象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

「戦争する脳」〜戦争をしたがる独裁者の脳とは

2024年01月14日 06時49分51秒 | 読書

 「自殺する脳」でも書いたが、自殺をするのは人ではなく脳である。
 同じ様に、戦争をするのも人ではなく脳である。厳密に言えば、プーチンやネタニヤフみたいな独裁者の脳である。

 ”<戦争は人類最大の狂気>というが・・・精神的な病が日常と繋がってる様に、戦場と日常も地続きである。戦後日本の自衛隊の奇妙な存在の仕方やイラク戦争の泥沼に現れた病理現象を読み取り、戦争に突き進むメカニズムと心理を分析する。医療の現場と脳科学から考察した精神医学的戦争論”
 との触れ込みで登場した「戦争する脳〜破局への病理」(計見一雄著)だが、副題が語る様に、戦争とは破局そのものである。だが、そういう事が判っていながらも、独裁者は戦争を仕掛けたがる。


戦争を遂行する脳とは

 著者は、脳が戦争をする理由として、日常の意識と病気の意識との間には判然とした切れ目がなく、”戦争は止めようとしても止められない”と説く。
 不祥事などが起きた時、メディアは”あってはならない事が起きた”と騒ぐが、人が高度な脳を持つ限りは、戦争は起きる。つまり、起きるべくして起きるのが戦争であろうか。
 一方で、意外に映ったのが”肉体の重要性”で、戦争も全ては”人”が行うものであり、人には”肉体”がある。これを無視して精神論は語れない。
 太平洋戦争でも、この肉体性を無視した結果、特攻隊が生まれた。水や食料の補給や排泄を無視した野蛮で封建的な指揮体系は、現場に従事する人の”肉体”をも考慮する必要がある事を痛感させられる。
 震災の現場でも(決まった様に)問題になるのが、食料や排泄や衣住の混乱である。更に、戦場でのメンタル・ブレーク(精神崩壊)への対応は”素早く近く”が何よりも重要で、これも政府の震災への対応と共通するものがある。

 ”都合の悪い現実を否認する思考癖こそが無茶な戦争を引き起こす”という著者の主張は、”前向きな思考が全てを解決する”という、一時期流行った稚弱な一方通行型思考に対する強烈な皮肉でもある。
 そういう意味では、自己否定が苦手な日本人の脳も戦争をしたがる民族なのかもしれない。
 一方で、”行為(戦争)の発端となるのは欲望”であり、”戦争実行までの間、脳は働かない”という理論を前提に、戦争に至るまでの指揮者の脳の動きを考えた本でもある。
 戦争という重大な決定を行う前には、それを止める為に綿密な計画を練る事で対処しようとするが、その為に活用されるデータの呼び出しを担当するのが(大脳皮質の中でも古く下位の部位にある)海馬辺縁系である。
 下位とは、より情動に近い所であり、好悪愛憎の感情で動く。つまり、都合の悪い記憶は出してくれない。言い換えれば、”人の脳では愛憎なしの判断はできない”となる。
 故に、戦争遂行脳の役割を引き受ける指導者は、”戦争する脳”を肝に銘じてもらいたいというのが、著者の本音でもある。

 以上、レビューや書評から大まかにまとめました。
 プーチンやネタニヤフみたいな狂気の独裁者には必読の書であると思うのだが、いま彼らの脳には何が映ってるのだろうか・・・


補足

 キューバ危機を回避できた理由として、討議の重要性と時間の必要性が挙げられている。
 最適な対応を導き出すには、当時のケネディ政権の様に、多様なメンバーによる議論をある程度続ける事が好ましいし、それにより選択肢も増え、ある政策を採用した場合に生じうる結果の予想頻度も上がる。
 次に、その討議を可能にしたのが、ミサイル基地が発見されてから海上封鎖が決定されるまでの4日という時間である。
 この4日間で、ExCommのメンバーは様々な意見変遷を経験した。国際危機が生じた時は即座にその対応を取る必要があり、時間的な余裕はない。だが、個人の即決によって政策が決まれば、結果は悲惨な事になりかねない。
 仮にケネディが当初の持論であった空爆案を採用してれば、結果は最悪であった筈だ。
 一方で、米政府による海上封鎖の発表から実際に封鎖されるまでは更に3日という時間があった。この3日という猶予期間を米国が用意したからこそ、このソ連に時間を与えたという事実こそが、最も素晴らしい米国の選択である。お陰で、ソ連側は様々な選択肢を考慮でき、最終的なミサイル撤去へと繋がったのである。
 勿論、この2つの条件が揃えば国際危機は必ず回避できるという訳ではないし、討議の時間があれば、必ず最善の選択が採用されるという保証もない(「キューバ危機(1962)はなぜ回避できたのか?」より)。

 同じ様に、「戦争する脳」を読んだからとて、地球上から戦争がなくなる訳でもない。
 ただ、時代やその時の国際情勢が戦争を生むのではなく、人間の脳の仕組みこそが戦争を引き起こす事は知ってて損はないだろう。
 とても平凡なタイトルだが、考えさせられる非凡な著である。



コメントを投稿