象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

原子力神話の崩壊(前半)〜”核燃料サイクル”という高く付きすぎた国家プロジェクト

2023年04月13日 06時01分56秒 | 腐った政治

 久しぶりに、地上波でNHKを見てたら、「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る」というドキュメント番組が流されていた。

 原子力をめぐる科学技術史(や政策)を専門に研究してきた故・吉岡斉氏だが、国の原子力委員会の専門委員や福島第一原発の事故調査・検証委員なども歴任していた。そして、その吉岡氏が遺した膨大な文書が九大文書館で見つかった。
 国の原子力委員会の記録や日記、電子メールなど、これら未公開資料が今に投げかけるものは・・・(NHK.jp)
 実に、半世紀前から構想された巨大国家プロジェクト”核燃料サイクル”だが、原子力発電所で使い終わった核燃料を再利用するという(国策としては)疑問が多く残るものだった。
 (反原発ではなく脱原発を唱える)吉岡氏も最初からこれには反対していた。しかし、国や経済界や電力事業らの利権に押し潰され、彼の提言は受け入れられない。
 ”君が言ってる事は全て正しい。しかし、(核燃料サイクルに掛かる)16兆円なんて、電気代に少し上乗せするだけでペイできるじゃないか・・今さら寝た子を起こす様な事はできんよ”
 こうした電力事業者の言葉に唖然としたという。

 結局は、ムラ社会の堕落である”オレとアンタの仲やっかん”という事で、その危険性や無謀さを科学的に指摘したにも関わらず、ボツにされてしまう。
 私の田舎でも、異議を唱えると”昔からやっとったんやからのぉ〜”ってなる。つまり、ムラ社会では議論をする前に既に答えは決まってて、議論を何度やってもそれは形だけで、結論は何も変わらない。
 事実、この原子力プロジェクトにはトラブルなどが相次ぎ、当初の予定から20年以上も完成が遅れ、コストが膨れ上がった。また完成しても、原発の再稼働が進まない中、再利用する筈の核燃料が行き場を失い、深刻な事態を生む恐れもある。この(無謀すぎる)国策を巡っては、電力事業者の中でも知られざるやりとりがあった事が明らかになる。
 以下、「国民負担に?16兆円超の巨大原子力政策の行方」から一部抜粋です。


”核燃料サイクル”の行方

 化石燃料の乏しい日本で、エネルギーの自立を実現する為に、昭和30年代に構想された核燃料サイクル。
 (原発で)使用済みの核燃料にはプルトニウムなど莫大なエネルギーを持つ核物質が残る。そこで、化学的な再処理を施してプルトニウムを取り出し、”MOX燃料”に加工し、原発で再利用する。
 つまり、使用済み核燃料をリサイクルし、自国内でエネルギーを確保しようという構想である。
 青森県六ヶ所村にある再処理工場は2020年7月に原子力規制委員会の審査に合格。MOX燃料工場も同10月に合格が出され、2年後の完成に向け大きく動き出す。しかし、この2つの工場だけで、40年間で約16兆円の巨大プロジェクトである。
 一方、構想が始まった当時とは状況は大きく変わってしまう。2011年には福島原発事故が起き、原子力への信頼が急落。2016年には核燃料サイクルの中核として開発されていた高速増殖炉”もんじゅ”の廃炉が決定し、サイクル政策の綻びが表面化した。
 そして、この最中の2014年、東京電力の内部でサイクル事業を担い続ける事に疑問の声が上がる。

 この(従業員3千人の)”原子力ムラ”の運営に当たるのが(株)日本原燃で、国の方針のもと、東京電力を初めとした電力会社が出資し、国策民営の事業を担う。
 福島原発事故で疲弊した東京電力を立て直す為に招かれた社外取締役らは、サイクル事業にかかる巨額の費用を問題視した。
 事実、1993年に建設が始まり、7年後に完成する筈だった日本原燃の再処理工場だが、東電と日本原燃との議論が始まった時には、既に21回もの延期が発生し、建設にかかる費用も大幅に膨れ上がっていた。
 ”再処理工場建設の見通しはたった”と強がる日本原燃だが、肝心のMOX燃料の価格は一般の核燃料と比べ、5倍に跳ね上がる。故に、東電幹部は、”核燃料サイクルはとても民間企業で担える事業ではない”と感じた。
 しかし東電内部では、”現実的ではないが、まず第一に青森県との約束があるし、業界の共通認識でもある”との声が多くを占める。
 事実、全国の原発で使い終わった核燃料の3千トンは再利用するという前提で、既に青森県の日本原燃に運び込まれてる。もし、核燃料サイクルが頓挫した場合、この使用済核燃料を全国の原発に送り返す取り決めを結んでいる。
 青森県の三村知事も、”私どもはごみ捨て場ではない”と釘を刺していた。
 更に、使用済み核燃料が各地に送り返されたなら、いずれ貯蔵スペースが満杯になり、原発が運転できなくなる恐れがある。つまり、”日本原燃のサイクル事業が停滞すると日本の原子力発電事業が止まる”との声が東電内部で上がる。

 波紋を広げた議論だが、電力会社の負担を少しでも減らす為に、経済産業省は(元々電力会社の積立資金で支えられてた)日本原燃の運営に国が責任を持った上で、電力会社が資金を拠出する事を義務付け、核燃料サイクルを維持しようとした。
 ”こうしたエネルギーを確保する事には意味がある。国と民間がどこまで背負うかを調整する必要がある”と経済産業省は認識し、”将来に渡りエネルギーを供給するには核燃料サイクルが必要であり、経済性だけでは計れない”と東電側も傾斜していく。
 当時の原子力委員長代理の鈴木教授は、”当事者の間でも核燃料サイクルの経済性や合理性について明確に疑問があがっていた。もう一度、その合理性や選択肢について議論するいい機会だ”と語る。
 しかし、”動き出したら止まらない”とされる国策の事業が、再び議論される事はなかった。
 

迷走する国家プロジェクト

 東電社外取締役の”民間ではサイクル事業を担いきれない”という問題提起こそが国策を立ち止まらされるきっかけになってたかもしれない。
 しかし、”動かないのに”膨らみ続ける再処理の事業費と電力自由化と福島原発の事故への対応の3つで追い詰めれられてた東電だが、民間企業として事業の是非を検討すべきだったのに、国が(認可法人を立ち上げてまでも)政策が堅持したが故に、この事業に協力せざる終えない状況となる。
 こうして、様々な課題や欠点が指摘されながらも、国は強引にもこの事業を進めようとした。
 事実、エネルギー資源に乏しい日本は、長期的な視点でエネルギーの選択肢を確保する必要があるし、放射性廃棄物の量を減らすという目的がある。それに、全国の原発では貯蔵プールが埋まり始め、再処理工場が動く事でこうした問題に対応できるという現実的な理由もある。
 梶山経済産業相は、”総量でいうと8割近い使用済み燃料置き場が埋まっている・・・高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度の低減・資源の有効活用のメリットがある事から、核燃料サイクル政策を推進していく”と語る。
 確かに、”経済性だけでは判断できるものではない”(国)が、この政策は関係する事業がリサイクルという輪っかで繋がってるが故、一か所で不透明な事が起きると、全体が一気に悪循環に陥ってしまう。ある意味、ストップの掛け辛い政策と言える。

 一方で、立ち止まる機会がありながらも、様々な理由で続く事になった核燃料サイクル。2022年に完成予定の再処理工場だが、よくよく検証すると、サイクル事業の前提が崩れ、政策の合理性が益々揺らぐ事態が見えてくる。
 2020年5月、日本原燃が示した再処理工場の事業計画では、操業開始から5年でフル稼働し、年800トンの使用済み核燃料を再処理するとしていた。ここから生みだされるプルトニウムは約7トンで、原爆800発以上に相当する。
 原発事故前の電力業界の計画では、全国16~18基の原発でMOX燃料を使う事で年7トンのプルトニウムを消費できるとしていた。しかし、原発事故後に規制基準は厳しくなり、MOX燃料を利用できる原発は僅か4基に留まる。故に、計画通り再処理すると大量のプルトニウムが溜まる事になる。
 鈴木教授は”(プルトニウムは)核兵器の材料でもあるので、国際安全保障上、非常に大きな問題となっている”と警鐘を鳴らす。
 事実、アメリカの政府関係者は”日本がプルトニウムを増やしたのだから、私たちも持っていい筈だと言い出す国が出てくるかもしれない。プルトニウムを増やすのではなく、減らさなければならない”と懸念する。

 こうした指摘を踏まえ、日本政府は”稼働してる原発で使う量しか再処理しない”事を決めた。つまり、サイクル事業の前提である”フル稼働ができない”事を意味するし、フル稼働できないとすると、サイクル事業の合理性が益々損なわれる。
 事実、龍谷大学の大島教授も”(前提だけじゃなく)経済的に見ても非常に合理的とは言えないものになっている”と指摘する。実際、再処理工場の事業費はコストカットし難い項目が殆どで、稼働率が下がっても多額の費用は必要だとされる。
 更に、”エネルギー安全保障の核となる技術として当り前の如く議論されてるが、非常に高くつく事が事前に分かっている。このまま進んでいいのか?改めて考える時期に来てる”と警鐘を鳴らす。

 MOX燃料を使う原発に限界があるのなら、残された選択肢は”直接処分”しかない。つまり、原発から出た使用済み核燃料をそのまま地中深くに埋める。
 コストを大幅に下げられるのではないかという期待もあるが、(再処理を行った場合に比べ)高レベル放射性廃棄物の量が多く残ってしまうという欠点もある。
 海外では選択してる国もあるが、日本では十分な議論はなされてるとは言えない。
 ただ選択肢として考える事は出来るが、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の調査・選定については2020年11月に北海道の寿都町と神恵内村で初めて開始されたものの、建設の見通しは全く立っていない。
 しかし、一部で研究開発を行っているが、国内に処分場はない為に、各地で長期保管し続けるしかないのが現状である。

 以上、”NHKクローズアップ現代”から長々と問題点を書き出しました。
 2020年の記事で、多少の今更感は拭えないが、今一度原発問題について真剣に議論すべき時が来ている。
 というのも、次回(後半)でも述べるが、こうした原発の致命的な問題は日米同盟の延長上にある日米核同盟が背後に重くのしかかってるからである。
 悲しいかな、原発問題やそのリサイクルでも日本はアメリカの言いなりであり続けた。
 (お上様には)”NOとは言えない”日本人のムラ社会のアホ臭な悪い癖は、原子力ムラでも起きてたのだ。

 長くなったので、前半はここまでです。後半は日本の原子力利用のこれまでとこれからについて纏めたいと思います。



4 コメント

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腹打てサン (象が転んだ)
2023-04-15 18:14:30
全くですよね。
日米核同盟なんて明らかにペテンぽいし・・
アメリカの原子力産業を支えてきただけの日本の原発とその事故による後遺症に、これからもずっとずっと悩まされるんですよ。
何だか書いてて、イヤになりますね。

コメントいつも勉強になります。
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日米核同盟 (腹打て)
2023-04-15 12:12:07
原発にしても
こういう厄介なのが絡んでくるんだよな。
そもそも日米同盟だって、アメリカからすれば<ヤバくなったら逃げてもいい>っていう裏取引が存在する訳で
日米核同盟にしても、日本がヤバくなったらアメリカは日本をプルトニウム保持国家として責めるし、アメリカの原子力産業が窮地に追い込まれたら、日本に原子力発電の供給を促す。
どっち転んでも、日米同盟がある限りは脱原発なんて絵に書いた餅になりそうだけど

それでも日本の政治家は、ない知恵を絞って脱原発という難題を解き明かす必要がある。
もしそれが出来ないのなら、日本は放射線とともに沈没する。
それだけは言えるだろうな。 
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エンタメさん (象が転んだ)
2023-04-13 18:55:32
ホント、そうなんですよね。
明らかにアカンと判ってるのに
お上様が決めた事だからからとて、”イケイケわっしょい”で何も考えずに突き進む。
ムラ社会の悪しき掟と慣習がここにても幅を利かす。
この様に、政治家の都合とどんぶり勘定で税金を使われたら、我々国民はすぐに干し上ってしまいます。

自己否定が苦手な農耕島民の悪い癖ですが、言われる通り、古いものに固執して安堵し、新しい何かに向う事を異常なまでに恐れるんですよね。
コメントいつもありがとうございます。
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一度進んだら撤退しない国 (平成エンタメ研究所)
2023-04-13 11:18:38
核燃サイクル~一度、進んだら撤退することをしないのが、この国なんですよね。
それは太平洋戦争でも証明済みで、負けがわかっているのに「一億玉砕」。

核燃サイクルにこだわっているのも、おっしゃるとおり、原子力ムラの意向があるからですよね。
原子力ムラと自民党の政治家は持ちつ持たれつ。
政治家は原子力事業に税金を投入し、原子力ムラは政治家にキックバックする。
官僚にとっても貴重な天下り先。
こんなことをしていたら、いくら税金を上げても足りません。

再生エネルギーにはまだまだ課題はありますが、これに舵を切るべきなんですよね。
原子力にこだわった結果、日本は再エネの後進国に……。
仮に戦争が起きれば原発はたちまち脅威の存在になりますし。

日本衰退の原因は、政治家と既得権者が古いものに固執し、新しいものに方向転換できないことにあるんですよね。
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