久しぶりのアップは、
私の中国茶の恩師である「李自強 宗師」について。
シンガポールで情報の収集にかかせない今月号のJ-plusに
「李自強 宗師」が2ページにわたり大きく紹介されています。
シンガポール在住の方はすでにご覧の方も多いかと思いますが、
まだという方は11月18日号をぜひご覧ください。
こんな方だったのねーという驚きの声も多いようです!
上の写真は昨年のクリスマスの李宗師のテーブルコーディネート。
個性的な石を使ったテーブルは、ドライアイスの煙がでてくる演出もあり幻想的だったようです。
J-plus(11月18日)の記事、長いですがご紹介しますね。
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お茶はもともと中国で発祥したと言われ、細かく分類するとその種類は約数千種類にも及ぶという。
それぞれに飲み方や効能などがあり、その世界は非常に奥深い。
茶芸はそんな中国茶を美味しく飲むための作法として、1970年代に日本の茶道を参考に台湾で創始された。
今年創立20周年を迎える「留香茶芸」は、シンガポールで創立された茶芸。
お茶を美味しく飲むことに加えて、伝統とモダンを織り交ぜた芸術性の高い作法を提案し、世界各国で衆目を集めてきた。
その独自のスタイルは、日本をはじめ世界各地にいるインストラクターによって拡がり、茶芸の新流派を形成している。
創始者である李自強宗師は、日本人やシンガポール人などを中心に、これまで数千人の生徒に中国茶のレクチャーをしてきた。
そこで今回、留香茶芸の創立から現在の発展に至るまでの軌跡、また茶芸を通したご自身の人生観、
お茶の魅力について、李さんにお話を伺った。
リタイア後の人生に茶芸を選び、多くの人に支えられて流派を確立
李さんは福建省出身の祖父を持ち、シンガポール人としてこの地に生まれた。
高校を卒業し兵役を終えてからは、日本のデザイナー養成学校に留学した。
幼い頃から日本の文化に魅せられ、18歳の時には静岡県で開催されたボーイスカウトの世界大会に
シンガポール代表チームのリーダーとして参加。
当時皇太子だった現在の天皇と言葉を交わすなど貴重な体験の数々が、日本留学という志を高めたのだという。
卒業後はファブリックデザイナーとして洋服の生地やカーペット、バティックなどのデザインをしていたものの、
父親がシンガポールと台湾で、旅行や建築業など十数種類に及ぶ事業を手掛けていたため、
数年後にはその家業を手伝うべく台湾に渡った。
台湾では事業の采配を振るう傍らで、お酒を供すクラブやコーヒー専門店などを経営し、
精力的に事業化としての実績を積んでいった。
しかしそんな多忙な日々が続く中で、李さんは心身ともに疲れ果ててしまったという。
「37歳のときすべての事業から手を引いてリタイア生活に入りました。そして、この先の人生は
心の平穏を求めて自分の好きなことだけをしようと決めたのです。
私の場合それがお茶でした。お酒やコーヒーは一度飲めば量が限られていますが、
ヘルシーで滋養効果も高い。歴史や効能などを調べ、お茶のことを知れば知るほど、
どんどんその奥深さに惹き込まれていきました」
もともと好きなことに我を忘れて没頭するタイプだという李さん。
世界各国の茶の教室や茶園をまわり、ひたすら茶の世界を追求する日々を過ごした。
そして今から20年前、それまでの経験と知識を総集結した、新しいスタイルの中国茶である
「留香茶芸」を確立した。
通常は、茶芸が一つのスタイルを確立し「流派」として体系化するまでには、最低でも50年という時間を要するそうだ。
留香茶芸は圧倒的なお茶の知識に加えて、美しい所作で心を込めて茶をいれる、
という今までの中国茶にはなかった発想が、多くの人々に支持され継承され、
自然に流派として認識されていったという。
「中国や台湾には中国茶教室がたくさんありますが、流派と呼ばれるものはありません。
大抵の生徒は、茶葉の知識などを通り一遍学んだところでやめてしまうので、
お茶の淹れ方が雑になったり、味にバラつきがでたりします。
留香茶芸は生徒と共にいつまでも学び続けることで、高いレベルの作法や茶に対する高潔な精神を保っています。
それが流派を形成している茶芸と、そうでない一般のお茶教室との違いではないでしょうか」
現在、留香茶芸の志を受け継いだインストラクターたちが、日本をはじめベトナムやタイなど
世界各地で教室を開講し、たゆまない努力で留香茶芸の文化伝承活動を支えている。
皆に喜ばれるアイデアを提案し、良い人の輪が広がる教室を目指す
「芸術性を主とし、技術を副とする」という留香茶芸の新しいスタイルの茶芸は、
「視覚と味覚の芸術」として世界茶連合会などから高い評価を得ている。
茶道具を含めたテーブルディスプレイの研究科のコースなどもあり、作法だけではない茶芸が学べる。
李さんはもともとデザイナーのセンスを如何なく発揮して、色彩や構図を考慮した茶会の設えを提案している。
李さんはお茶以外にも、絵画や音楽といった芸術全般に造詣が深い。
自ら絵を描いたり陶芸をする他、教室に二胡の講師を招いてのレッスンも開講している。
中国のゆったりとした伝統音楽が流れる中でお茶を飲むと、気持ちが和むのだという。
李さんは「お茶はすべての文化の中心だ」と語る。
「子どもの頃、私の家には父の友人や政財界の要人が連日のように訪れては、
何杯ものお茶を飲みながら長時間にわたって談話をしていました。
その場では、様々な文化や芸術のことが語られており、私も自然をそれに親しんできたのです。
今のこの時代も世界の各国で、テーブルを囲みお茶をしながら、情報や知識を交換し合い文化を育んでいる人々たちがいます。
お茶は人々の交流の場には欠かせないものとして万人に受け入れられ、
日々の暮らしや文化の中心に位置してきたのです」
一杯のお茶には人生が詰まっています。奥深い。味のある人生をおくるために茶芸を通して心の勉強をしてほしいのです。
人を喜ばせるのが好きな李さんは、茶会では、自らデザインしたテーブルクロスやコースター、
クッションカバーなどをお土産にしたり、あるいはシンガポールに来たばかりの方に友達を作る機会を与えてあげたいと、
生徒の親睦会を開催したり、中秋節には月餅を食べるイベントを提案したり、また、有名な茶畑や茶器の製造工場を訪れる
海外ツアーなども実施し、好評を得ている。李さんは茶芸教室を通して、良い友人の和が拡がることを望んでいるのだ。
「私が「留香茶芸」という名に込めた思いは、「お茶のいい香りを留める」という意味だけでなく、
人に良い印象を残す、いい記憶を残す、という意味もあります。皆さんにとって良い思い出が残るお教室でありたいですね。
李さん曰く、「1杯のお茶には人生が詰まっている」という。お茶には甘み、苦み、渋み、酸味と複雑な味があり、
それらがすべて混じり合って素晴らしいお茶になる。人生においても、甘い出来事や苦い体験、
酸い思いなどをしてこそ、奥深い味のある人生になる。だからこそ、茶芸を通して多くの人と触れ合い、
いろいろな事を経験し、心の勉強をしてほしい。茶芸において最も大切なのは、知識や技術といった表面的なことではなく、
心のありようなのだと語る。
留香茶芸の流派は大きな一家族。仲間を信頼し、共に学び続ける
留香茶芸では、インストラクターの認定を受けて自らの教室を持てるようになるまで、最短でも2年はかかる。
そのため受講料を安く設定し、生徒が長く通える配慮をしている。
高額な授業料を取って短期間でインストラクターの認可証を渡すようなやり方では、本当の上達には結びつかないと考えているからだ。
長い時間をかけることで、茶の精神を理解する心が芽生え、決まった形の美しい所作が自然とできるようになるのだという。
「生徒は覚えたことを頭のなかで反復し、考えながらお茶をいれますが、指導者ともなれば考えてはいけません。
作法が完全に身につき、一連の所作を流れるように行わねばならないのです。
またインストラクターになるには、師としてふさわしい人格も重要です。その点、日本人の生徒は礼儀正しく、
他人を思いやる心を持っており、師としての素質が充分にある方ばかりです」
留香茶芸の精神は「和愛謙静」。「和」は人間関係において和を重んじること、
また茶道具やテーブルをコーディネートする際に、全体の調和を図るという意味もある。
「愛」は家族や友達に限らず、子供や老人を含めすべての人を敬愛する心、また自分の好きなことを貫く志のことを指している。
「謙」は常に謙虚な心を失わず、礼儀を忘れないこと、「静」は心を静かに保つことと、
また静寂のなかでお茶に集中する姿勢のことを表しているのだという。
それらの精神をきちんと理解した生徒のみ、指導老師の認定が与えられる。
インストラクターになった方々に対して李さんが一番望んでいることは、
「学び続けること」。李さん自身も日々、お点前練習の他、中国や京都などに出向いてはお茶を勉強している。
「私を含め、人間は全知全能には成りえません。だからこそ日々の鍛錬が必要なのです。
自分に厳しくありながら、生徒の指導にあたる時は常に包容の心を持って、心の通った交流をしたいと思っています」
リタイアしてから、お金を得ることに対し執着がなくなったという李さん。
現在も、留香茶芸の経営が滞らないだけの収益が得られればそれでいいのだという。
また自分の好きなことをしているため、仕事という感覚がなく、いつもリラックスしていられるそうだ。
「今、私は毎日をハッピーに過ごしています。ハッピーだからどんなに忙しくても、心は疲れません。
好きなことをするのは、とても大事なことです。お茶に関しても、自分の好きな急須で入れるとコントロールしやすく、
美味しいお茶になります。茶葉も自分の好きなお茶を選んで飲めば、美味しいものです。
たとえ値段が高いお茶でも、好みの味でなければ意味がありません。」
お茶の修行だけでなく、こういった人生の師としての貴重な言葉を得たいと、たくさんの人が李さんのもとを訪れる。
李さんにとって留香茶芸とは「大きな家族のようなもの」だという。「生徒は家族の一員。だからこそ、
どんな時も生徒を信じています。」紙に大きく「信」の文字を書きながら、穏やかにそう語る。
そんな李さんが率いる留香茶芸の、高徳な精神に支えられた新しいスタイルの茶芸は、
今後も多くの人を魅了し、ますます流派の裾野は拡がっていくことだろう。
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シンガポール在住の方で中国茶にご興味のある方は、
ぜひ一度「留香茶芸」を訪れてみて下さい。
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