象が転んだ

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リーマン予想と素数の謎、2の10〜”エラトステネスのふるい”と改訂版素数定理と〜

2019年06月20日 04時11分27秒 | リーマンの謎

 前回”その9”では、ディリクレの素数定理について説明しましたが、今回は再び、ギリシャ時代に舞い戻ります。
 リーマンの謎も素数の謎に埋もれたままですが、もう少しの辛抱をです。

 さてと本題に入ります。
 前回述べた様に、リーマンは1859年の論文でガウスの素数定理を手掛かりに、ゼータ関数と素数を繋いだ。そして”オイラー積=ゼータ関数”という「黄金の鍵」を回す事で、遂に解析的数学の扉を開くのですが。
 そこで今日は、”素数定理の改訂版”を示す事で、「黄金の鍵」の真相を探ります。
 ”2の2”〜”2の4”では、ユークリッドの素数列を使って素数を求めたんですが。
 ユークリッドの背理法とは全く別のやり方で、オイラーは素数が無限に存在する事を証明しました。
 そして、素数の逆数の和をとる事で素数の無限の大きさを検証します。
 つまりオイラーは、”オイラー積=ゼータ関数”という”無限積=無限和”の構図を発見し(”2の4”参照)、このオイラー積表示の両辺の対数をとり、s→1を考え、Σₚ1/p=∞を得た(1737年)。
 故に、このオイラー積表示を用いると、古代ギリシャでEuclid により知られてた”素数が無限個存在する事”の別証明が、背理法を用いて簡単に得られます。

 別に間違ってはいないんですが。ただこの方法だと、ややこしい素因数分解の一意性や無限等比級数の公式を使ったりと、やや近代的で抽象的な段階を踏みます。果たして天才オイラーは、そんな合理的な手法で「黄金の鍵」を発見したんだろうか? 


エラトステネスとオイラー積

 そこで、著者J•ダービーシャーが考える初等的素数の謎の解決法を紹介する。
 実はこの「黄金の鍵」とは、オイラーが見つけた”エラトステネスのふるい”を解析学で表す方法である。
 このエラトステネス(紀元前275年~紀元前194年、イラスト)もユークリッドと同じギリシャの数学者で、アレクサンドリアの大図書館の司書だった彼は、ユークリッドから70年ほど後に、素数を見つける為の”ふるい分け”の方法を発見した。彼は地球の大きさを初めて測定した人で、”第二のプラトン”とも呼ばれた。

 この”ふるい方”では、2から100までの整数を書き出し、2から始め、2だけを除き、2の倍数を消していく。次に、3だけを除き、3の倍数を消す。5も7も11も同様にする。
 これを続ければ、残った数は全て素数になる。これが”エラトステネスのふるい”である。以前述べた”ユークリッドの素数法”とは全く違いますね。エラトステネスが当時、世界で2番目に頭のいい人”ベータ=β”と呼ばれたのも肯けます。

 非常に単純明快な”ふるい法”だが、これが19世紀半ばの関数理論とどう関係するのか?
 そこでこの”ふるい法”を、リーマンゼータ関数に当てはめてみます。
 ζ(s)=1+1/2ˢ+1/3ˢ+1/4ˢ+1/5ˢ+•••ー①
 これは1を含むので、両辺を1/2ˢ倍する。
1/2ˢζ(s)=1/2ˢ+1/4ˢ+1/6ˢ+1/8ˢ+1/10ˢ•••ー②
 ①−②=(1−1/2ˢ)ζ(s)=1+1/3ˢ+1/5ˢ+1/7ˢ+1/9ˢ+1/11ˢ+•••ー③となり、右辺で分母に2の倍数である項は全て消える。 
 同様に③は1を含むので、両辺に1/3ˢを掛け、1/3ˢ(1−1/2ˢ)ζ(s)=
1/3ˢ+1/9ˢ+1/15ˢ+1/21ˢ+1/27ˢ+•••ー④。
 ③−④=(1−1/3ˢ)(1−1/2ˢ)ζ(s)=
1+1/5ˢ+1/7ˢ+1/11ˢ+1/13ˢ+1/17ˢ+•••となり、分母に3の倍数の項は全て消える。 
 後は同様に、1/5ˢを掛け、上の式から引くと、(1−1/5ˢ)(1−1/3ˢ)(1−1/2ˢ)ζ(s)=
1+1/7ˢ+1/11ˢ+1/13ˢ+1/17ˢ+1/19ˢ+•••、で分母に5の倍数の項は消える。

 以上を比較的大きい素数997まで続けたとすると、(1−1/997ˢ)(1−1/991ˢ)•••(1−1/5ˢ)(1−1/3ˢ)(1−1/2ˢ)ζ(s)=1+1/1009ˢ+1/1013ˢ+1/1019ˢ+1/1021ˢ+•••。
 ここでs(>1)がなら、上式の右辺は1より僅かに大きいだけで、事実s=3の時は、右辺=1.0000000673•••です。
 故に上式は、•••(1−1/11ˢ)(1−1/7ˢ)(1−1/5ˢ)(1−1/3ˢ)(1−1/2ˢ)ζ(s)=1、と容易に推測でき、これは、ζ(s)=(1−2⁻ˢ)⁻¹(1−3⁻ˢ)⁻¹(1−5⁻ˢ)⁻¹(1−7⁻ˢ)⁻¹•••、と変形できますね。

 そ〜うなんです(笑)。
 これは、ζ(s)=∏ₚ(1−p⁻ˢ)⁻¹と”ゼータ関数=オイラー積”の形となってます。
 故に、ζ(s)=Σₙ[1,∞]n⁻ˢ=∏ₚ(1−p⁻ˢ)⁻¹このゼータのオイラー積表示こそが”黄金の鍵”の姿だったんです。但し、∏ₚは全ての素数における無限積です。
 また、左辺をゼータ関数と言いましたが、厳密にはディリクレ級数ですね。ゼータを級数という概念で初めて扱ったのがディリクレで、ディリクレ関数とも呼ばれます。
 つまりディリクレは、オイラーから”黄金の鍵”を受け取り、リーマンに手渡した。

 この”黄金の鍵”の左辺の項の数は無限大です(n→∞)。また右辺の項の数も無限大であり、これは素数が無限にある事の証明にもなってます。
 もし素数に終りがあるなら、右辺の積も終りがあり、有限になる。しかしs=1の時、ゼータは極となり、左辺は無限大となる。故に矛盾し、素数の個数は無限である。
 これは、ユークリッドの背理法の別証明になってますね。

 因みに、この”素数の鍵”を日本語に直すと、”全ての自然数に渡る無限個の和=全ての素数に渡る無限個の積”という事になります。つまりディリクレは、素数の無限積を無限和の級数として扱う事で、解析に繋げたんですね。 


何故「黄金の鍵」なのか? 

 この答えは、「黄金の鍵」を回さないと明らかにはならない。これこそがリーマンの自明な素数定理、つまり解析的素数公式である。
 つまりリーマンも、ディリクレから受け継いだ”黄金の鍵”を回そうと必死でした。
 リーマンは、自らの予想を”厳密な証明が欲しい所だが、今私が調べてる直接の対象には必要ない”と反故にして、素数定理を自明な形で証明しようとしました。
 このリーマン予想が真なら、その帰結として自明な素数定理(素数公式)が導き出せる筈だった。しかし、リーマン予想は素数定理よりもずっとキツく、一方リーマンが必死で追いかけた素数定理の方は、少し緩やかな前提からでも証明された。

 後にフォンマンゴルドやアダマール、プーサンなどにより、この素数定理は完全な形として証明された。皮肉だがこれも現実であり、また歴史なのだ。
 リーマンは、この素数定理の中に誤差項を含む式を唱えてた。その式がゼータの自明でない零点(虚零点)を全て含んでたのだ。つまり、自明で解析的な素数定理の中にリーマン予想が隠されてたのだ。
 当然、多くの数学者たちは考えた。素数定理が証明されたんだから、その中に潜むリーマン予想も証明されるべきだと。
 故に、この零点が何処にあるかが、焦眉の急の問題になったのだが。この焦眉の問題は未だに解けない、故に”黄金の鍵”なのだろうか。

 つまり、”黄金の鍵”は回った。箱を開けその中から出てきたものは、リーマン予想という未だに解き明かされてない超難題だったのだ。 


改訂版素数定理とは?

 ここで話を戻します。
 素数定理でも登場しますが、logという対数関数は、素数とゼータ関数を繋ぐとても重要な関数です。
 そこで、”2の8”のガウスの素数定理で登場した、1/logtという関数を考えます。特に、1/logtの積分は、リーマン予想でもよく表れる、とても重要なものです。
 この関数は”対数積分”と呼ばれ、Li(x)=∫ₜ[0,x](1/logt)dtと書くが、Li(x)には2通りの記述が使われる。
 アメリカ式では0~xまでの積分をとるが、ヨーロッパ式では2~0までの積分をとり、x=1の煩わしい所を避ける(無視する)。
 これは1/logxのグラフを見れば明らかだが。x<1の時はLi(x)がマイナスになり、x=1の時はマイナス∞に沈み、x>1になると徐々にプラスに転じ、x=1.45369234•••の所でゼロになる。x=1が煩わしいとはこういう事です。

 単に最初の素数である2を選ぶとする見方もあるが、この2つの定義の差は、1.0451637•••となる。
 リーマン予想を含む古典的な数学ではアメリカ式を、それ以降の多くの数学者は今風のヨーロッパ式を選ぶ。
 つまり、Li(x)=∫ₜ[2,x](1/logt)dtですね。

 ここで、Li(x)の任意の点での傾きは、当然1/logtである。これはxの近傍における数が素数である確率です。
 故にx→∞なら、Li(x)~x/logxとなる。よって、π(x)~x/logx~Li(x)。事実、π(x)の推定値としては、x/logxよりもLi(x)の方がずっといい推定値を取る。故にこれを”改訂版素数定理”と言います。
 この改訂版素数定理のπ(x)~Li(x)だが。x/logxはπ(x)よりも少ない推定値を出すが、Li(x)は大きい推定値を出す。
 この改訂版素数定理ではπ(x)~Li(x)ですが、15歳のガウスは自然数n以下の素数の個数π(n)がn/lognで近似できると最初に予想しました。
 また、ロピタルの定理を使えば、”π(x)~x/logx”と”π(x)~Li(x)”は同値であり、精度で言えば、Li(x)の方がより精密というだけで、素数定理と言えば”π(x)~x/logx”が一般的には使われます。

 次回の”2の11”では、チェビシェフの素数定理に進みます。そこで初等的な素数定理はひとまず終了という事で、あくまで予定ですが。



6 コメント

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象転さんへ。 (テレビとうさん)
2019-06-20 08:40:27
「無限の自然数には、素数が無限個含まれる。」
「10までの自然数には、素数が4個含まれる。」
「2未満の自然数には、素数は0個含まれる。」

「無限個」の「無限」は「数」なのでしょうか、単なる「状態」なのでしょうか?
「個数」ならばこの場合の「無限」は「数」だと思いますが、自然数に「ゼロ」を含めないのなら、「無限」も自然数ではないと思いますが、どうでしょうか?

そこで、「0(数)≠0(状態)」「∞(数)≠∞(状態)」として、

「大きな自然数を定め他時にその中に含まれる素数の個数は、定められた自然数をより大きくする事で増やす事が出来る。」

0(状態)<素数(値)<自然数(値)<∞(状態)
なので、
O(数)<素数の個数<自然数の個数<∞(数)

が、初心に帰ると「現実の正しさ」だと思います。
「初心」過ぎましたか?
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TVとうさん (lemonwater2017)
2019-06-20 11:43:18
抽象的ですが、満更場違いな質問でもないと思います。

無限個の場合、状態ではなく”数”であり、数の程度ですかね。素数の並びに関しては”状態”なんですが。

自然数も素数も同じ無限個ですが、素数の無限個は自然数の無限個に比べると、より0%に近い。2の6を参照です。

無限大という抽象的な概念を写像を使って定義したのが、超天才カントール(1の10参照)です。彼は無限大を加算無限大と非加算無限大とに分けました。自然数や有理数は前者で、無理数や実数や複素数は後者ですね。

彼がいなかったら、今頃実数の定義すら存在しなく、未だに数学は指折り数える学問だったかも。数論が非常に難解なのはこの為でもありますかね。
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エラトステネス? (hitman)
2019-06-21 06:35:32
このやり方だととても簡単にあっさりとオイラー積が求まるんですね。

ユークリッドの70年後ですから、ユークリッド素数法を参考にしたとも思えるんですが。それにしてもギリシャ時代の数学者ってみんな天才ばかり。数学が神の学問だったわけだ。

でもリーマンが黄金の鍵を回して出てきたものはリーマンの謎だったというのも、オチとしては絶妙〜。
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エラトステネス (lemonwater2017)
2019-06-21 12:22:56
多分オイラーは、有名なユークリッドの素数列を参考にしたとは思いますが。素因数分解の過程で、エラトステネスのふるい法に気付いたのでは?

オイラーのレヴェルになれば、あらゆる所にアンテナを張り巡らしてる筈なので、色んな方向からオイラー積を見つめてたんだと思います。

まさに”蝶の様に舞い蜂の様に解く”ですか。
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次はチェビシェフ (paulkuroneko)
2019-06-24 02:07:28
次回はいよいよチェビシェフですね。

彼は素数定理を初等的な方法で解こうとした数学者ですね。彼の論文のタイトルもリーマンのそれとよく似てます。

今から非常に楽しみです。何だかプレッシャーを掛けてるようで、スミマセン(+_+)
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いよいよチェビシェフ (lemonwater2017)
2019-06-24 04:32:39
チェビシェフの素数定理を”粗い”素数定理という言い方がありますが。粗いとは初等的と置き換えれます。

リーマンがチェビシェフの偉業を知ってたのは明らかで、リーマンの謎は解けなくとも、チャビシェフの謎(初等的素数定理)はセルバーグによって解き明かされました。

そしてそのセルバーグが自身のゼータ関数でリーマン予想を解く一歩手前の所まで来ました。

歴史に偶然の一致があるとすればこういう事を言うんでしょうか。
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