象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

”シンプソンのパラドクス”が炙りだすワクチンの有効性〜陰謀説に惑わされない為の論証力

2023年01月02日 07時26分02秒 | 数学のお話

 私が知るフォロワーには、ワクチン接種の度に39度の高熱が出る人がいる。もし私がそんな体質ならば、ワクチン接種の回避も考えるかもしれない。
 因みに、私は5度とも副反応は全くの皆無だが、モデルナ(3回目)の時は若干の微熱が出て、それで1ヶ月ほど体調がおかしくなったような気がしなくもない。
 モデルナはファイザーよりも効き目が強い(ワクチンの量が多い)ので、副反応もキツく、あるお医者さんは、ワクチンは欧米の規格で作られてるので、”(日本人の場合)ワクチンの量を少なくする必要がある”とも言っていた。

 ワクチンに関しては、接種の繰返しによる免疫の低下の噂や(YouTube等での)陰謀説が未だに流れてるが(深刻な副反応がないという条件付きで)肯定派である。それに重症化した時の事を考えると、ワクチンは捨てきれない。
 以下でも述べるが、ワクチン優等国のイスラエルでは、ワクチンが万能ではない事例が(昨年の夏ではあるが)報告されている。
 ただ、中国で再び変異株が凄い勢いで繁殖しつつあるので、ワクチンが有料になる前に接種しとこうと・・それに新年になって変異株ワクチンが確保できる保証はどこにもない。
 つまり、いつ有料になってもおかしくない状況だからこそ、無料の時に接種しておこういう気もある。
 中国のように、ゼロコロナからウイズコロナ、そして今現在の”フルコロナ”状態になったら、ワクチンはそれこそ殆ど役立たずになるだろう。そうなる前の”転ばぬ先のワクチン”なのである。
 結局、リスク管理の1つとしてワクチンがある。(神頼みと同じで)ワクチンも気休めと言えなくもないが、少なくとも陰謀説や論証が曖昧な噂に、リスク管理を惑わされたくはない。


ワクチンは効かない?

 昨年春、ワクチン接種を驚くべき速度で進めたイスラエルは新型コロナ対策の世界的模範とされていた。感染者は大幅に減り、3密やマスク着用義務も撤廃され、6月には行動規制が全て解除された。
 しかし、7月に入ると感染者が激増し、8月には死者も一気に増えた。これには時間と共にワクチンの効果が低下した可能性が指摘されてはいた。がそれ以上に、12歳以下の接種可能な年齢に満たない子どもたちの集団感染が発火点になったとされる。

 一方で、変異株には従来のワクチンが効き難いという指摘もあった。事実、イスラエルではデルタ株への予防効果は40%に満たないという報告もあった。但し、重症化予防は90%超を維持する。
 それに加え、学校が休みになり、国内のホテルも家族連れで混み合い、デルタ株が世界中で猛威を振るう中、1日最大4万人が国外に出かけた。6月には殆ど封じ込めたかに思えたコロナ感染だが、8月は10日以上残した段階で230人のコロナ死者を数えた。
 現ベネット政権は、”ウイルスと共生しながら経済をフルに回す”というソフトな抑え込みで挑んだ(が、どうやら考えが甘かったらしい)。

 感染の再拡大を受け、6月末にはマスク着用が再び義務化されたが、十分に守られなかった。医療専門家は更に厳しい措置を求めたが、春につかの間の成功を味わった人々の行動を再び引き締めるのは難しい。
 ”7月に策を講じてたら”の声も今更だが、虚しく響く。
 3度目のワクチン接種を終えたイスラエルでは、”以前はワクチンで全てが解決すると思っていた。が今となっては、ワクチンは全てではない”との教訓を思い知る。
 今後も新たな変異株が次々に出現し、感染拡大の波が繰り返される為、定期的なブースター接種が”新たな標準になる”と、ザルカ氏は予告する(東洋経済ONLINEより一部抜粋)。

 少し古い記事からの引用だが、そのイスラエルも昨夏の苦い経験からか今はコロナ渦が収束してるみたいだ。少なくともデータから見る限り、ブースター接種の効果は否定できない。
 つまり、ワクチンが全てではないが、マスクや行動規制などと組み合わせる事で爆発感染を抑え込む決定打にはなり得る。
 勿論、ワクチンによる一部の深刻な副反応や慢性的な接種による免疫の低下など、明確な論証が得られてない問題もあり、今現在のコロナ感染対策が万全と言える筈もないが、これに変わる対策がないのもまた事実である。 


シンプソンのパラドクス

 そこで、ワクチン否定者や陰謀論者には耳が痛いテーマだが、ワクチンの効果を統計で洗い出してみる。今更って感じだが、お付き合いを・・・
 イスラエルで死者が急増した昨年8月15日のデータだが、重症が515件で、うちワクチン未接種が214人、接種済みが301人。よって重症例のうち約6割は接種済みの人となる。
 このデータだけを見れば、”やっぱりワクチンは効かない”とワクチン否定者や陰謀論者らは大喜びだろう。
 以下、「シンプソンのパラドクス」より一部抜粋です。
 ワクチン優等国のイスラエルですが、国民のおよそ8割が接種済みで、未接種が1,302,912人、接種済みが5,624,634人とされる。すると、次の様に計算できる。
 未接種の場合=1,302,912人のうちの214人が重症→人口10万人あたり16.43人。
 接種済の場合=5,624,634人のうちの301人が重症→人口10万人あたり5.351人。

 これは”未接種なら16.43人が重症化するが、接種済みなら5.351人”となり、未接種の重症率は67.4%(≒(16.43−5.351)÷16.43)となる。つまり、ワクチンの有効性は67.4%となる。これは確率を見る時は、分子よりも分母が大切だという事ですね。
 更に、年齢でフィルターをかけてみる。
 ワクチン接種率が高いのは高齢者で、未接種が多いのは若年層。一方で、重症化し易いのは高齢者で、重症化し難いのは若者である。
 50歳未満にては、未接種=1,116,834人のうちの43人が重症→人口10万人あたり3.85人。接種済=3,501,118人のうちの11人が重症→人口10万人あたり0.314人。
 つまり、”未接種なら3.85人が重症化するが、接種済みなら0.314人”となり、ワクチンの有効性は91.8%(≒(3.85−0.314)÷3.85)となる。
 一方で50歳以上にては、未接種=186,078人のうちの171人が重症→人口10万人あたり91.90人。接種済=2,133,516人のうちの290人が重症→人口10万人あたり13.59人。
 つまり、”未接種なら91.90人が重症化するが、接種済みなら13.59人”となり、ワクチンの有効性は85.2%(≒(91.90−13.59)÷91.90)となる。

 しかしよく見ると、なぜ、ワクチンの有効率が67.4%(全体)から91.8%(50歳未満)や85.2%(50歳以上)に上昇するの?ってなる。
 これは”シンプソンのパラドクス”で説明できるのだが、このパラドクスは、”[母集団での相関]と[母集団を分割した集団の相関]は一致しない”というもので、言い換えると”集団を2つに分けた場合にある仮説が成立したとしても、集団全体ではその仮説が成り立つとは限らない”となる。
 単純に数学で説明すれば、A/B>C/Dかつa/b>c/dだからとて、(A+a)/(B+b)>(C+c)/(D+d)が常に成立する訳ではない。
 国民全体の母集団を、50歳未満と50歳以上に分割した集団の相関関係とみなせば理解しやすいですね。
 以上、英進館天神本館・中高一貫部の数学コラムからでした。

 このシンプソンのパラドクスでは(論理的には正しいが)直感に反する結果が得られる。因みに、こうした(疑似)パラドクスに対し、本来の(論理)パラドクスとは、正しい推論から矛盾が得られるもので、少し注意が必要ですね。
 (統計)数学は客観的だと感じてしまいそうになるが、シンプソンのパラドクスの様に”データをどう切り取るか?により主観的な結論を導く事ができる”という事は重要です。
 統計には、データをどう収集するか?収集したデータをどう解釈するか?にても、注意すべき要素が沢山あり、一筋縄ではいかない。
 陰謀説と同じで、騙されない為には各人がしっかり(数学の本質を)勉強する事が大切になる。
 つまり、見た目のデータに騙されない為には、統計やデータの扱いについては十分に注意する必要がある。専門用語で飾り建てられた陰謀説や論証が十分になされてない学説に惑わされない為にも、数学を、特に日本人が不得手とする論証力をしっかり学ぶべきだと思う。
 

最後に〜コーヒーのパラドクス

 陰謀説やワクチン否定説も直感で捉えれば、一見正しそうにも思えるし、信用できそうな論理にも思える。
 これはデータの見方と同じで、収集の仕方や解釈の仕方で結果や答えが大きく変わってくる。
 よく、数字やデータは嘘をつかないとされるが、見方によってはペテンになるだろうし、大きな錯覚や矛盾を巻き起こす事にもなる。
 パラドクスも同じようなもので、(明示されてない)前提や初期条件を無視して物事を曖昧な形で理解しようとすれば、多くは矛盾となる。事実、パラドクスはそうした仮定・推論・定義等がよく理解されていない状況で発生する。
 数字やデータは見方や扱い方によっては平気でウソをつく。しかし、数学がウソをつかないのは(いやウソをつきにくいのは)、数学そのものが矛盾を含まないよう注意深く設計され、パラドクスが起きそうな命題をうまく避け、或いはパラドクスを解消した上で取り込んでるからだ。
 故に、人口削減説の陰謀論やワクチン接種による免疫低下の噂などは、きちんとした論証を経ないままネット上を流布する。
 結局、我々庶民は何を信じたらいい?とネットの海の中で彷徨い、正確な論証に辿り着かないまま何も知らずに死に絶えてしまう。

 そこで問題です。
 コーヒーを飲むのが健康にいいかどうか、ある町で調査が行なわれた。
 1日1杯以上コーヒーを飲むグループとコーヒーを飲まないグループとを10年間調べた結果、コーヒーを飲む方が飲まないグループよりも約2倍の割合で癌になる率が高い事が判明した。しかし、調査班はこの調査に基づき、”コーヒーは癌を防ぎ、癌になる率を約半分に減らす”と結論した。そして、それは学界で正しい推論だと認められたのだ。どうしてだろうか?(「論証力を磨く99問」より)

 ヒント=母集団をある町ではなく、日本全体の集団で考えてみよう。



6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
コーヒーと大腸がん (paulkuroneko)
2023-01-02 15:52:05
国立癌センターの報告では、日本全国10保健所を選出し、40~69歳の男女約10万人を2002年までの10年間の統計を調べたそうです。
特に、コーヒーと大腸がんとの関連結果は興味深いものでした。
男性は飲酒や喫煙もあって、コーヒーと大腸がんとの関連は殆ど見られなく、逆に女性の場合は癌になるリスクが半分近くにまで減っていました。特に3杯以上コーヒーを飲む女性の場合、大腸がんで0.7、浸潤がんで0.6、結腸がんで0.4という結果です。
癌だけでなく死亡リスクも、男女や年齢を問わず40%前後のリスクが減少したとされてます。

これはカフェインとポリフェノール(クロロゲン酸)の相乗効果によると考えられてます。
欧米ではコーヒーと死亡リスク減少の研究は盛んに進められてましたが、大腸がんに関しては結果がバラバラで、疫学研究の結果は一致しなかったとされます。
こうやって多角的に分析して統計を出すと色んな事が解ってきます。
今の日本人に一番欠けてる論証力を鍛え直す時期に来てるといえますね。
返信する
paulさん (象が転んだ)
2023-01-02 17:58:02
コーヒーと大腸がんの関係
とても参考になりました。
実は、問題を出しておいて答えを用意してなかったので、とても助かります。

論証力に欠ける事を”ロジックアレルギー”と呼ぶ事もありますが、数学と数字を混同してる人が多すぎるんですよね。
日本人はデータをあるがままに信じすぎる。が故に、陰謀論や論証が曖昧な学説に対してもそのまま受け入れてしまう。
日本人全てが”理屈っぽくあれ”とでもないんですが、理屈を論理で捉える癖をつけても損はないと思うんですが。
そういう私も数学アレルギーになる事がよくあるので、論証力が弱いんでしょうね。

旧年はお世話になりました。新年もよろしくです。
返信する
ゾンビリミット (tomas)
2023-01-03 12:16:00
って映画を
以前に転んださんが紹介されたけど
あれはワクチン供給不足でパニックに陥った民衆の悲惨さを描いてたんですよね。

でも、今年はロシアウクライナ戦争
の進展如何では十分なウイルスの確保が出来るんでしょうか?
ワクチン否定派や陰謀論者らが供給不足で高騰したワクチンに群がるケースが出てくるかもしれませんね。
それとも、感染者をみな抹殺しようという国家の陰謀が働くんでしょうか。
返信する
tomasさん (象が転んだ)
2023-01-04 01:29:25
ゾンビリミット
懐かしいですね。
よく覚えててくれました。感謝感謝です。

ひょっとしたら、香港デモと同じ様に、コロナウィルスがロシア=ウクライナ戦争を終結させる決定打となったとしたら、我ら人類は一生コロナウイルスに頭が上がらないかもです。

一応、5度目のワクチン接種は終えましたが、今年はワクチンの供給不足があり得るかもですね。もし有料となり、高騰したら、それこそ国民はワクチンパンデミックに陥るでしょうか。
そういう意味でも、今年は心配事の多い年になりそうですね。
旧年と同様、新年も宜しくお願いします。
返信する
論証力不足 (UNICORN)
2023-01-04 13:57:00
サッカーで言えば
決定力不足となるかもしれないが
普段から数学的思考に慣れてさえいれば、それ程には論証力不足には陥らないと思う。
本のレヴューにもあるように、英米では数学が得意な人が哲学や論理学を学ぼうとするし、文学が得意な人も数学を学ぼうとする。
一方で日本だと、数理に弱い人は文系という流れがある。故に安易に文系に流れ、余計に数理的思考が脆弱になり、論証力不足に陥る。

論理が全てだとは限らないけど、少なくとも陰謀説は論証力不足から来ることは明らかなようだ。
返信する
UNICORNさん (象が転んだ)
2023-01-04 17:29:58
勿論、頭デッカチになってばかりじゃいけませんが・・・
そういう私は昨月辺りから、寝起きがとてもキツくなってきて、お陰で正月の三が日は飲み過ぎと食い過ぎで少し体調が悪いです。
小屋の修復を旧年中に全て終えるつもりでしたが、少し残ってしまいました。
新年にかけてやる事が結構残ってしまいましたが、マイペースでやろうと思ってます。

そういう事で、今年もよろしくお願いします。
返信する

コメントを投稿