象が転んだ

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”おもてなし”とキリストの生贄〜ショートストーリーその3〜(20/7/5更新)

2019年09月19日 06時13分17秒 | ショートショート

 ある日、高校の同級生という男から電話が掛かってきた。
 ”A高校7#年卒業の大藤君だろ。オレだよオレ鈴木、知らないかなぁ〜。クラスの文化祭で一緒にプロレスをしたじゃない、覚えてない?”

 文化祭のプロレスの事は覚えてたが、そいつの事は知らなかった。名前は聞いた事ある様だったが。
 いきなりの電話だったが、不思議と悪い感じはしなかった。


久しぶりの再開とプロレス談議

 ”同窓会と言っても、大袈裟なもんじゃなくてね、プロレス好き同士ワイワイやろうと思ってさ”
 ”ああ、思い出してきたよ。有下がタイガージェット•シン役を演じ、結構盛り上がったのは覚えてる”
 ”そうそう、君は藤波辰爾役だったな。あのバックドロップは僕の目に強烈に焼き付いてる”
 ”ああ、思い出した。君はレフェリー役だったな”
 ”嬉しいな、思い出してくれたね。オレ、途中転校してきたから、みな俺の事をあんまり覚えてくれないんだ”
 ”でも何故、いきなり同窓会を開くって事に?”
 ”ああ、先日の深夜にプロレスを見てて、会社の同僚とプロレスの話で盛り上がってさ。それで高校の時の文化祭を思い出したんだ”
 ”俺も、今でもごく偶にプロレスは見るけど、懐かしいと言えば懐かしいね”
 ”それで、あの時プロレスをした仲間数人とプチ同窓会を開こうと思ってさ。ほら、大袈裟にすると逆に誰も集まんなくて、気不味い思いをする事ってよくあるじゃない”
 ”ああ、俺も一度行ってウンザリしたよ。ホントに仲の良い奴って誰もいないんだから。同窓会って地元の政治家と結びついて、何だか奇怪な感じなんだよな”
 ”そうそう、それで数万寄付させた挙げ句、5千円のチケットを5枚ほど買わされるんだよ”
 ”君は寄付したのか?金持ちだな。オレはチケット代を2万だけにケチって、渋々出掛けたよ。でもプロレス仲間は誰一人いなかったな”
 ”不味い料理に不味い酒、最悪だったね”
 ”君も10年前の同窓会に来てたのか?”
 ”ああ、クラスのまとめ役をやってたけど、途中で頭にきて投げ出したんだ(笑)。でも、一応会場には足を運んだよ、ホント最悪だったな”
 ”あの時は、みんな不平タラタラだったさ。俺も政治屋には関わり合いたくなかったから、居留守使って逃げ回ってたけど、最後に捕まってね”
 ”それでどう?君は参加してくれるよね。場所は、駅前のホテルで7名ほどを計画してる。詳しい事が決まったらメールするよ”
 ”ああ、わかった。わざわざ有難う”
 ”いやこちらこそ、いきなりの電話で失礼かなと思ったけど、喜んでもらえてよかった”

 
豪勢な筈のプチ同窓会

 鈴木が計画したプチ同窓会は、1週間後の土曜日の夜7時、ホテルの屋上階を使って豪勢に開かれた。
 当の鈴木はかなり出世してるらしく、タキシード姿で3人の魅惑的なエスコートレディを引き連れていた。
 プロレス仲間の有下も長瀬も渡田も来ていた。”おもてなし”の場はすぐに和やかになった。

 私は早速、鈴木に声をかけた。
 ”鈴木くん、こんな豪勢にして、一人5千円ポッチで済むのかい?それにコンパニオン代も相
当に掛かるだろう”
 鈴木は自慢げにタバコを取り出した。
 な〜に、心配ご無用さ。紹介し忘れてたね、俺はイベントマネージメントの会社を立ち上げてんだ。全ては会社の経費、これも我が会社の宣伝なんだよ”
 ”へえ〜、君は社長なのか?出世したな”
 ”小さい会社だからね、こうやって宣伝しないと。CF広告って高く付くし、こういうのが意外に効率いいんだ”
 ”懐かしくて、楽しくて、宣伝にもなる”
 ”そう、一石二鳥。おもてなし〜は営業の基本なのさ。あいつら早速、女にチョッカイ出してるな。でも心配ご無用、彼女たちは我が社員だから、ああいうのには慣れてるよ”
 ”あんなのが社員なのか。羨ましい会社だな”
 ”やめといた方がいいね。立ち上げるのに苦労したんだから、派手な仕事は競争も激しいし、厭な事も多いし”

 
同窓会の理想形が、ここにはある?

 男が5人に女が3人。酒池肉林とまではいかないが、ワインにシャンパンに七面鳥に、夜景をバックに若い女をを囲い、結構な程までに大いに盛り上がった。
 ”ああ〜同窓会の理想形がここにはある”

 ある種の悦楽と放蕩に耽ってた時、カクテルドレスを纏った一人の女が、薄笑いを浮かべながら耳元で囁いた。
 ”ねえ、何だか出来過ぎだと思わない?”

 私は目のやり場に困りつつ、女を見つめた。
 ”まあね、鈴木という男の素性は俺たちには判らないし、でも悪い奴じゃないみたいだな、今風のお調子モンさ”

 ”ホントにそう思う?ホントに?”
 女は私をベランダへ誘い出した。両肩を大きく曝け出した女は、とても社員とは思えなかった。
 ”君は、鈴木が経営する会社の社員と言ってたが、本当なの?失礼な言い方だが、パッと見、その手のコンパニオンかと思ったよ”

 ”アハハ、誰がそんな事言ったの?あの人鈴木っていうの?今初めて知ったわ”
 ”それってどういう事よ。君はあの男を知ってるんじゃなかったのか。だって、とても親しそうにしてたじゃないか”
 ”私はある事務所から呼ばれてきただけなの。2時間で5万の仕事があるって、話を合わせお酌するだけでいいって”
 ”3人で15万か?鈴木に払えるんだろうか?勿論だが、俺は払うつもりはないぜ”
 ”お金に関しては何も心配はいらないわ。鈴木という人だっけ?その人から前金で既にもらってるから”


最悪の展開?

 大藤は以前、浮気調査の仕事をしていた。元探偵の勘が瞬時に働いた。

 私はイベントマネージャーが一斉に逮捕された、ある事件を思い出した。某有名私大のイベントサークルを舞台にして行われた、大規模な輪姦事件だ。
 パーティーにプロの女を忍ばせ、男性会員を誘い、性行為をさせ、後から大金をがっぽりと稼ぐ巧妙なやり口だった。

 私は探偵マーロウの気分に浸った。
 ”君はプロの女なのか?俺たちを誘い込み、
金を強請ろうという魂胆なのかな?”
 女は表情を変えた。
 ”バカ言わないでよ、性を高く売るつもりも安く売るつもりもないわ。でも何か匂うの、とても怖い事が起きるって”
 ”鈴木っていう奴は、そんな策謀家には見えないんだが”
 ”もうここを出ましょ?何だか怖い気がする。2時間近くなるし、任務終了だわ”
 ”鈴木は何か妙な事口走ってなかったか?”
 ”世紀末とか生贄とか、訳の判らない事をブツブツと喋ってたかな”
 ”やっぱりカルトだ。何か恐ろしい終末が待ってるかもだ”

 私は、知り合いの警察にメールを送った。
 ”駅前のセントラルホテルの屋上へ、至急警官を送ってくれ、何か怖い事が起きそうだ”

 
キリストの生贄とハルマゲドン

 その時、鈴木が大声で叫んだ。
 ”さあ、皆さん集合、これから二次会で〜す。さあ、みんなここに集まって”

 ”鈴木くん、もう少し楽しもうじゃないか。せっかくレディーとお友達になりかけたとこだ”
 私は時間稼ぎをした。プロレス仲間には、予めメールを入れといた。
 何かヤバそうに感じたら、サインを送るから一斉に逃げ出そう”

 私は3人に目配せをした。
 女が鈴木に声を掛けた。”もう少し楽しみましょ?せっかくの同窓会よ、それにもう少しここに居たいの。いいでしょ?”

 鈴木は気不味そうに苦笑した。
 ”仕方がないな、ではもう10分だけだ。それを過ぎたら二次会に出かけるぞ。いいな”

 私は、仲間3人をさり気なく鈴木から引き離し、夜景が見えるベランダへと誘った。
 ”警察にはもう知らせた。もうすぐここに到着する。何かあったら地べたに這うんだ”

 鈴木は女2人とイチャついてた。すると、いきなり銃をぶっ放した。真っ赤な鮮血が一面に飛び散った。
 撃たれた女たちはピクリとも動かない。薄手のピンクのドレスが、赤々と鮮やかに染まっていく。
 そう今夜の宴会は”ハルマゲドン”だったのだ。僕らはは、キリストの生贄になる筈だった。

 ”今日はどういう日だか知ってるね?大藤くん。そう、善と悪の戦いを終わらせる最終戦争の日なんだ。俺は君たちを安住に地へと導き、神になる”

 私は時間稼ぎを再び試みた。
 ”高校の文化祭の時、私はレスラーで君はレフェリーだったよな。しかし、審判を下すのは君じゃない、我々なんだ。
 レフェリーなんてオマケに過ぎない。全てはレスラー同士で話がついてんだよ”

 ”お前ら虫けらには、何ら審判を下す権利はない。神の元で生かされてるだけだ。神のお告げがあれば、それは死ぬ時だ。楽に死なせてやろうと、若い女と派手な舞台まで用意してやったのに”
 ”鈴木くん、悪いが死ぬのはアンタの方だ。女2人を殺した時点で、君は神から裁かれる。今がその時さ。つまり、虫けらはアンタの方さ”

 その時、警官の声がした。”銃を捨てなさい”
 鈴木は銃を警官に向け、引き金を引いた。数発の銃撃音の後、力なく
神に選ばれし筈の男は倒れた(ジ・エンド)。



6 コメント

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輪姦事件と思いきや (HooRoo)
2019-09-19 13:38:16
同窓会からプロレスネタに 
コンパニオンからハルマゲドンへ
最後は銃撃戦で 呆気なく玉砕なのね

プチ同窓会が実は、狂人のカルトが仕組んだワナだったっていうこと?
結局 知らない人には付いていっちゃダメって事よね

何だか ショートショートからミドルロングになりそな感じ(・o・)でも許しちゃう🐰
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カルト系集団殺戮 (象が転んだ)
2019-09-19 16:04:44
このストーリーは実話とある映画を参考にしたので、少し長くなりました。特に前半部の実話に近い部分を削れば、ショートにはなったかもですが。

後半は、映画ネタを参考にした部分で。同級生とその夫婦を自宅に呼んで、豪勢な”おもてなし”をした直後に、全員を殺害する?という末恐ろしい幕切れでした。

これも未遂には終りますが。ある夫婦のトラブルが最悪の危機を救った形となります。

イギリスやアメリカには原始キリスト教が根強い為に、こうしたカルト系集団殺害がしばし見られます。
故に、ユニークに纏めようと思ったんですが、どうしても長くなりますね。
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オモテナシほど危険なものはない (hitman)
2019-09-20 08:46:39
プチ同窓会とカルト系犯罪。前半だけを見たら、3人組の妖艶な美女に騙される展開かと思いきや。

でも同窓会って、政治の匂いがプンプンだね。私も以前、面識のない奴から同窓会に誘われ、半信半疑で参加した所、そいつが議員出馬するという事で、パーティ券を買わされそうになりました。
キレイどころも何人かいて、怪しいとは思ったんですが。呑んでる時は気付かないもんです。

ごく少人数の集まりで、テーマがプロレスとくれば、警戒心は低くなりますが。でも前半の会話はとても良く出来てると思いました。
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昨今の同窓会 (象が転んだ)
2019-09-20 14:14:14
最近の同窓会って、有名人や著名人を呼んだりと、規模が大きくなりつつあります。それに、OBでもある地元政治家も顔を出す。
故に、同窓会の発起人が政治家の息が掛った土木系だったりする。こんな同窓会ならいらない。hitmanさんも同じ様な思いしたんですね。合掌!
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Unknown (#114)
2019-10-12 11:58:11
アルマゲドンとおもてなしか 
うまく組み合わせたな
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#114さん (象が転んだ)
2019-10-12 16:59:10
ある映画を参考にして書いたんですが。その時は変な出来だと思ったやつも、今読み返してみると満更悪くはないかなって感じです。

コメントどうもです。
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