「有理数と無理数」では、偉そうに有理数と無理数の違いを大まかに述べました。
そこで今日は、”代数的数”と”超越数”という普段は聞き慣れない数の世界を旅したいと思います。
大晦日というのに、少し寂しいテーマですが、宜しくです。
まずは簡単におさらいですが、実数は有理数と無理数に分かれ、有理数は整数(自然数と0を含む)と整数でない有理数に分かれる。整数でない有理数は有限小数と循環小数に分かれます(図参照)
一方で、無理数は代数的数と超越数とに分かれる事をまずは頭に入れといて下さい。
超越数
いきなり結論ですが、代数方程式の解とはならない数を”超越数”といいます。
そこで(少し堅苦しい言い方ですが)、1変数で係数が整数の方程式を代数方程式とすると、
a₀xⁿ+a₁xⁿ⁻¹+…+aₙ₋₁x+aₙ=0
(a₀,a₁,…,aₙは整数でa₀≠0)
の形の方程式が代数方程式となります。
因みに、xを変数、nをその方程式の”次数”といい、1変数のn次方程式になってますね。平ペッたく言えば、高校1年程度で学ぶ(のかな?)係数が整数の方程式と思って下さい。
ここで、ある代数方程式の解となる複素数(実数を含む)を”代数的数”という。
例えば、2x−3=0の解2/3は代数的数となり、全ての有理数は代数的数である事が言える。次に、x³−5=0の解は³√5となり、n乗根は全て代数的数となる。更に、x²+1=0の解は√(-1)となり、2iや3iなどの虚数も全て代数的数となりますね。
一方で、円周率πや自然対数の底e、または2^(√2)などはどんな代数方程式の解にもならない事が証明され、このような複素数(実数を含む)が”超越数”となります。
これら超越数の発見や証明の歴史を少しだけ触れますが、πはフェルナンド・リンデマン(1882)により証明され、”円積問題”解決のきっかけとなった。つまり、πが超越数が示された事で、定規とコンパスだけでは、ある円の面積と同じ正方形を作図する事が不可能という事が証明された。これは、体のある元の平方根を追加する操作の有限回の繰返しでは、πを含む様な新たな体は得られないと言い換れます。
更に、任意の0でない代数的数aに対するeᵃが超越数である事も証明(リンデマンの定理)されました。
また、ネイビア数eはシャルル・エルミート(1873)により証明された。これは部分積分と階乗関数≫指数関数を用い、eを満たす代数方程式が存在しない事を背理法を使って証明しますが、高校の数学でも何とか可能なので、興味のある方はトライしてみて下さい。
更に、2^(√2)やe^π(=(-1)⁻ⁱ)も超越数で、これは”ゲルフォント=シュナイダーの定理”(1934)から導けます。一方で、0でない代数的数θに対して、sinθ、cosθ、tanθも同じ定理から超越数である事が導けます。
因みに、この定理は”a≠0,1なる代数的数で、bが代数的無理数である時、aᵇは超越数である”事を証明したもので、ヒルベルトの7番目の問題としても有名ですね。
不可思議な数の世界
つまり、円周率πやネイピア数eが絡むと、結構な確率で超越数になる。というのも、”まだ超越数だとわかっていない数”が沢山あるからだ。例えば、e+πやeπなどで、π+e^πやπe^πは証明されてる(ネステレンコ、1996)のに、超越数って摩訶不思議ですね。
「有理数と無理数」でも書いた様に、一般に実数は有理数(=割れる数)と無理数(=割れない数)に分類され、無理数は更に(代数方程式の解となるかならないかで)実の代数的数と実の超越数とに分けられる。
ここで、代数的数の全体は(代数的方程式の係数が加算無限の有理数より)可算無限個ですが、実数の全体は非可算だから、超越数の全体も非可算となる(カントール、1874)。つまり、超越数の方が代数的数より圧倒的に多い事に注意です。
66年から68年にかけ、アラン・ベーカー(英)は、それまでに得られた定理の多くを包合する超越数の新たな定理を得ます。
”α₀,α₁,…,αₙを0でない代数的数とすると、仮に、logα₀,logα₁,…,logαₙが有理数体上線形独立ならば、1,logα₀,logα₁,…,logαₙは代数的数体上線形独立である”という定理で、これにより、”α₀,α₁,…,αₙを1でも0でもない代数的数とし、1,β₀,β₁,…,βₙを有理数体上一次独立な代数的数とすると、α₀(^β₀),α₁(^β₁),…,αₙ(^βₙ)は超越数となる”と拡張できる。
この定理で、n=1の時にゲルフォント=シュナイダーの定理が成立する事に注意ですが、これにより、前述のπやeや2^(√2)のほか、e^(απ+β)やsin(απ+β)、cos(απ+β)、tan(απ+β)などが超越数となる(但し、α,β≠0)事がただちに証明できるとされます。
以上、「遊ぶ数学」や「高校数学の美しい物語」などのコラムを参考にまとめましたが、今では殆ど全ての複素数が超越数である事が分かってます。
ただ、超越性が示されてる複素数のクラスはほんの僅かであり、与えられた数が超越数であるかを調べるのは困難とされる。例えば、ネイピア数と円周率は共に超越数にも関わらず、それを足しただけのπ+eですら超越数かどうかが分かっていない(ウィキ)。
全く、0から9を組み合わせただけの数っていうのは不思議な生き物?で、単純な遺伝子配列を持つコロナウイルスの全容が未だに解明できない様に、数字の神秘と謎はこれからも人類の知能を弄び続けるんでしょうか。
因みに、新型コロナウイルスのゲノムは僅か1本のRNAから出来ていて(因みに、インフルエンザは8本)、この1本鎖は約3万文字の塩基の並びで構成され、mRNAとして機能する。このRNAという設計図には、”ウイルス(ゲノム)を複製するRNA重合酵素”や”ウイルスが作ったタンパク質を切断して活性化させるタンパク質切断酵素”や”ウイルスの殻に存在して感染性を決めるスパイクタンパク質”や”殻をつくるタンパク質”などが記載されている(国立遺伝学研究所)。
これと同じ様な事が、自然界に存在する数字にも当てはまるんですよね。素数を作る数字、無理数を作る数字、超越数を作る数字などなど・・・せめて、ウイルスを撲滅する超越数を発見して欲しいもんですね。
例で挙げられた円積問題ですが、もっと言い換えれば二次方程式を解くことの繰り返しでは得られない。
つまり、超越数であることの証明は不可能の証明ともいえる。
log2はリンデマンにより、π+log2はベイカーによって超越数が証明されてるのに、π+e
は証明できない。同じ超越数どうしなのに、その謎も超越のレベル。
与えられた数の超越性の判定はその数ごとに異なる方法が必要とされるけど、新型コロナもウイルスが変異する度に、それに見合うワクチンが必要となるのかな。
新年もよろしくお願いします。
超越数に関しては、カントールの無理数の考察の過程で知ったんですが、無理数自体が超越した存在なのに、それをも超えそうな不可能の証明という難題を伴う重要な数字の世界なんですかね。
何だか新年というのに、少しブルーになりそうなテーマで、すみませんです。