クジラを食べるクジラ?
南米ペルーの1200万~1300万年前の地層から、絶滅したマッコウクジラの頭骨化石が見つかった。
イカなどを吸い込んで丸のみする現生のマッコウクジラと違い、肉食恐竜のような巨大なアゴと歯が特徴で、他のクジラを襲って食べていたと考えられるという。フランス国立自然史博物館などの研究チームが、英科学誌ネイチャーに発表した。
見つかった化石は頭骨の一部と歯で、頭骨のサイズから、体長は13.5~17.5メートルと推定される。マッコウクジラの化石では過去最大という。上あごには左右9本ずつ、下あごには11本ずつ歯があり、最大直径12センチ、長さ36センチの歯もあった。海洋文学「白鯨」の作者メルビルの名にちなみ、学名「レビアタン・メルビレイ」が付けられた。
ペルーの同時代の地層では、過去に巨大なサメの化石も発見されており、当時はこの2種が、海の食物連鎖の頂点に君臨していたと考えられる。研究グループは「この時代には様々なマッコウクジラがいたが、その後の地球の寒冷化に適応できず、現生のマッコウクジラにつながる祖先が生き残ったのではないか」としている。(2010年7月3日 読売新聞)
弱肉強食の海
発見された、古代のクジラ、レビアタン・メルビレイ。発見者はオランダのロッテルダムにある自然史博物館のクラース・ポスト氏。国立自然史博物館の古生物学者オリビエ・ランベール氏は、「大きな動物の化石なのは明らかだった」と振り返る。
体長は約18メートルで、現生のマッコウクジラのオスの大きさに匹敵する。しかし、現生のマッコウクジラが主にイカを餌とするのに対し、レビアタン・メルビレイは歯が長く、一部の歯は36センチ以上もあることから、イカよりも捕食が難しい餌を捉えていたと考えられ、近縁種のクジラも食べていた可能性がある。
「巨大な歯から、ヒゲクジラではあり得ないと判断し、最終的には歯クジラである、巨大なマッコウクジラの一種であることが判明した」とオリビエ・ランベール氏は語る。 この時代、これまでに発見された中で最大のサメ「メガロドン(1800万年前~150万年前)」も生息しており、壮絶な弱肉強食の世界が広がっていたと考えられる。
ヒゲクジラ類と歯クジラ類
ヒゲクジラ類は、胎生期には歯の組織があるが、出生後歯は無く、口蓋に「くじらひげ」が生えて餌を捕らえる役をする。外鼻孔は2個である。現生の種類は3科、6属、10種でほとんど大型のクジラである。
ヒゲクジラ亜目にはザトウクジラやシロナガスクジラなどがあり、歯を持たず、一般に“ヒゲ”と呼ばれる毛髪状の器官で海水からオキアミなどの微小な獲物を濾しとって食べる。
ハクジラ類は、一生の間、必ず歯を持っており、外鼻孔は1個であるが、少し中に入ったところで2道に分かれている。現生の種類は10科、30余属、70余種にのぼる。マッコウクジラ科、アカボウクジラ科、ゴンドウクジラ属などに属する約20種の他はみな小型で、いわゆるイルカ類といわれている。
クジラが海に入った日
クジラは昔陸に住んでいたのは有名な話であるが、いつごろ海中で生活するようになったのだろうか?
クジラの祖先は、今から5.300万年前、新生代の始新世初期、南アジアで陸上生活をしていた肉食性哺乳類パキケトゥスの仲間とされている。かつては、暁新世の原始的な有蹄類であるメソニクスとの関係が考えられたが、近年は現在のカバと共通の祖先を有する偶蹄類に起源を求める見解が有力である。
当時、インド亜大陸がアジア大陸に衝突しつつあって両者の間には、後にヒマラヤ山脈として隆起する浅い海が広がっており、クジラ類の陸から海中への進出は、その環境に適応したものとされる。
原クジラ亜目(原クジラ類)は、後世の進化した現鯨類の共通祖先を含むグループとされてきた原始的クジラ類の分類名。新生代古第三紀始新世初期(約5,300万年前)ごろに棲息のパキケトゥス科に始まり、同じ世の末期(約3,300万年前)に棲息したバシロサウルス科の絶滅をもって最後とする。
原クジラ亜目の繁栄
原クジラ亜目の祖先は、現在のカバ類と共通の祖先をもつ。彼らは、白亜紀後期あるいは暁新世の早期のうちに、現在「偶蹄類」と呼ばれている偶蹄動物の原始的なグループの中から分化したと考えられる。
分子系統学によれば、のちにラクダやイノシシに進化する系統に比しては、彼ら(鯨凹歯類)は遅れて分岐した。しかし、反芻類(絶滅した原始的反芻類と、現存する真反芻類)につながる系統よりは早い時期に分岐したとされている。その後クジラの祖先はカバを生み出す系統とも分かれ、海棲の哺乳類としての進化の道を辿ったものであろうとされる。
大部分の原クジラ亜目は後肢を具えていて、現生クジラ類とは明らかに違っている。始原的な種は頑丈な四肢を具えた完全な陸棲動物であったと考えられ、現在最もそれに近いと目されているのは最古のクジラであるとされ四肢を持つ動物でもあったパキケトゥスである。
海進の時代である始新世を迎えて、原クジラ類は、暖かく広大な浅海であるテティス海を中心として大いに栄え、多様かつ急速に進化していったと見られる。四肢は鰭(ひれ)へと変わり、陸棲向きである三半規管は退化して海棲向きである骨伝導構造を持ったクジラ類特有の耳骨等がそれに取って変わる。
原クジラ亜目の衰退・絶滅
この進化の流れは非常に速く、同じ世の後期初頭には、初期のクジラ類とは著しく異なるレベルでの適応を果たし長大な体躯を持つバシロサウルスの段階にまで達した。すなわち、わずか800万年ほどの短期間で、クジラ類は陸棲から海棲という全く異なる環境への適応プロセスを基本的に完了していたことになる。
しかし、これら原クジラ亜目は始新世と漸新世を隔てる絶滅期を乗り越えることかなわず、おそらくはバシロサウルス科中のドルドン亜科を唯一の例外として他はことごとく姿を消している。バシロサウルス科も次の世で見ることはできず、絶滅を逃れ得なかったはずであるが、現鯨類という子孫を残したのちに姿を消した。
原クジラ亜目の絶滅は、高度に進化した現鯨類の出現による淘汰もあるが、気候変動による海水温の低下、それに伴う生物量の減衰が大きく影響したものと見られ、あるいは、その両方が関係しているともいわれている。
参考HP Wikipedia「クジラ」「メガロドン」「原クジラ亜目」 ・National Geographic news 7.1.2010「新種の古代クジラ」
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