象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

数学はギャンブルを超えた?のか”その4”〜エドワード・ソープの野望と執念

2023年06月06日 13時07分35秒 | 数学のお話

 人間というのは、堅苦しい事や難しい事ばかりじゃ当然だが、頭がおかしくなる訳で、個人的な事や日常的なる事を徒然なるままに書き記すのも気分転換にはなるが、そればかりじゃバカ?になる。
 基本的にBlogってのは、”言葉の肥溜め”であり”感情の排泄”に過ぎない。SNSだって同じだろう。つまり、世界中に網羅される”情報の吐き溜め”に他ならない。
 情報は”情けで報いる”と書くが、人が生きていく為にバラまく”情け”という名の信号である。つまり、人は情けを配信し、同時にその情けを享受して生き延びる。情けをかけるのは(他人の為ではなく)自分の為に他ならないのだ。
 因みに、情報の語源は”心に形を与える”とあるが、”情けを形にする”と言ってもよかろう。


情けと数学

 そんな情けもかけ方によっては、漠然とした矛盾の海に漂い、相手の潜在的な怒りを呼び覚ます事もある。
 例えば、ジャニーズの性加害も所詮は”性の掃き溜め”に過ぎない。今になって事務所の看板アイドルが謝罪をするも、所詮は保身の為の言い訳に過ぎない。つまり、情けと謝罪は自分の為に行うものなのだ。
 無能な世襲議員で蔓延する内閣府が腐っていくように、無学とスラムで充満したJPOPアイドルの世界もやがては朽ちはてる。
 全ての世界は捕食者と被食者で成り立っている。我ら大衆は娯楽に食い潰され、同時に娯楽を食い潰して生きている。
 そんな娯楽が生き延びる為には、大衆の情けが必要である。

 かつて、メディアや政府は必死で故安倍首相(の偉業?)を持ち上げ、過去に犯した不正や汚職を無に帰そうとしたが、その反動で彼の周囲に漂う巨悪や疑惑も、岸田首相が言い放った”民主主義への冒涜”や”愚劣な蛮行”と同義で語られる事だろう。
 喪に付す事で巨悪が無に帰すのなら、これほど都合のいい事はない。謝罪する事で性犯罪が無に帰すのなら、裁判所はいらない。
 ギャンブルも同じで、大負けしても懐が傷まないのなら、これほど愉快な娯楽もない。
 政治家は国民の血税をギャンブルの如く浪費し、国債や消費税で埋め合わせしようとする。それら損失を過小評価し、過剰なリスクを背負い続け、国民の懐が当てにならない事を悟ると、新興宗教の懐に狙いをつける。
 まさに、今の日本はバブル期のラスベガスのカジノで負け続ける、気前のいい日本人観光客なのだろう。
 全ては人の情けがそうさせてるのだろうか?

 しかし、数学にはその”情け”らしきものがない。只々難しいだけで、そこには情けが入る余地すらないし、言い訳すら出来ない。
 だが、そんな数学ネタでもアクセスが集まる時がごく偶にだが、ある。
 「数学はギャンブルを超えたのか(その2)」にも意外な程にアクセスが集中した時があった。所詮は一時的なものに過ぎなかったが、そういう小難しい記事を書いてたんだと思い出した。
 ”その1”では、映画「ラスベガスをぶっ潰せ」のモデルとなったエドワード・ソープのカジノ攻略に関する3つの戦略について述べた。”その2”では、ソープの戦略の1つであるベッティングシステムに大きく寄与した”ケリーの基準”(掛け金方程式)について書いた。
 ”その3”では、ケリー基準に代わる単純なベッティング法である”マーチンゲール法”と”モンテカルロ法”を紹介した。 
 勿論、数学でギャンブルの結果を完璧に予測する事は不可能だが、少なくとも素人が好き勝手に結果を予想するよりも的中する確率はずっと高い。つまり、ギャンブルの仕組みが複雑になるほど、数学の出番が増えるのである。
 そこで今日は「数学はギャンブルを超えるのか?」の最終回(多分)として、再びエドワード・ソープに登場してもらう事にする。 
 

ブラックジャックからルーレットへ

 連戦連勝のヘッジファンドマネジャーでもあり、無敵のブラックジャックプレーヤーでもあるエドワード・ソープだが、AIシムによる基本戦略、カードカウンティング、ベッティングシステムの3つの混合戦略により、プレイヤー側が優位に立てるというノーベル賞級の発見をした。
 一方で、我らは庶民に生まれた時点で資本家に捕食される被食者にすぎない。しかし、この主従関係をひっくり返したのも、数学者のソープである。
 しかし、カジノが儲かるのは、ゲームの背後にある数学のお陰である。つまり、カジノには運などは存在しないし、胴元がプレイヤーよりも数学的に有利になる。
 言い換えれば、ピンハネというトリックが存在する限り、カジノは不滅なのだ。
 が、そのカジノがソープが発見した数学的手法で駆逐されるとしたら?  
 以下、「ソープ市場とカジノを制覇したクオンツの開拓者」より一部抜粋です。

 カジノは、ソープが考案した戦略に対抗する為、シャッフルまでプレイヤーがゲームに参加する事を停止する場合がある。この顛末は「ラスベガスをぶっつぶせ」で書籍と映画になった。
 事実、ソープもカジノで自身の戦略を実行し、大儲けしすぎて、毒殺されそうになった。
 これら戦略の背景には、ジョン・ケリーが考案した”ケリー基準”を利用したとされるが、ソープの回顧録では”自身の基準”で戦略を解いたと記している。
 しかし、ソープは後にケリー基準を使い、オンラインカジノで試した所、”有効な戦略である”事を認めている。
 事実、彼がカジノを離れ、株式市場を攻略しようとした時、ケリー基準を活用し、”30年間で800億ドル相当の賭けをするのを助けた”と説明した。

 ”ギャンブラーの中心的な問題は、好ましい期待リターンの選択肢を見つける事だ。同時に、ギャンブラーは自分のお金をどの様に管理するか?つまり、どのくらい賭けるかを知る必要もある。一方で、株式市場(証券市場)でも問題は似てるが、より複雑だ。投資家であるギャンブラーは、<リスク調整後リターン>を最適化する手法を探す必要がある”とソープは語る。
 <リスク調整後リターン>とは、得られたリターンに対し、どれだけリスクを取っていたかを反映させたものだ。仮に、過剰なリスクを取って少ないリターンを得ても、実際には割に合わない賭けをした事になる。
 つまり、この状況を勘案したのが<リスク調整後リターン>であり、より小さなリスクで、より大きなリターンを獲得できる事が望ましい。
 このケリー基準の様なロジックがまだモデル化されてない当時、ソープはメンタルモデルとしてケリー基準を保持していた事が想像できる。

 彼は、理論も実践の双方で圧倒的な業績を残したモンスターの様な人物だった。
 ソープは(実は)ブラックジャックだけでは懲りず、(かつてジョン・ケリーと同じ研究所に勤めていた)”情報理論の父”であるクロード・シャノンと共に、ルーレットの攻略を目指す。
 そこで、結果を予測・計算する(為の服の下に忍ばす)史上初の(装着型)ウェアラブル・コンピュータを開発&発明した。
 ソープは、物理学の学生の時に既にルーレットの結果を予測する手法を思い描いていた。彼の推測では、軌道を回るルーレットのボールは”正確で予測可能な経路にある惑星のようだ”というものだった。
 彼とシャノンが使用した”コンピュータ”は、靴に入れる事が出来、(受信機は)イヤピースに可聴信号を送信できるタバコ一箱サイズの箱型で構成される。元のマシンにはイヤホンが必要だったが、彼らは非常に細いワイヤーを用意し、髪でそれを覆い隠した。

 やがて彼らはペアでカジノに出向き、ソープは回転するボールを見ずにホイールに数字をランダムに書き留め、シャノンはその軌道を観察して適切な賭けの情報を、通信機を通じソープに送信する。
 結果、彼らはプレイヤーが胴元に対し44%の優位を築けると結論づけた。しかし、彼らはこれでお金儲けをする気は毛頭なかったのだ。

 
投資に数学を持ち込んだ天才

 やがてソープは、大学での研究生活に辟易とし、ギャンブルを攻略した後の目標を金融市場に見出した。
 彼は、金融市場でのクオンツ(定量分析的)投資の先駆者でもあり、自身が設立した、世界初のクオンツヘッジファンド”Princeton Newport Partners”は、18年以上に渡り、140万ドルを2億7,300万ドルに転換させた。
 つまり、確率理論と計算のみを武器に、株価が上がろうが下がろうが”損が出るリスクを最小限にする(リスクヘッジ)”方法を開発し、高い運用成績を長期間叩き出す(事実、29年間で1四半期も損を出さなかった)。
 こうして、ソープは現在の市場を席巻するクオンツ(定量分析)運用の草分けになったのである。
 彼は(以下でも述べるが)F・ブラックとM・ショールズのオプション価格設定の公式(ブラック=ショールズ公式)を彼らの数年前に開発しており、統計的アービトラージ戦略に使用していた。
 因みに、アービトラージ戦略とは、同じ商品で価格が異なれば、その差を収益にする”裁定取引”で、相対的に割安な銘柄(資産)に投資し、これと類似した割高な銘柄を空売りするトレーディング技術。つまり、相対的な割高度割安度を算定する事で、限られたリスクで収束利益を得る。結果、アービトラージの圧力により、割安は資産価格は上昇し(逆に割高は資産価格は下落)、両者はほぼ同一の価格になる。
 事実、ブラックはソープの著書「マーケットをぶっちぎれ」を参考にし、ソープ本人に質問したとされる。
 ソープは、彼らがブラック=ショールズ公式を発表した時、他のプレイヤーがそれを即座に活用する事を恐れたが、(運良く)それは起きなかった。

 近年の金融市場はコンピュータ化が異常な速度で進み、更に2012年以降のAI(機械)学習の劇的な発展が金融市場に更なる進化を迫り、AIが市場の操縦桿を完全に握るようになったとされる。
 一方で、AI学習モデルベースの”パッシブ投資が主流となった事が、(長期的で明確な)バブル崩壊から景気後退に向かう時期を市場から取り去った”理由とする議論が存在する程です。
 短期的なアービトラージ戦略も同様に進化し、(当時、全米一の金持ち投資家であった)バフェットがかつて見つける事の出来た市場の淀みは、今やもののミリ数秒でアルゴリズミック・トレーダーが活用している。
 また、それとは別に高頻度取引(HFT)業者は、取引の速度で極小のスプレッドを稼ぐ事で、リスクを負わずして稼ぎ出す。
 このHFT業者は、映画「フラッシュボーイズ~10億分の1秒の男たち」で登場する様な、取引所のサーバーに直通する光ファイバーケーブルに頼らない。つまり将来、惑星間通信に応用されそうな、もっと高速なマイクロ波によるデータ転送を利用する様になった。
 欧米の証券取引所では、スピードバンプを用いた意図的に遅い市場メカニズムや、DPO(DiscretionaryPeggedOrder)という執行価格に関し、取引所が一定の裁量を有する注文タイプが提案され、実用化されている。

 つまり、時代はソープのアルゴリズムによるファンド運用を初めて成功させた記念碑的なブレイクスルーから、更に先に進んでる事になる。
 それでも、彼が打ち立てた功績は余りにも大きく、理論を作り、実践で試し、成功させる彼の業績は余りにも”早すぎたパイオニア”だったのだ。
 以上、長々とAXION/経済メデイアからでした。
 

”エッジ”と”ヘッジ”

 ソープの著書「天才数学者、ラスベガスとウォール街を制す〜偶然を支配した男のギャンブルと投資の戦略」(2019)では、勝つも負けるも運次第の、そんな不確実性が支配するカジノや株式市場での必勝法を紹介している。
 嘘みたいだが本当の話である。
 ソープは統計学と確率論の2つを駆使し、コンピュータで徹底して計算を繰り返し、カジノでは”エッジ”(胴元優位性)を転覆させ、投資では”ヘッジ”(リスク回避)を徹底した。
 つまり、両者とも見逃しがちな程の微々たる”リスク”だが、ソープはそれを重視した。
 言い換えれば、ギャンブルでも投資でも辛抱強く僅かな”エッジ”(優位性)を探り出し、ボロ儲けする。

 著書のトップレビューにもある様に、今の資本主義は結局、天賦の才は一部の利益を図る人たちのものとなる。
 ソープは、ノーベル経済学賞を得た金融工学のブラック&ショールズより早く、その理論的核心を掴み、公開すれば発案者としての利益が失われるとして秘匿。彼らより進んだ数学的ヘッジ方法を活用し、莫大な成功を収める。事実、ブラック&ショールズはロングターム・キャピタル・マネジメントで活躍するが、(まるでピエロの様に)大破綻した。
 つまり、経済学者は正規分布みたいに整合的に表現し易いものを好み、”テールリスク”(想定外のリスク)を軽視するが、ソープはギャンブルの経験からそれが致命的になる事を知っており、それすらヘッジ(回避)し、安定的な利益を継続してゲットする。
 つまり、(世間に論文を発表する)ノーベル経済学者より頭がいいソープは、社会に出る事なく、より現実に即し安定的な仕組みを構築してエッジ(優位性)を守る。 

 10年に(いや100年に)数名しか出ない数学や物理学の天才は、利益団体に囲まれ秘密裏に進歩していく。が、天才に到底かなわない秀才たちが国や学会で大手を振う。或いは、こうした秀才がブラックジャックで合法的なイカサマをする。
 こうした天才にこそ、エッジを維持しつつ、テールリスクまでヘッジした安定的な社会設計や市場設計に力を注いでもらいたいものだが、今の資本主義はそれを許さない。
 つまり、その利益はごく一部の者たちの懐(エッジ)に入る。これこそが現代資本主義におけるテールリスクそのものだが、ソープでも限界を感じてるのだろうか。

 以上、レビューを一部参考にしましたが、まさにこれこそがソープが言いたかった全てなのかもしれない。
 想定外のテールリスクさえも用心深く回避(ヘッジ)し、優位性(エッジ)を慎重に維持する。
 数学者が考えるギャンブルとは、独創性とアイデアに擦れたリスク回避の戦略でもある。
 数学はギャンブルを超えるのか?いや、ギャンブルは数学に追いつけるのか?
 そう思わせる様な、エドワード・ソープの生き様でもある。

 因みに、ソープがAIを機械学習と呼んでる事は私には、非常に興味深く映った。



2 コメント

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アービトラージ戦略 (腹打て)
2023-06-09 09:44:21
映画AIRのブログでも紹介されてたけど
エアジョーダンの一時期の天文学的で爆発的な騒ぎは株価市場においても混乱を招く可能性があった。
メーカーとNBAアスリートの実名がコラボした同じようなバッシュが次々と登場したが、スニーカー市場ではナイキのAIRだけが独り歩きしていた。
まるで、アービトラージ戦略の恰好な獲物となりそうな状況だったが
でもあの頃は、ジョーダン以外にもユーイングやドレクスラーやストックトンなんかも、超一流選手の実力やメーカーの市場価値も負けてはいなかったんだよ。

しかし、数学の力をもってしても未だ衰え知らずのエアジョーダン人気を予想は出来なかった。
つまり、神様ジョーダンは数学をも超えたと言っていいのか。 
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腹打てサン (象が転んだ)
2023-06-09 21:22:52
メールマンと言われたストックトン
カール・マローンとのコンビは絶妙でした。
ジョーダンもピッペンがいましたが、相棒という程でもなかったのかな。
でも、ジョーダンはNBAやプロスポーツの領域を超え、スニーカーの市場にまで影響を及ぼしました。
アービトラージの圧力を持ってしても、神様ジョーダンの勢いを止めることは出来ませんでした。
言われる通り、ジョーダンは数学をも超えたと言えるかもですね。
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