アイザック•ニュートンは何時になくそわそわしていた。タキシードの着替えた所まではよかったが。肝心の発表の論文は白紙だった。
ニュートンの恩師であるバローが痺れを切らしてやってきた。
”アイザック何もたもたしてるんだ!論文発表の時間が迫ってるんだぞ”
”悪いけど何も準備してないんだ”
”適当に言っとけよ、お前のイケメン目当てに、貴婦人しか集まってないんだから”
”でも万有引力とかいきなり言っても、理解してもらえるかな?”
”互いが引き合う力の事だ。恋の力みたいなもんだって言っとけよ、貴婦人には大受けだ〜な”
”でも恋って破れ去る為にあるんだろ?私が発見したのは万能の引力なんです。全てに存在する引力の事なんだよ”
”万有引力だって例外もあるさ、適当にごまかしとけよ”
”例外があっちゃ困るんだ。万有引力の発見では、先取権の件でロバート(フック)にゴタゴタ言われてんだ。曖昧さは数学者にとって命取りなんです”
”だったら正直に言うか?「ケプラーの法則」から簡単に導き出せますって?”
”そんな事言えるか!口が裂けてもケプラーの名は出せない”
”だったら、ガリレオの望遠鏡の話でもするか?”
”望遠鏡を覗いてたら、鳥の糞が顔の上に落ちてきたってやつか?”
”鳥の糞じゃあんまりだろ?他にいアイデアはないのか?”
アイザックは再び黙り込んだ。
そこに、作家で友人のウィリアム(ストゥークリ)がやってきた。
”何ゴタゴタ揉めてんだ?”
アイザックの表情が明るくなった。
”丁度よかった。君は作家で詩人だろ?何かいいアイデアはないか?”
バローが頷いた。
”万有引力発見のヒントの事さ。何か猿でも解る様な発見のアイデアがほしいんだよ”
ウィリアムは呟いた。
”簡単な微分方程式を使った運動方程式の事を言えばいいじゃないか?”
アイザックは眉をしかめた。
”微積分の話はダメだ。ライプニッツとの先取権で揉めたばかりだ”
ウィリアムは呆れ返った。
”君は世界一の数学者だろ?そんな気弱な事でどうする”
バローはアイザックをかばった。
”法廷闘争にまで達してんだ。これ以上騒ぎを大きくしたくない”
とうとう3人は黙りこくった。
ウィリアムが口を開く。
”鳥の糞がダメなら、真っ赤なリンゴにしよう。情熱的な物語にするのさ”
アイザックは頭をかしげた。
”赤いリンゴ?万有引力に何の関係がある”
ウイリアムは自慢げに語る。
”イブが禁断のリンゴを噛ろうとして、掴み損ねたリンゴが木から落ちたのさ”
アイザックは再び首を傾げた。
”アダムもイブも万有引力には何の関係ないだろ?”
ウィリアムは笑った。
”つまり、地球の引力がアダムとイブを救ったのさ。これで全てがハッピーエンドだ。貴婦人も大喜びさ”
バローも大笑いした。
”万有引力が人類を救ったのか?それはいい。アイザックの発見が人類を救うんだな”
アイザックも微笑んだ。
”オレの発見が人類を救ったのか?悪くはないおとぎ話だな”
アイザック•ニュートンは、多くの貴婦人の前で以下の様に演説した。
”皆さん、万有引力といきなり言っても理解に苦しむでしょう。勿論私もです、だから何も心配なさらないで下さい。
万有引力とは万能の引力の事です。ある日、イブは禁断の果実を噛ろうと、木にぶら下がってる赤いリンゴに手を伸ばしました。それを見かけたアダムは大声で叫びました。そのリンゴは毒だ!食べちゃダメだと。
慌てたイブは、リンゴを取り損ない、地面に落としてしまいました。近くにいた猿がそれを食べた途端、死んだのです。イブは、貴方(アダム)が私を救ってくれたのねと感謝し、抱き合いました。
アダムは言いました。私が君を救ったんじゃない、リンゴを地面に落とした神の引力が君を救ったんだ。
そう、神が授けた万能の引力がイブを救ったのです。私はこの万能の引力を必死で研究しました。そして、この引力が地球上の何処にでも存在する、万能の力である事を発見したのです。私はこれを「万有引力」と名付けました。
この発見に難グセを付ける人もいます。しかし真偽はどうであれ、神が授けた万能の引力である事に、最初に気付いたのはこの私です。そして、この神の引力が人類を地球を救ったのです”
この時、一人の貴婦人が叫んだ。
”赤いリンゴが地球を救ったなんて、アイザック!貴方は何てロマンチックな方なの!私の心は、貴方の万能の引力に惹き付けられっ放しですわ”
師匠のバローは呟いた。
”万有引力でリンゴが落ちるではなく、恋に落ちるとはこの事かの?”
追記
このストーリーに登場する人物は全て実在する人物で、特にロバート•フック(1635−1703)とゴットフリート•ライプニッツ(1646−1716)はアイザック•ニュートン(1642−1727)の最大のライバルでもあり、超天才でもあります。
彼らとの先取権に関する大論争は世界を大きく賑わせました。
先ず、”フックの法則”の発見や”ボーアの法則”への貢献で有名なフックの場合、先に仕掛けたのは彼の方でした。でも同じ英国人で、論文をやり取りし合う仲だったらしい。
ニュートンのフックに対する嫉妬が元で、万有引力に関しては先駆者である筈のニュートンもヤバイと感じたのか。でもニュートンの評価が下がる事はありませんでした。逆にこの大論争のお陰で、死後のフックの評価は鰻上りです。
一方、ライプニッツとの微積分の先取権に関しては、ややライプニッツに軍配が上がります。成果を得たのはニュートンが先ですが、出版はライプニッツが先だという事で、これまた大きく揉めたんですが。
ニュートンは級数展開を大きく発展させ、物理学全般に微分積分学を適用し、ライプニッツは、数の無限分割から微分を発見し、今日の微積学の記法を開発しました。
”ライプニッツの盗作だ”とニュートン親派が因縁をつけた事が、逆にニュートンを追い詰めた形となりました。
同じ時期にこんな知の偉人が3人も同時に出現すれば、トラブルになって当然ですがね。
2人に関しては、ブログで別途立てるかもです。以上追記でした。
。いろいろ気つかわせてごめんね(^o^;
ニュートンとリンゴの話はよく知ってるけど、間にアダムとイブをかませることで神秘的なロマンス話にしたのね。出来すぎだぞコノヤロウ(^^♪
でも一つだけ質問で〜す。ケプラーと万有引力ってどう関係があるのかな?それにケプラーの法則から簡単に引き出せるってどういう事?(*_*)
つまり、ニュートンは微積分を力学の視点から抽象的なものと捉えました。一方ライプニッツは数の無限分割から微分を発見し、明示的な記号として微積分を捉えました。お陰でライプニッツの記号は広くヨーロッパの数学者に採用され,強く支持されました。
ライプニッツは思考を記号化させ、微積分の記号化は,簡略化をともない、数学を大きく進歩させました。
定積分の計算も実は、ケプラーがワインの樽の体積測定からヒントを得て、一般図形の面積計算を理論化したとされます。
転んだサンの言う、ケプラーの名前は絶対に出すな!とはこういう事ですかね。
私が知ってる限りでは、ニュートンがライプニッツの論文を盗んだという逸話を聞いた事があります。真偽は不明ですが、有り得ない話でもないです。
事実、ライプニッツは1684年に微分法を発表し、1686年に「深遠な幾何学」を出版し積分法を発表します。ニュートンが微積分法を発表するのは、1687年出版の「プリンキピア」の中です。
当時はそれほど問題にはならなかったとされますが。ヨーロッパでは特に微分法といえばライプニッツだったので、ニュートン信者は苦々しく思ったんでしょうね。後に大論争になり、結果としてライプニッツに軍配が上がるんですが。
ただ、ケプラーの法則と引力(重力)の関係はニュートン以前にも知られており、ケチが付く原因にもなってますね。でもこのショート5は自分でも出来がいい作品だと思います。
お褒め頂いて有難うです。
私もそういう話は何かで聞いた事あります。ニュートンな盗みの天才だという類ですね。そのニュートンも”ケプラーという巨人がいなかったら、遠くを見つめる事は出来なかった”とも言ってますね。
実はこのショートもそういったニュートンを揶揄するつもりで書いたんですが。読んでもらえて光栄です。
何だかニュートンに関してモヤモヤしてたのが一気に吹っ飛んだ感じです。
ロバートフックは《ニュートンに消されたもう一人の天才》とも言われてます。フックの法則で超有名な科学者ですが、生物の最小単位を細胞(セル)と名付け単位としての細胞を最初に世界に知らしめた。時計の小型化に必要なアンクルの発明でも有名です。
ニュートンを凌ぐ才能を持ちながらその多才さと多忙さと社会的不器用さが故に、ニュートンに美味しい所を持っていかれたんでしょうか。故に、《英国のレオナルドダビンチ》とも呼ばれてたそうです。
それと実はフックの重力の論文をニュートンが隠してたという事実が判明してます。しかし多忙なフックはニュートンと天文学の論理を頻繁にやり取りし、ニュートンの万有引力の発見に大きく貢献したのは確かでしょう。
ライプニッツとフックという2人の大天才に囲まれたニュートンは、心の中は不安だらけだったでしょうね。
サイトで少し探っただけですが、これだけの事が出てきますね。余計な補足でした。
という訳で私も少し調べましたが。ニュートンを凌ぐ天才だったようですね。”ボイルの法則”にも大きく貢献したと。
でも、性格的には色々と問題もあったみたいで、科学者同士の論争は大体において奇悲劇に終りますね。
補足、本当に助かります。paulさんのコメントはブログに追記で補足する予定です。
コメントどうもです。