象が転んだ

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いまさら聞けない?群と環と体の関係とは(更新)

2019年06月08日 06時44分07秒 | 数学のお話

 数学ブログでは、”ガロア群”や「ABC予想」をテーマにしたブログを立てましたが、群と環と体の関係をしっかりと理解しとかないと、このテーマに付いてくのはキツイかと。
 そこで今日は、群と環と体との基本の基を紹介します。これが理解出来るだけでも、代数学の苦手意識が消えるかもです。
 実は私も、この代数学(群論)の基礎が理解できなくて、大学の数学を頓挫しました。今から思うと、非常に惜しい事をしたと思います。
 これを後悔先に立たずというか、代数に疲れた男というか。 


”体”と”群”の微妙な関係

 ”体”と”群”とは、19世紀初頭に一連の段階を経て発見された2つの数学的対象の名です。群の方が単純である分、応用範囲が広く、純粋な代数学にとっては取り組みがいがあると言われます。
 群の誕生は方程式の解の”置き換え”が起源で、ラグランジュによる考え方が”群の萌芽”に至りました。その延長としてアーベルは、5次方程式は代数的(一般的)に解けない事を証明し、更にガロアは”ガロア群”を使い、上記の方程式の構造を明らかにしました。
 つまり群論とは、方程式と関連する研究から始まったもので、抽象的がゆえに幅広い分野の基礎として発展します。
 故に群は、物理学の量子力学や化学、結晶学、幾何学、相対性理論などにも出てくる。また文化人類学や社会学に応用された例もある。代数系の理論では、”何にでも使えそう”という普遍性と美しさがある分、その理論の抽象性にはウンザリもする。

 そこで先ずは”群”(group)の定義ですが。次の4つを満たす集合と演算で定義します。
①二項演算○で閉じる。
②結合法則が成立。a○(b○c)=(a○b)○c、
③単位元が存在。a○e=e○a=a、
④逆元が存在。a○1/a=1/a○a=e、

 結合則は括弧の位置を変えても同じという意味です。どうしても分かんない時は”単位元と逆元”とだけ頭に入れときます。因みに、加法にて交換則(逆から計算しても同じ)が成り立つ時、アーベル群(可換群=加法群)とも言う。つまり、群とは加減の二則演算で閉じる。

 次に、”体”(field)ですが。内部構造に関する限り、”群”よりも複雑です。故に、代数の教科書では群を紹介し、その後に体へ進みますが、大半が群の抽象性にウンザリし、体に進む前にヤラれてしまう。見方によっては、体の方が群よりもありふれていて、理解しやすい所もある。
 しかし本当は、体の理論の方が複雑で奥深い。ただ群論ほど代数に直接関わる事もないし、大抵は代数幾何を通じ扱われる。
 事実、日本語の”体”とはドイツ語の”Körper”から訳され、身体や物体、立体、団体などの意味合いが強い。故に、スカラーやベクトルが定義される空間(幾何)の研究を指す事もある。
 代数の世界でのみ言えば、体とは四則演算が好きなだけ行える”当り前の数の体系”と言えます。

 さてと、"体"の定義ですが。四則演算(加法、減法、乗法、除法)について閉じ、以下の3つ条件を満たす集合を”体”(field)と呼ぶ。
①加法において可換群(和にて単位元0、逆元ーaが存在)。加法の単位元を特に零元と呼ぶ。
②乗法において可換群(積にて単位元1、逆元1/aが存在。但し、0の逆元は存在しない=0の割り算は定義できない)。
③和と積に関し、分配法則。(a+b)c=ac+bc、a(b+c)=ab+ac。

 体は四則で閉じると書いたが、つまり和と積で可換群という事で、引き算と割り算が定義され、結果的に四則で閉じるとなる。
 3つの条件をよく見て確認すると、自然数Nと整数Zは体でない事が判る。故に有理数Qは最小の基本的な体であり、勿論実数Rと複素数Cも体となる。


環(ring)とは

 最後に一番厄介な”環”です。環(ring)とは加法と減法と乗法と3つの演算で定義されるので、群よりは窮屈な構造ですが。乗法に逆元は必要ないので、体よりは緩い構造と言える。故に、群⊃環⊃体という関係になる。以下の4つ条件を満たす集合を”環”と呼びます。
①和に対し可換群(和にて単位元0、逆元ーaが存在)。
②積に対し結合則。a×(b×c)=(a×b)×c、
③積に対し単位元1を持つ(整数環の時)。
④和と積にて分配法則。(a+b)c=ac+bc、a(b+c)=ab+ac、

 更に、積にて可換である時、”可換環”といいます。つまり環は加法にて群になるが、乗法にては群にならない(逆元が存在しない)。故に、”環は加法にて可換群、乗法にて半群”となる。

 上述した様に、有理数と実数と複素数は全て”体”をなすが、整数は割り算では閉じず、”体”にはならない。しかし、整数は加法に関して”群”になる。また乗法にて閉じており、結合則と単位元を満たすので、整数全体Zは”環”になり、これを”整数環”と呼びます。 
 以上、群と環と体の定義を全て覚えるのは至難の業であるし、定義の内容も文献によっっては微妙に違うので、”群は加減の二則で、環は加減乗の三則で、体は四則で閉じる”とだけ覚えとけば、まずは間違いない。構図としては、”群⊃アーベル群⊃環⊃可換環⊃整域⊃体”と纏める事が出来る(イラスト参照)。

 

整数と”環”とフェルマーの密な関係

 整数は環になるが、”環”という概念は(整数を一般的に拡張したもので)、体が数の限界である様に、”環は整数の限界”とも言える。
 ”加法には可換群だが乗法では半群”というアンバランスな定義も、整数の性質を考えれば納得いきますね。”環といえば整数”と覚えときましょう。
 以下、”物理のかぎしっぽ”サンから抜粋&参照です。

 でも偉大なる数学者は、何が嬉しくて整数を”環”に拡張し、抽象化したんでしょうか?
 ラグランジュ(1736-1863)やガウス(1777-1855)らによる整数の合同式(剰余数)の研究から、(整数の剰余類は環になるという)”環の概念”が生まれてきたとされるが、この”環論”を大きく発展させたのが、かの有名なフェルマーの最終定理を解決しようという試みでした。
 この”フェルマーの定理”と”環”は切っても切れない関係にあり、環の歴史には超大物数学者が沢山登場します。ではその歴史を少し紹介です。

 ”フェルマーの最終定理”とは、フェルマー(1601-1665)の「3以上の整数nに対し、xⁿ+yⁿ=zⁿを満たす整数の組(x,y,z)は存在しない」という予想で、1995年にワイルズ(1953-)により証明されました。
 その後、n=3,4,5,14,17の場合がフェルマー(1607-1665)、オイラー(1707-1783)、ルジャンドル(1752-1833)、ディリクレ(1805-1859)、ラメ(1795-1870)等により、個別に証明されていきます。
 因みにオイラーは、n=3の場合の証明を、n=a+b√3iの場合にまで拡張しました。事実、n=a+b√3i(a,b:整数)が環である事は明らかですね。

 その後、ラメがフェルマーの最終定理の証明に成功したと発表し、ラメコーシーリュービル等の間で、大きな議論が起こる。
 ラメの証明の正偽の要点は、”通常の素因数分解をa+b√3iの形の数にまで拡張した場合、一意的に素因数分解が決まるのか?”という一点に絞られました。


ガウスと”フェルマーの定理”

 ”素因数分解の概念を通常の整数以外にまで広げると、その一意性は必ずしも自明ではない”
 例えば、4は通常の有理整数の範囲では4=2×2と、一意的に素因数分解できるが、複素数にまで範囲を広げれば、4=(1+√3i)(1−√3i)の様な分解も可能ですね。
 しかしガウスは、複素数の形(a+bi)による素因数分解が一意的な事を証明した。その上、1の3乗根であるω(=(1+√3i)/2)を使い、aω²+bω+cという形の数の素因数分解が一意的である事も証明したんです。
  つまり、ωを使ったこの素因数分解が一意的である事を使い、n=3の場合のフェルマーの定理を証明できますが。素因数分解を有理数以外に使うのを(誤解を恐れた)ガウスは嫌ったんですね。故にこの偉業を公に発表する事はなかったようです。 
 事実この”フェルマーの定理”に関しては、ガウスは”証明も反証もできない様な式はいくらでも書き出せる”とバッサリと切り捨ててました。 


クンマーと理想数(イデアル)と

 その後クンマー(1810~1893)は、a+b√3iの形の数による素因数分解が一意的に決まらないのは、分解の仕方が不十分な為だからだと考えた。
 例えば24は、2×2×2×3と一意的に素因数分解できるが、途中で素因数分解をやめると24=8×3やと24=6×4の様に異なる因数分解が可能だ。有理整数の範囲では、4=2×2の様に一意に決まった素因数分解が、複素数まで広げると、4=(1+√3i)(1−√3i)の様なものも現われる。
 故に、数の概念を広げると、今まで出来なかった素因数分解の可能性が広がる。そこで、数の概念を行き着く所まで広げ、最後まで因数分解を行えば、素因数分解が一通りに決まると考えたんです。クンマーはこれを理想数(理想因子、又は理想の素数)と名づけ、理想数の理論を築いた。

 因みに、この理想数は後に”イデアル”(ideal)と呼ばれますが、イデアルとは部分環の一種で、環Rの部分環Iが以下の性質を満たす時、Iをイデアルと呼ぶ。定義としては、環Rの任意の元xと環Rの部分環Iの任意の元aに対し、xa∈Iが成立する。
 このイデアルだが、(上の定義の様に)乗法では”積を取れば何でも自分の元になる”という特異の性質を持つ。 
 この様にクンマーは、初等整数論の延長としての理想数(イデアル)を考えついたんですが。後にリーマンの友人デデキント(1821-1916)により、クンマーの理想数は”イデアル”と名付けられ、整理され、抽象概念にまで高められた。
 因みに、有理整数における素数を素イデアルという概念に、素因数分解はイデアルを素イデアルに分解する事へと抽象化されます。  
 故に普通は、環を定義した後にイデアルを勉強するんですが、歴史的には逆で、素因数分解の拡張としてイデアルの抽象化が環よりも先に進むという矛盾が起きた。


環とリングの関係と

 最後に”環”という聞き慣れない奇妙な用語ですが。ドイツ語の”Zaulring”(数の輪)から来て、英語ではRingと各国でも”リング”を直訳した用語が使われてます。
 実はこの命名者がヒルベルト(1862-1943)で、彼はa³√4+b³√2+cという形の数の集合を考ます。
 a³√4+b³√2+cに³√2を1回掛けると、b³√4+c³√2+2aになり、2回掛けると、c³√4+2a³√2+2bという様に、この操作を続けてると、(a,b,c)の位置がグルグル回る様子が輪(Ring)の様だ思い、リングと命名したという事です。

 以上、後半は環とフェルマーの話題で少しゴッチャになりそうですが。これでも基本の基ですが、やっぱり代数学は抽象的過ぎますかね。書いてる私も疲れてきました。
 だから代数は嫌なんですよね。


補足〜群論の3つの柱とネーター環
 幾何学的な構造をもつ対象としての群論では、1つに”自己同型群”があります。ガロア群も自己同型群です。
 イメージとしては、”ABC予想(後半)”で述べた正方体の合同な8個の変換で、それらは群に転換出来ます。このような自己同型群の研究は、代数方程式や幾何学だけでなく、化学の結晶構造や多くの分野で用いられます。
 2つ目は群の構造の研究で、有限単純群を素因数分解みたいに分類する事で大きな発展がありました。以下で述べる、ネーター環もその一種です。
 3つ目は群の表現です。群を視覚的捉える事で、様々な成果が期待されます。

 因みに、ネーター環ですが。実は私の卒論がネーター環の定義でした。全く忘れてました。
 以下の3つを満たす環です。
①全てのイデアルは有限生成。
②イデアルの任意の空でない集合は極大元を持つ。
③任意のイデアルは大きくなり続ける事はない。
この3つの定義は全て同じです。
 環を局所化するとネーター環ができます。例えば、整数Zはネター環ですが。Zのイデアルは全てnZの形で表され、有限生成されるだからです。それとネーター環は素因数分解が一意に分解できる性質を持つ事でも有名です。
 ネーター環を発明した人は、アマリエ•エミー•ネーター(1882−1935)というユダヤ系ドイツ人女性で、彼女は数学の歴史において”最も重要な女性”とされてます。
 以上、寄せられたコメントを元に補足しました。


8 コメント

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Unknown (hitman)
2019-06-08 09:53:55
代数に疲れた男ですか。いい響きです。
こうしてみると、算術って本当に奥が深いんですね。
私達は普段、四則演算なんて当り前と思ってるんですが。偉大な数多くの数学者が長年積み上げた結果の学問なんですか。

群というのは代数でよく聞きますが、群が抽象的過ぎて、体の方が幾何学寄りで扱いやすい???

数の中でも有理数と実数と複素数は体になり、整数だけが環になる。確かに剰余類の概念を考えると、環と結びつくのは何とか理解できますが。ヒルベルトの環がリングになる命名には驚きです。
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hitmanさんへ (lemonwater2017)
2019-06-09 04:14:31
実は私の大学の卒論が”ネター環の定義”だったんですね。
当時もちんぷんかんぷんで、今も時折振り返るんですが、やはりチンプンカンプンです(悲)。

当初は環とは輪の様に単純にぐるぐると回るN進法的なものと思ってたんですが、全く違ったんです。知ってるつもり程怖いものはない事を思い知らされました。

そういう意味ではこのテーマを立ち上げて正解だったと思います。

因みに、環を命名したヒルベルトは、ガウスやディリクレやリーマンと並ぶ、ドイツの偉大な数学者だったんですね。クンマー、クライン、クロネッカー、デデキントと続くドイツの数学の血は脈々と受け継がれていったんですかね。

多分ヒルベルトも、ガウスの剰余類の概念をヒントにして環を名付けたんでしょうが。すごい次元での発想ですね。
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エミー・ネーターという女性 (paulkuroneko)
2019-06-09 07:05:27
懐かしいですね。
ネター環、いやネーター環ですか。

確か3つの定義を満たすんです。
①全てのイデアルは有限生成。
②イデアルの任意の空でない集合は極大元を持つ。
③任意のイデアルは大きくなり続ける事はない。
つまり、3つの定義は全て同じこと。

ネーター環を局所化するとネーター環ができる。
例えば、整数Zはネーター環ですね。Zのイデアルは全てnZの形で表され、有限生成だからです。

それとネーター環は、素因数分解が一意に分解できる性質を持つ事で有名ですかね。

ネーター環を発明した人は、アマーリエ・エミー・ネーターというユダヤ系ドイツ人女性です。彼女は数学の歴史に置いて最も重要な女性とされてます。まさかここで彼女と巡り合うとは?

何だか興奮して知ったかふりになってしまいました。でも転んださんは、いろんな事を思い出させてくれる。

今日は興奮して眠れないかな。
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paulさんへ (lemonwater2017)
2019-06-09 20:39:50
エミー•ネターですか。全く知りませんでした。流石、paulサン物知り度が違う。

厳密に言うと、可換環ですが。supとかinfとか、加群とか、専門用語連発でチンプンカンプンでした。

でも、paulさんのお陰で、概略が掴めそうです。少し卒論を読み直してみようかな。お陰でとても勉強になりました。これからも宜しくです。
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群論の3つの柱 (paulkuroneko)
2020-04-17 19:03:19
幾何学的な構造をもつ対象としての群論に関しては、第一に自己同型群があります。ガロア群も自己同型群です。
イメージとしては、転んだサンがABC予想ブログで述べた正方体の合同な8個の変換で、それらは群に転換出来ます。そのような自己同型群の研究は、代数方程式や幾何学だけでなく、化学の結晶構造や多くの分野で用いられます。

2つ目は群の構造の研究で、有限単純群を素因数分解みたいに分類する事で大きな発展がありました。

3つ目は群の表現です。群を視覚的捉える事で、様々な成果が期待されます。

このように一言で”群”といっても色々あるんですよね。
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paulさんへ2 (象が転んだ)
2020-04-18 02:31:21
自己同型に関してはブログ立てようと思ってたんですが、何だか先越されたみたいで。何時も何時も貴重な補足有難うございます。
自己同型というのた対称群を考える際、とても重要になってきますが。群の構造や表現に視点を合わせると色んな味方が出来るんですね。
とても勉強になります。
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ネーター環 (paulkuroneko)
2020-04-18 09:42:34
コメント補足ありがとうございます。

群も演算を加法と割り切れば、後はスイスイと理解できるんですが。拡張の為には色んな要素が加わってきますから、定義となるとどうしても抽象的になりますね。

更新も大変でしょうが、こちらも拙い補足ですが陰ながらも力になるつもりです。
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paulさんへ2 (象が転んだ)
2020-04-18 10:53:21
こちらこそ色々とご面倒をおかけして、何とお礼を言ったら良いのか。
お陰で書いた私も群という抽象的な存在が少しずつ明らかな形としてイメージできるような気がしてます。勿論錯覚でしょうが^_^;

数学ブログやリーマンブログに関してはちょくちょく更新しますので、ご面倒でしょうがタイムリーなアドバイスよろしくお願いします。
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