ある日、高校の同級生という男から電話が掛かってきた。
”A高校7#年卒業の大藤君だろ。オレだよオレ鈴木、知らないかなぁ〜。クラスの文化祭で一緒にプロレスをしたじゃない、覚えてない?”
文化祭のプロレスの事は覚えてたが、そいつの事は知らなかった。名前は聞いた事ある様だったが。
いきなりの電話だったが、不思議と悪い感じはしなかった。
久しぶりの再開とプロレス談議
”同窓会と言っても、大袈裟なもんじゃなくてね、プロレス好き同士ワイワイやろうと思ってさ”
”ああ、思い出してきたよ。有下がタイガージェット•シン役を演じ、結構盛り上がったのは覚えてる”
”そうそう、君は藤波辰爾役だったな。あのバックドロップは僕の目に強烈に焼き付いてる”
”ああ、思い出した。君はレフェリー役だったな”
”嬉しいな、思い出してくれたね。オレ、途中転校してきたから、みな俺の事をあんまり覚えてくれないんだ”
”でも何故、いきなり同窓会を開くって事に?”
”ああ、先日の深夜にプロレスを見てて、会社の同僚とプロレスの話で盛り上がってさ。それで高校の時の文化祭を思い出したんだ”
”俺も、今でもごく偶にプロレスは見るけど、懐かしいと言えば懐かしいね”
”それで、あの時プロレスをした仲間数人とプチ同窓会を開こうと思ってさ。ほら、大袈裟にすると逆に誰も集まんなくて、気不味い思いをする事ってよくあるじゃない”
”ああ、俺も一度行ってウンザリしたよ。ホントに仲の良い奴って誰もいないんだから。同窓会って地元の政治家と結びついて、何だか奇怪な感じなんだよな”
”そうそう、それで数万寄付させた挙げ句、5千円のチケットを5枚ほど買わされるんだよ”
”君は寄付したのか?金持ちだな。オレはチケット代を2万だけにケチって、渋々出掛けたよ。でもプロレス仲間は誰一人いなかったな”
”不味い料理に不味い酒、最悪だったね”
”君も10年前の同窓会に来てたのか?”
”ああ、クラスのまとめ役をやってたけど、途中で頭にきて投げ出したんだ(笑)。でも、一応会場には足を運んだよ、ホント最悪だったな”
”あの時は、みんな不平タラタラだったさ。俺も政治屋には関わり合いたくなかったから、居留守使って逃げ回ってたけど、最後に捕まってね”
”それでどう?君は参加してくれるよね。場所は、駅前のホテルで7名ほどを計画してる。詳しい事が決まったらメールするよ”
”ああ、わかった。わざわざ有難う”
”いやこちらこそ、いきなりの電話で失礼かなと思ったけど、喜んでもらえてよかった”
豪勢な筈のプチ同窓会
鈴木が計画したプチ同窓会は、1週間後の土曜日の夜7時、ホテルの屋上階を使って豪勢に開かれた。
当の鈴木はかなり出世してるらしく、タキシード姿で3人の魅惑的なエスコートレディを引き連れていた。
プロレス仲間の有下も長瀬も渡田も来ていた。”おもてなし”の場はすぐに和やかになった。
”鈴木くん、こんな豪勢にして、一人5千円ポッチで済むのかい?それにコンパニオン代も相
”へえ〜、君は社長なのか?出世したな”
”小さい会社だからね、こうやって宣伝しないと。CF広告って高く付くし、こういうのが意外に効率いいんだ”
”懐かしくて、楽しくて、宣伝にもなる”
”そう、一石二鳥。おもてなし〜は営業の基本なのさ。あいつら早速、女にチョッカイ出してるな。でも心配ご無用、彼女たちは我が社員だから、ああいうのには慣れてるよ”
”あんなのが社員なのか。羨ましい会社だな”
”やめといた方がいいね。立ち上げるのに苦労したんだから、派手な仕事は競争も激しいし、厭な事も多いし”
同窓会の理想形が、ここにはある?
男が5人に女が3人。酒池肉林とまではいかないが、ワインにシャンパンに七面鳥に、夜景をバックに若い女をを囲い、結構な程までに大いに盛り上がった。
”ああ〜同窓会の理想形がここにはある”
ある種の悦楽と放蕩に耽ってた時、カクテルドレスを纏った一人の女が、薄笑いを浮かべながら耳元で囁いた。
”ねえ、何だか出来過ぎだと思わない?”
私は目のやり場に困りつつ、女を見つめた。
”まあね、鈴木という男の素性は俺たちには判らないし、でも悪い奴じゃないみたいだな、今風のお調子モンさ”
”ホントにそう思う?ホントに?”
女は私をベランダへ誘い出した。両肩を大きく曝け出した女は、とても社員とは思えなかった。
”君は、鈴木が経営する会社の社員と言ってたが、本当なの?失礼な言い方だが、パッと見、その手のコンパニオンかと思ったよ”
”アハハ、誰がそんな事言ったの?あの人鈴木っていうの?今初めて知ったわ”
”それってどういう事よ。君はあの男を知ってるんじゃなかったのか。だって、とても親しそうにしてたじゃないか”
”私はある事務所から呼ばれてきただけなの。2時間で5万の仕事があるって、話を合わせお酌するだけでいいって”
”3人で15万か?鈴木に払えるんだろうか?勿論だが、俺は払うつもりはないぜ”
”お金に関しては何も心配はいらないわ。鈴木という人だっけ?その人から前金で既にもらってるから”
最悪の展開?
大藤は以前、浮気調査の仕事をしていた。元探偵の勘が瞬時に働いた。
私はイベントマネージャーが一斉に逮捕された、ある事件を思い出した。某有名私大のイベントサークルを舞台にして行われた、大規模な輪姦事件だ。
パーティーにプロの女を忍ばせ、男性会員を誘い、性行為をさせ、後から大金をがっぽりと稼ぐ巧妙なやり口だった。
”鈴木っていう奴は、そんな策謀家には見えないんだが”
”もうここを出ましょ?何だか怖い気がする。2時間近くなるし、任務終了だわ”
”鈴木は何か妙な事口走ってなかったか?”
”世紀末とか生贄とか、訳の判らない事をブツブツと喋ってたかな”
”やっぱりカルトだ。何か恐ろしい終末が待ってるかもだ”
私は、知り合いの警察にメールを送った。
”駅前のセントラルホテルの屋上へ、至急警官を送ってくれ、何か怖い事が起きそうだ”
キリストの生贄とハルマゲドン
その時、鈴木が大声で叫んだ。
”さあ、皆さん集合、これから二次会で〜す。さあ、みんなここに集まって”
”鈴木くん、もう少し楽しもうじゃないか。せっかくレディーとお友達になりかけたとこだ”
私は時間稼ぎをした。プロレス仲間には、予めメールを入れといた。
”何かヤバそうに感じたら、サインを送るから一斉に逃げ出そう”
私は3人に目配せをした。
女が鈴木に声を掛けた。”もう少し楽しみましょ?せっかくの同窓会よ、それにもう少しここに居たいの。いいでしょ?”
鈴木は気不味そうに苦笑した。
”仕方がないな、ではもう10分だけだ。それを過ぎたら二次会に出かけるぞ。いいな”
私は、仲間3人をさり気なく鈴木から引き離し、夜景が見えるベランダへと誘った。
”警察にはもう知らせた。もうすぐここに到着する。何かあったら地べたに這うんだ”
鈴木は女2人とイチャついてた。すると、いきなり銃をぶっ放した。真っ赤な鮮血が一面に飛び散った。
撃たれた女たちはピクリとも動かない。薄手のピンクのドレスが、赤々と鮮やかに染まっていく。
そう今夜の宴会は”ハルマゲドン”だったのだ。僕らはは、キリストの生贄になる筈だった。
”今日はどういう日だか知ってるね?大藤くん。そう、善と悪の戦いを終わらせる最終戦争の日なんだ。俺は君たちを安住に地へと導き、神になる”
私は時間稼ぎを再び試みた。
”高校の文化祭の時、私はレスラーで君はレフェリーだったよな。しかし、審判を下すのは君じゃない、我々なんだ。
レフェリーなんてオマケに過ぎない。全てはレスラー同士で話がついてんだよ”
”お前ら虫けらには、何ら審判を下す権利はない。神の元で生かされてるだけだ。神のお告げがあれば、それは死ぬ時だ。楽に死なせてやろうと、若い女と派手な舞台まで用意してやったのに”
”鈴木くん、悪いが死ぬのはアンタの方だ。女2人を殺した時点で、君は神から裁かれる。今がその時さ。つまり、虫けらはアンタの方さ”
その時、警官の声がした。”銃を捨てなさい”
鈴木は銃を警官に向け、引き金を引いた。数発の銃撃音の後、力なく神に選ばれし筈の男は倒れた(ジ・エンド)。
コンパニオンからハルマゲドンへ
最後は銃撃戦で 呆気なく玉砕なのね
プチ同窓会が実は、狂人のカルトが仕組んだワナだったっていうこと?
結局 知らない人には付いていっちゃダメって事よね
何だか ショートショートからミドルロングになりそな感じ(・o・)でも許しちゃう🐰
後半は、映画ネタを参考にした部分で。同級生とその夫婦を自宅に呼んで、豪勢な”おもてなし”をした直後に、全員を殺害する?という末恐ろしい幕切れでした。
これも未遂には終りますが。ある夫婦のトラブルが最悪の危機を救った形となります。
イギリスやアメリカには原始キリスト教が根強い為に、こうしたカルト系集団殺害がしばし見られます。
故に、ユニークに纏めようと思ったんですが、どうしても長くなりますね。
でも同窓会って、政治の匂いがプンプンだね。私も以前、面識のない奴から同窓会に誘われ、半信半疑で参加した所、そいつが議員出馬するという事で、パーティ券を買わされそうになりました。
キレイどころも何人かいて、怪しいとは思ったんですが。呑んでる時は気付かないもんです。
ごく少人数の集まりで、テーマがプロレスとくれば、警戒心は低くなりますが。でも前半の会話はとても良く出来てると思いました。
故に、同窓会の発起人が政治家の息が掛った土木系だったりする。こんな同窓会ならいらない。hitmanさんも同じ様な思いしたんですね。合掌!
うまく組み合わせたな
コメントどうもです。