象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

新聞紙を100回折ったら?〜数(学)は宇宙よりもずっと壮大である

2023年05月19日 11時22分52秒 | 数学のお話

 あるフォロワーのブログに、”新聞紙1枚あれば宇宙を超える”とあった。
 記事を読んでみると、とても興味深かった。

 そこで、前知識なしで問題です。ネットで検索しないで、直感でお答え下さい。
 仮に、新聞紙1枚の厚さを0.1ミリとして、新聞紙を100回折り曲げたら、その厚さはどれくらいになるだろうか。
 答えを次の中から選びなさい。
 ①教室の天井ぐらい(約3m)
 ②学校の屋上ぐらい(約10m)
 ③東京タワーぐらい(約300m)
 ④富士山ぐらい(約3700m)
 ⑤地球から太陽までの距離ぐらい(約1億5000万km)
 ⑥宇宙の果てを超える(約130億光年)

 数式で表すと、0.1mm×2¹⁰⁰である。10回折り曲げて厚さは約10センチで、ここら辺までは想定内で、誰でも思い付くだろう。やがて20回で100mを超え、ここから急加速する。
 27回では1万kmの成層圏を超え、37回では地球の直径より厚くなり、42回折れば44万kmとなり月までの距離を超える。
 更に、51回折れば太陽までの距離を超え、63回では約1光年(9兆5000万km)の厚さになり、80回ほど折ると銀河系の直径を超えてしまう。
 100回も折れれば(の話だが)、134億光年ほどになり、観測可能な宇宙の範囲をはみ出す事になる。
 因みに計算上では、0.1mm×2¹⁰⁰≒1.27×10²⁹mm=1.27×10²³km≒1.34×10¹⁰光年=134億光年となります。
 という事で、答えは⑥でした。

 (現実には)新聞紙では、9回(5cm)ほどが限界だそうですが、3000mのトイレットペーパーを使った1次元折り(同一方向に折り続ける)では、BritneyGallivanさん(米)の13回がギネス記録だ。但し、2次元折り(縦横と交互に折り続ける)では、50m×70mの紙で11回の記録が非公式に残っている。
 つまり、”新聞折り畳み”による宇宙旅行は夢の夢ってとこですかね。


理論上、紙は何回折れるのか?

 では、現実には無理だとしても、数学的には紙を折り畳んで宇宙へ行けるのだろうか?
 そこで、折りたたみ回数の限界を決める数理モデルを考える。
 以下、「紙を半分に折り続けられる回数の限界について」より一部抜粋です。
 紙の折り畳み世界記録3000mを持つGallivanさんは、1次元折りに関し、n回折る為に必要な長さLnを導いた。
 まず彼女は、紙を折った時に両端にできる”折り込み部分を更に折れない”と仮定し、ロスになると考えた。つまり、n回目で半分に折れる為には、”折り込み部(図-1の赤い部分)が残ってる必要がある"と。
 もし、この仮定が正しければ、n回折れる為に最低限の必要な長さLnは、折り込み部(赤い部分)の総和に等しくなる。
 そこで、紙の厚さをtとし、πtがtを半径とする半円である事に注意すれば、以下の式で表される。
 Ln=πt{1+(1+2)+(1+2+3+4)+…+Σₖ[1,2ⁿ⁻¹]k}=πtΣᵢ[0,n-1]Σₖ[1,2ⁱ]k=πt(2ⁿ+4)(2ⁿ−1)/6
 つまり、厚さ0.1mmの新聞紙を1次元折りでギネス記録の13回折る為に必要な長さは、数理モデル上ではだが、L₁₃=3.14…×0.1mm×8196×8191/6≒3513316.484mm≒3513mとなる。

 しかし、ここで問題なのが”一度折り畳んだ両端は再び折れない”事を前提としてる点だ。   
 例えば、両端の位置が一致するように折っていく場合(図-2参照)、両端の折り返し部を再び折る事ができれば、上記で述べた限界を超えて更に多く折れる筈である。
 故に、”一度折り畳んだ両端は折れない”という仮定の妥当性を調べる必要がある。
 結論から言えば、この仮定が妥当である事は、両端部を折る必要な力Pを考えれば理解できる。
 まず、折り込む際に両端部の影響が十分小さければ(図-2の黒の領域が赤の領域の長さよりも十分長ければ)、n回に折る時に必要な曲げ弾性力Pnは、紙1枚を折るのに必要な弾性力Pの2ⁿ⁻¹倍、即ち、Pn≃2ⁿ⁻¹Pと単に見積もる事ができる。これは弾性力Pnが倍々になってる事で判りますね。
 次に、紙が十分に厚く、赤の折り込み部の影響が十分に大きい(黒領域が赤領域よりも十分長くない)場合を考えます。この時、更に半分に折るには、積層された2ⁿ⁻¹枚の紙同士を水平方向にスライドさせる必要がある。
 これは、半分に折ろうとすると、2ⁿ⁻¹枚の紙の最上部と最下部が端部でロスする長さ(n回目の折込み時に新しく生まれる右側の赤領域の長さ)が左右両端で大きく異なる為だ。故に、更に紙を折込むには、曲げ弾性力だけでなく、2ⁿ⁻¹枚間をスライドさせるに必要な摩擦力も要求される。

 以上より、この時のPnは、2ⁿ⁻¹枚の紙を1枚の弾性体の板と見なし、それを曲げる際に必要な力と見れる。一般に、板の曲げ弾性率は厚さの3乗に比例するので、PnはPn≃(2ⁿ⁻¹)³P=(2³)ⁿ⁻¹P=8ⁿ⁻¹Pと見積もる事ができる。
 つまり、nが1増えるだけで折り曲げる力Pnは8倍も増加する。故に、両端を再び折ろうとすると非常に大きな力が必要で、その為”一度折り畳んだ両端を再び折れない”という仮定は正しいとなる。
 但し、上では必要条件のみを示しただけなので、実際の実験では、少し余裕を持つ必要がある事に注意です。
 以上、長々と小難しい説明でした。
 

最後に

 そういう私は、紙を100回折るだけだから、100枚の新聞紙を重ねた程の厚さなら、0.1mm×100=10mmくらいかなと・・・でも全くの大ハズレでした(悲)。
 数学の世界では、直感で判断すると赤っ恥を掻くの典型ですね。 

 以上で判るように、数字が倍々に増えると途中から一気に上昇する。その上昇速度は、我ら人類の想像や予想を遥かに超えたものになる。
 コロナ渦や凍結渋滞もそうだが、最初は一寸した誤算やトラブルから始まり、やがてパニックになり、気が付いたら世界規模のパンデミックになってしまう。

 つまり、最初の頃は想定内とタカを括ってるが、”倍々ゲーム”ではあっという間に人類の思考の限界を超えてしまう。人類の思考から解き放たれた数字は宇宙の果てをも突破し、神様をもあざ笑うかの如く、先へ先へと突き進む。
 人類や神様や宇宙には限界があるが、数字には限界はない。その数字から生まれた学問が数学である。
 数学はこうした数字の神秘を解き明かしながら、色んな世界を発見してきた。”新聞紙を折る”という誰でも容易にできる事を数学で表すと、人類が到達できない領域に簡単に届いてしまう。

 そう、数学は皆が思うように難しいだけの学問ではなく、あらゆる神秘を解き明かす魔法のトリックでもあるのだ。



4 コメント

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Unknown (1948219suisen)
2023-05-19 15:26:04
難しい数学のお話ならスルーしようと思いながら読ませていただくと新聞紙を折り畳む話でした。が、予想を超える天文学的数字になり、ひっくり返りました。倍々ゲームって怖いですね。
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現代人の祖先は1000人 (平成エンタメ研究所)
2023-05-19 17:04:00
現代人の祖先と言えば、14万年前にアフリカにいた1000人くらいの小集団(=ホモ・サピエンス)。
それが現在は70億人。
これが指数関数的にすごいのかどうかはわかりませんが、病や気候変動、ネアンデルタール人、北京原人、ジャワ原人などとの競合を考えると、妥当な数字なのかもしれませんね。
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ビコさん (象が転んだ)
2023-05-20 05:26:54
新聞紙を折りたたむ問題ですが
結局は、ある一定以上は折り畳めないというオチはユニークに映りました。
数学と言うより物理に近い問題ですが、こういうテーマも脳みそをリフレッシュするには丁度いいかもです。

ビコさんも色々と苦労は絶えないみたいですが、迷惑コメントAIみたいなのが開発され、自動的に削除するようなシステムになればいいんですが・・・
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エンタメさん (象が転んだ)
2023-05-20 05:44:00
あるフォロワーの記事で知ったんですが
「絶滅の人類史」によれば、人類と呼べる種は25種類以上いたそうです。が、その中でホモサピエンスだけが生き残りました。
これも、単なる偶然の産物とされてますが、それでも70億人なんですよね。

生きていく糧を狩猟から穀物や家畜に求めたのも大きな要因でしょうが、偶然とは我々が思う以上に凄い力なんでしょうか。

一時期、共存してたネアンデルタール人も我らホモサピエンスのDNAの中にしっかりと刻み込まれていますが、ネアンデルタールの復活と進化もありえない話ではないですかね。
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