「前回」の冒頭では、江夏の背番号28という”完全数”について少しだけ触れ、その後は”ナルシシスト数”について紹介しました。
ナルシスト数が有限個存在する事は既に述べましたが、今回初回する”完全数”はそれが今未だ判ってなく、その研究は古代ギリシャの時代から今に続いてます。
”自身を除く全ての約数の和が完全数になる”事までは説明しましたが、この完全数をマスターする事で、その仲間である”友愛数”や”婚約数”というユニークな数の神秘や属性を知る事が可能となる。
そこで今日は、博士が愛した”完全数”(Perfect Number)についての紹介です。
完全数の起源と不可思議な世界
”ナルシシスト数”と異なり、数学上の未解決問題とされる”完全数”は、純粋な研究対象になりうるとされます。
ウィキによれば、完全数とは”万物は数なり”と考えたピタゴラスが名付けた数の1つである事に由来するが、なぜ”完全”(Perfect)と考えたのかは解っていない。
一方、中世の「聖書」の研究者らは、”6は<神が世界を創造した(天地創造)6日間で、28は<月の公転周期>で、これら2つの数は地上と天界における神の完全性を象徴する”と考えた。
更に、古代ギリシアの数学者は他にも2つの完全数(496,8128)を知っていた。事実、6,28,496,8128の4つの完全数は、ニコマコス(60年~120年頃))の「算術入門」にその記述が存在する。
以降、”完全数はどれだけあるのか?”の探求が2500年以上経った今でも続けられている。
歴史で言えば、完全数に関する最初の成果は紀元前3世紀頃のユークリッドに依るもので、彼は”2ⁿ−1が素数ならば、2ⁿ⁻¹(2ⁿ−1)は完全数である”事を証明したとされる。
事実、ユークリッドの「原論」には、”もし単位(1)から始まり順に1対2の比をなす任意個の数が定められ、それらの総和が素数になり、その全体が最後の数に掛けられ、ある数を作るならば、その積は完全数であろう”と書かれてたが、これは(結果的にだが)、”1+2+2²+2³+...+2ⁿ⁻¹が素数ならば、(1+2+2²+2³+...+2ⁿ⁻¹)2ⁿ⁻¹は完全数であり、(2"−1)2"⁻¹が完全数である”事の証明となっている。
実際に完全数は、n=2→6=2¹×(2²−1)、n=3→28=2²×(2³−1)、n=5→496=2⁴×(2⁵−1)、n=7→8128=2⁶×(2⁷−1)、n=13→33550336=2¹²×(2¹³−1)、⋯と書けるが、2ⁿ−1で表される数は”メルセンヌ数”と呼ばれ、素数である場合をメルセンヌ素数という。
一方で、上述したユークリッドの公式は偶数の完全数しか生成しないが、逆に偶数の完全数が全て2ⁿ⁻¹(2ⁿ−1)の形で書けるか?は18世紀まで未解決であったが、オイラーは偶数の完全数がこの形に限る事を証明した。
この事は、メルセンヌ素数と偶数の完全数が1対1に対応する事を示すが、現在までに発見されてるメルセンヌ素数は、完全数と同じく52個である。
但し、冒頭でも述べた様に、偶数の完全数が無数に存在するのか?奇数の完全数は存在するのか?という問題は未解決のままである。
ユークリッドとオイラーの完全数
現在では、完全数の定義は”正の約数の総和が自分自身の2倍に等しい”と同値であり、”Nが完全数ならば約数関数σに対し、σ(N)=2Nが成り立つ”と書ける。但し、約数関数σ(n)は自然数nの約数の総和で定義される。実際に完全数28を例にとると、σ(28)=1+2+4+7+14+28=28×2となる。
故にσ(n)を使えば、1+2+2²+2³+⋯+2ᵖ⁻¹=Mₚとして、Mₚ2ᵖ⁻¹が完全数である事を現代風に、かつ簡単に証明出来る。
まず、Mₚ=2ᵖ−1は奇数になるから、2ᵖ⁻¹とMₚは互いに素となる。よってσ(n)を約数関数とすると(σは乗法的より)、N=2ᵖ⁻¹Mₚの約数の総和はσ(N)=σ(2ᵖ⁻¹)σ(Mₚ)と書ける。また、σ(2ᵖ⁻¹)=Σ2ᵏ=2ᵖ−1=MₚでMₚは素数より、σ(Mₚ)=Mₚ+1=2ᵖと書ける。
従って、σ(N)=Mₚ2ᵖ=2Nとなり、Nの約数の総和が2Nに等しく、Nは完全数となる(証明終)。
更に、オイラーの”偶数の完全数はMₚ2ᵖ⁻¹の形に限る”事の証明も、約数関数σを使えば実にスムーズである。
まず、Nを偶数の完全数とし、Nを2で割り切る最大回数をnとすると、N=2ⁿK(n:自然数、K
奇数)とおける。また、2ⁿとKは互いに素なので、σ(n)を使えば、Nの正の約数の総和は、σ(N)=σ(2ⁿ)σ(K)=(∑2ᵏ)σ(K)=(2ⁿ⁺¹−1)σ(K)と書ける。ここでNは完全数より、σ(N)=2N=2ⁿ⁺¹Kなので、(2ⁿ⁺¹−1)σ(K)=2ⁿ⁺¹Kを得る。
一方、2ⁿ⁺¹−1は奇数より2で割り切れず、上式が成立するには、σ(K)が2ⁿ⁺¹で割り切れる必要がある。そこで、σ(K)=2ⁿ⁺¹aとおき、上式に代入し、両辺を2ⁿ⁺¹で割れば、(2ⁿ⁺¹−1)a=Kとなる。
ここで仮に、a≠1なら、1とaと(2ⁿ⁺¹−1)a はKの相異なる約数である為に、σ(K)≥1+a+(2ⁿ⁺¹−1)a=2ⁿ⁺¹a+1=σ(K)+1となり矛盾。故に、a=1となる。従って、Nが偶数の完全数であるには、K=2ⁿ⁺¹−1かつσ(K)=2ⁿ⁺¹=K+1な必要がある。また、σ(K)=K+1より、KはKと1以外に約数がない素数となる。
故に、Nが偶数の完全数であるのは、N=2ⁿ(2ⁿ⁺¹−1)の時で、2ⁿ⁺¹−1は素数に限る(証明終)。
完全数の特異な性質
完全数が6,28,496,8128,33550336,8589869056,⋯と順に並ぶ事は「前回」でも述べたが、これら完全数は幾つかの興味深い特徴を有する。
まずは、①6以外の完全数は奇数の立法和で表される。例えば、28=1³+3³、496=1³+3³+5³+7³、8128=1³+3³+5³+7³+9³+11³+13³+15³、33550336=1³+3³+5³+7³+9³+11³+13³
15³+・・・+123³+125³+127³、・・・
②6以外の完全数は4の倍数となる。
③完全数は連続した自然数の和で表せる。これは映画「博士の愛した数式」の中でも紹介されていたが、6=1+2+3、28=1+2+3+4+5+6+7、496=1+2+3+・・・+31、8128=1+2+3+・・・+127、33550336=1+2+3+・・・+8191、...となる。
その他にも、完全数は全て奇数番目の3角数でもあり、全て6角数でもある事や、完全数の1の位は6又は8である事も判っている。
また、完全数の神秘は歴史的に見ても奥深いものがある。以下、「完全数とその魅力について」より一部紹介です。
完全数の6は”神が世界を6日間で創造した”事に関係する事は先にも述べたが、日本でも6といえば、先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の6種の曜からなる”六曜”がある。
これは、1ヶ月(≒30日)を5等分し、6日を一定の周期として、それぞれの日を星ごとに区別する為の単位として使われたとあるが、完全数が関係してるかは定かではない。
一方で、6は各種の単位の基礎数字となる。例えば、12(=6×2)は1年の月数であり、干支や星座の数でもある。また、24(=6×4)は1日の時間数であり、30(=6×5)は1ヶ月の日数である。更に、60(=6×10)は1時間の分数で、360(=6×60)は円の角度である。
28が”月の公転周期の日数”である事も先に述べたが、成人の頭蓋骨は舌骨を除き28個の骨からなり、人間の歯の本数は(親知らずを除き)28本である。
更に496は、古代ギリシャ人が”天地創造の神の数字”として崇めた神秘的な数字と言われている。
因みに、NHKスペシャ「神の数式」では、物理学者のJ・シュワルツとM・グリーンが超弦理論の数式分析の中で、496という数字が何度も現われ、”相対性理論と素粒子が結びついた”との逸話が紹介されていた。更に、預言者ヨハネの福音書の第1章(1~18節)は、496の完璧な音節からできてるとされる。
この様に完全数は、神秘な要素を含み、幾つかの重要な場面で使用されてる事が判る。
最後に
数学は難しすぎて、毛嫌いする人も多いだろうが、数字となれば数学アレルギーが多い日本人も比較的親しみ易い領域となるだろう。
事実、数字は様々にユニークな性格を有し、脳トレや数トレでも多く紹介されてる様に、パズゲーとしても大いに楽しめる。
数字は人類が発見したものだが、数字はこうした新たな感覚を呼び覚まし、数学という高度で高質な学問を発明するに至った。
現代数学が非常に抽象的で難解なのは、数字の神秘性から生まれるものでもあろうが、一方で、そのユニークさが人類の知覚と興味を惹きつけてきたのも事実である。
今まさに、数字に憑かれた状態の私だが、”博士の愛した数字”というのは、”博士に取り憑いた数字”と言えるのかもしれない。
そういう事で次回は、友愛数と婚約数、そして社交数の神秘について紹介したいと思います。
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