ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

ハムレット~ダークヒーローの似合う女~

2007-02-12 15:07:03 | 日記
11日に久しぶりに舞台観に行って来ました。今回は、田舎から出て来た母の奢りでございます。

演題は「ハムレット」、主演は元タカラジェンヌの安寿ミラ。←母がこの人のおっかけなのです。
女性が演じるハムレットに対して、その母親・ガートルード王妃を男性の舘形比呂一が演じたりしています。安寿さんは前にもハムレットをやってるし、「モンテ・クリスト伯」でも男性を演じてますね。
この人はヅカ時代にも「ブラックジャック」とか「冬の嵐」とかやってて、ヅカには珍しくダークヒーロー系が得意だったみたいです(ちなみに当時のナンバ-2は真矢みき)。
特に「冬の嵐」(原作はプーシキンの「スペードの女王」)の主人公ヘルマン・マイヤーは、よく宝塚でこんなのやれたなと思うような最低の男(バクチのために人殺して女騙して最後は自滅)で当時のファンは泣いたそうですが、私はいいと思うけどなあ。宝塚でベルばらのオスカルをやれる役者さんは何人もいるけど、ヘルマン・マイヤーをやれる人は今後もう2度と現れないかも知れないのに。
もちろん王妃役の舘形さんもとても上手くて、男女逆転キャストに特に違和感はありませんでした。

場所は兵庫県立芸術文化センター中ホール。このハコがまた良い。「ブラスト!」で大ホールに来た時もデカくて新しくてお洒落な会場にびっくりしたんですが、中ホールがまた。若干こじんまりしているその代わり、座席を始め木をメインにしたインテリアがレトロっぽい。新しいのに懐かしい感じで雰囲気たっぷり。
舞台装置もセピア調でテントのような幕が張られていて、ミュージカルでありながら、音楽はピアノ一台だけ(作曲も手がける宮川彬良氏の生演奏)。昔のヨーロッパの田舎町で旅芸人一座の芝居を見ているような、不思議な気分にさせられました。
ていうか実際、そういう意味を含んだ演出がされていたと思います。
キャストは8名だけで、主要人物を演じる役者さんがモブや脇キャラも兼任。手に手に革のトランクを提げ、旅装で登場した役者さんたちが、トランクの中から衣装を取り出して舞台の上で衣装替えして演じて行く様子からも、「ハムレット」のストーリーは旅役者の演じる劇中劇である、という演出意図があるように思いました。
そんな劇中劇の「ハムレット」の中に更に旅役者たちが登場し、ストーリー中の事件が芝居で再現され……とまるでマトリョーシカのような入れ子構造。「この世はすべて芝居だ!」とでも言うような世界観にくらくらして来ます。

そんな「ハムレット」ですが、ストーリーの中心にいるのは、主人公のハムレット王子ではなく、その叔父クローディアス王かなという印象を受けました。
「モンテ・クリスト伯」では、強靭な意志と優れた頭脳で復讐劇を遂行して行く主人公が常にストーリーを支配していたのに対して、ハムレットは後手後手に回って振り回されている感じ。
反対に、常に台風の目になっているのがクローディアス王で、最初の悪事(兄殺し)を働いた後、何とかそれを取り繕おうとあがけばあがくほど深みにはまって周囲を巻き込みながらものすごい勢いで破滅に向かって行く様子が、負の意味での真の主役と見えました。

8人の役者さんたちの全員が芝居・歌・踊り・殺陣と巧みにこなせる方たちで、少数精鋭メンバーを集めました!という感じ。重臣ポローニアス役の斉藤晴彦さんも流石の上手さでした(昔、クラッシックに歌詞付けて歌ってたんですよねー)。

中々面白かったです。お母さんありがとう。

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安寿さんを見てても思うんですが、「ダーク」なヒーローを演じられる人と言うのは限られているような気がしないでもないです。
人間誰しも暗部はあるものですが、同時にそういう所は隠してかっこいいとこ見せたい、というのも人間の本能かと思います。自分の暗部を直視して、それを表現として昇華できるというのは、訓練しただけではどうにもならないその人の本質的な資質に依るのではないでしょうか(特撮物やなんかの分かりやすい悪役だと逆に割り切ってできるのでその限りではないですが)。
話が大ちゃんに飛びますが、彼の魅力(の一つ)もまた、ダークヒーローを演じる資質を備えていることかと思います(ご本人も「暗い曲が好き」と言ってますが)。
「オペラ座の怪人」を使うスケーターは数多くいて魅力も持ち味も人それぞれですが、大ちゃんのファントムは何よりも「黒い」所がいい(笑)。ファントムのダークな部分を前面に出しながら、その黒さをも魅力に変えることができるのは、持って生まれた彼の素質だと思います。