういう言葉を使った短歌を作る機会があるかどうかよ。
もっと早くから歌を作っていれば、もっとエロチックな歌も山のように作れたのにと思います。いや、むしろ若いころのほうが作りにくかったかな?世間体というものがあったから。
そこで、アンチエイジングに対抗して、”老化を謳歌”するってのはどうでしょう。
そんな体験はしたことないけど、作ってみました。(笑)
「私はコールガール」に出てくるエリート女子大生の娼婦も全く同じ心境ですかね。原題は”Confessions of an ivy League Lady of Pleasure”ですが、この短歌が全てを物語ってます。