象が転んだ

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カントールとクロネッカーの無限と稠密の考察

2022年08月10日 12時54分47秒 | 数学のお話

 前回「その4」に寄せられたコメントでは、無理数の稠密性が紹介されてました。
 これは、√xのグラフを例に取れば(直感的にはですが)わかり易いですかね。つまり、√xの値はxが大きくなる程に密になってます。
 故に、√xという単純な無理数でも、(無数に群がるという)稠密のイメージは(何とか)理解出来ますね。
 そこで、「その5」に進む前に、カントールとクロネッカーの稠密性の考察をめぐる意外な共通項を探ってみたいと思います。

 「クロネッカーの稠密定理」を数学的に堅く言えば、”任意の無理数xと0≤a<b≤1を満たす任意の実数a,bに対し、{nx}をnxの小数部分とすると、a≤{nx}≤bを満たす自然数nが存在する”となります。
 これだけじゃ、何のこっちゃ?ですが、”どんな無理数xを持ってきても x,2x,3x,...の小数部分を列挙すれば、閉区間[0,1]上の稠密集合になる”と言い換えれば、少しは理解しやすいでしょうか。
 これも、ある区間内の無理数の稠密性を論じてますが、”稠密”とは”ぎっしりと無数に詰まってる”という意味で、カントールの無限の考察に直結するものです。
 一方で、「クロネッカーの定理」と呼ばれるものでは、実係数の多項式が複素数の解を持つ事を拡大体を使って主張してます。

 この様に、クロネッカーの主張の中にも堂々と無理数や虚数(複素数)が登場しますが、(リンデマンによる円周率πの超越性の証明(1882)を)”美しいが、しかし意味のないものだ。何故なら超越数は存在しないのだから”と、有理数や有限数しか認めないクロネッカーの態度は、明らかに矛盾してると言えなくもないですね。
 つまり、クロネッカーは無理数や無限や稠密の概念を十分に理解した上で、カントールを個人的に攻撃してたと言えます。
 

稠密定理の証明

 「クロネッカーの稠密定理」の証明では、”nを上手く取れば、{nx}が閉区間の両端から無数(無限)に持ってこれる”事を示すんですが、”1つの箱に1つの物を入れる時、m個の箱には最大m個の物しか入れる事ができない”という「鳩ノ巣の原理」を使います。
 因みに、ディリクレが発見したこの原理(1834)は、”1対1対応ができない無限集合”などの数え上げ問題に適用できる。故に、カントールがこれを参考にしたであろう事は容易に想像できますね。
 この時点で、この証明は諦めかけたんですが、やってみると意外?に(と言ったら失礼か)簡単だったので、紹介します。

 まず、{mx}={nx}なる自然数m,nが存在すると仮定すると、(n−m)xは整数となり、xが無理数である事に矛盾。故にxは無理数となり、自然数m≠nに対し、常に{mx}≠{nx}となる。
 次に、十分に大きい自然数Nに対し、区間[0,1]をN等分すると、{x},{2x},...,{(N+1)x}の(N+1)個の数は(前述の{mx}≠{nx}より)全て異なるから、「鳩ノ巣原理」により、どれか2つの数は同じ区間に属する。つまり、それらの差は1/Nよりも小さくなる。
 故に、それら2つの数を{m’x}と{n’x}とすると、{m’x}>{n’x}の時は、0<{m’x}−{n’x}<1/Nを満たす整数m’,n’が区間[0,1]内に存在し、
逆に{m’x}<{n’x}の時は、1−({n’x}−{m’x})<1−(1/N)を満たす整数m’,n’が区間[0,1]内に存在する。

 以上より、{nx}の形の数を[0,1]内に1/N未満の間隔で並べ、左端が1/Nより0に近く、かつ右端が1−(1/N)より1に近い様に出来る。
 つまり、Nは無限に大きく出来るので、{nx}の数全体の点集合は、閉区間[0,1]内の至る所で稠密である事がわかる(証明終)。
 これは、区間[0,1]の両端から(無理数の倍数の小数部なる)点列を無限に注ぎ込み、全体として稠密になるというイメージですね。 

 一方で、このクロネッカーの稠密定理はワイルにより格調高い定理となります。
 「Weylの一様分布定理」(1909)と呼ぶんですが、”円の角度2πnα(n=1,2,...)の場所に点を打っていくと、αが無理数ならば点は円周上に均等に敷き詰められる”というものです。
 これは、区間[0,1]の両端をなくし、円周(周期関数)とみなす事で証明できます。厳密にやると、とても難しいので簡単に紹介です。
 まず、(cos(2πt),sin(2πt))という円周上の点列を考え、t=0からαずつ増やし、t=0,α,2α,…とした時、”円周上を回る点列が稠密になるか?”という問題に置き換えれます。
 仮にm’<mとすると、0<|{mα}−{m’α}|<1/N なるm,m’があれば、{m’α}の点から(m−m’)α進めば、また{m’α}の近くに来るとイメージします。
 これは、t=0から(m−m’)α回転したら、t=0の近くに来るという事です。これは区間[0,1]の左端か右端かは分からないが、円周の起点(1,0)から少しだけ正の向きに回転した位置か、或いは(1,0)から少しだけ逆回転した位置にあるとイメージ出来ます。
 とにかく、1/N より近い距離を進める{(m−m’)α}という幅の回転を繰り返していくと、隣同士が1/Nより近い距離にある[0,1]上の点列を得る事が出来る。
 そこで、Nは無限に大きく出来るので、単位円周上の起点(1,0)として、同じ向きに長さが(m−m’)αなる弧を取れば、”点は円周上に稠密に分布される”事が解ります。
 以上、yahoo知恵袋を一部参考にしました。

 これも前述した様に、単位円周上の起点(1,0)を基準に、長さがnαなる弧を無限に打っていくと、全体として稠密になるというイメージですね。
 この様に、カントールとクロネッカーの無限と稠密の考察は非常に似通ってます。


カントールの限界とクロネッカーの壁

 そこでふと気づいたんですが、これはカントールの「対角線論法」による非可算無限の証明(1877)と非常によく似てますね。
 区間を[0,1]に限定し、無理数の小数部に焦点を当てた所なんて、パクリかと思った程です。
 クロネッカーは、このカントールの対角線論法は(当然ですが)知ってた筈です。それに彼はまだ50代中盤の頃ですから、十分に戦闘能力?は残ってた筈です。
 でも、”無理数の稠密性”にもよく似たこのクロネッカーの稠密定理は、カントールの実無限(連続体)の発見(と証明)に直結する類のもので、何故、敢えて公表したんでしょうか・・・

 確かに、この分野では若き天才カントールの一人舞台でした。
 故に、当時はベルリン大の大御所でもあるクロネッカーがカントールに楯突いても追いつけない事は、クロネッカー自身理解済みだったかもです。
 つまり、カントールの数学はクロネッカーの夢を大きく覆す領域にあったんでしょうか。
 勿論、僅か32歳で”連続体上の無限には次元が存在しない”という数学史を揺るがす様な大発見を成し得たカントールでさえ、ビジネスでも成功を収めていたクロネッカーに人脈面では勝てる筈もありません。
 この頃がカントールの絶頂期とされますが、クロネッカーの執拗な攻撃の雨あられに晒され続けた若き新星は、数少ない友人のデデキントに救いを求めますが(クロネッカーの悪質な囲い込みもあってか)、見事に裏切られてしまいます。
 5年後にはデデキントと決別し、全くの孤立無援なったカントールは、更にその2年後、何を血迷ったのか?「連続体仮説」に挑みます。

 カントールの天才を持ってすれば、”連続体仮説は証明も反証も出来ない”事は、十分に理解できた筈です。
 40近くになった彼には、それを跳ね返す力も才も残ってなかった様に思えます。かろうじて残ってたのは正気を失い、家族をも失望させた変わり果てた姿だけでした。
 それでもカントールは、神と自分を信じ、解ける筈のない仮説に挑み続けます。

 タラレバは禁句ですが、ローマ法王レオ13世が彼を保護してくれた時に、聖職者に転身してればとも思うんです。つまり、聖職者に身をおきながらも、数学者として連続体の研究は続けれたでしょうに。
 それに元々カントールは、聖職者が数学者になったような人でしたから・・・


カントールの稠密の考察とルベーグ測度

 稠密性にヒントを得て、無限の仕組みを暴いたカントールの神がかりな考察は流石とも言えます。
 確かに、有理数(可算)よりも無理数(非可算)の方が稠密度は遥かに高い。そこでカントールは、集合の”測度=距離”という概念を使い、稠密性を無限の考察に結びつけます。
 前回「その4」では、有理数の測度がゼロである事の証明を省きました。以下は、寄せられたコメントでの証明です。

 有理数全体の集合Qは、ルベーグ測度ゼロの集合となりますが、ここで言う”測度”とは集合Qの長さを測る事です。
 そこでQは可算ですから、Q={q(0),q(1),q(2),...}の形で表せます。
 まず、幅εで中心q(0)の開区間I₀=(q(0)−ε/2,q(0)+ε/2)をとると、q(0)∈I₀が言える。次に、幅ε/4で中心がq(1)の開区間I₁=(q(1)-ε/4,q(1)+ε/4)ではq(1)∈ I₁。同様に、幅ε/2ⁿで中心がq(n)の開区間Inはq(n)∈Inとなる。
 以上より、有理数全体Qは開区間の和集合I₀∪I₁∪…に含まれ、Q⊂I₀∪I₁∪…となるから、集合Qの長さ(測度)を|Q|とすると、|Q|≦|I₀∪I₁∪…|が成立。
 一方で、I₀,I₁,…は重なる部分があり、I₀∪I₁∪…の長さよりI₀,I₁,…の長さの合計の方が長い。つまり、|I₀∪I₁∪…|≦|I₀|+|I₁|+…となる。
 また、|I₀|=ε,|I₁|=ε/2,...,|In|=ε/2ⁿ,...により、|I₀|+|I₁|+…は、初項ε,公比1/2の無限級数の和=2εとなります。
 以上より、|Q|≦2ε→0が成立。故に、有理数全体の測度はゼロとなる(証明終)。

 これを使い、無理数の測度を求めますが、[0,1]の区間での実数の測度は(単にその区間の距離(長さ)となるので)1になる。実数は無理数と有理数(整数を含む)の集合なので、有理数の測度はゼロである事から、[0,1]の区間での無理数の測度は1となります。
 つまり、測度という点で見ても有理数と無理数には桁外れの違いがあり、稠密度という点で見ても同様の違いがあるという事が判りますね。

 故に、カントールは可算無限集合の測度がゼロである事を証明し、連続体上の実無限の発見に繋げます。
 つまり彼は、リーマンやワイエルシュトラスが示した、無限に行く程に収束する”距離”(測度)の概念を足掛かりに、無限の考察を進めたんでしょうか。
 この二人からから受け継いだ現代解析学という源流は、カントールにしっかりと引き継がれ、無限の発見と証明という見事な花を咲かせます。

 以上、寄せられたコメントの受け売りみたいになって、申し訳ないですが、余興として眺めるのも悪くはないかなとも思います。 



2 コメント

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カントールとデデキント (腹打て)
2022-08-13 09:39:52
今回の記事のテーマと
直接には関係ないことだけど

事実
デデキントはカントールの誘いを断る必要は何処にもなかったんだよ。
給与が云々というのは、後付け的な理由であり、言われる通り、クロネッカーの用意周到な手回しがあったんだろうね。
クロネッカーがデデキントを疑うのも無理はないけど。 
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腹打てサン (象が転んだ)
2022-08-13 14:33:39
そうなんですよね。
クロネッカーはビジネスでも大御所でしたから、カントールの周りはすべて敵状態だったんでしょうか。

歴史にタラレバはつきものですが
デデキントが味方についてくれたら・・・と思うと色んな事を考えますね。
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