すぐキレるひとのことを「瞬間湯沸かし器」というが、映画のなかにおける最強・最狂の瞬間湯沸かし器キャラといえば、『グッドフェローズ』(90)のトミーと、『カジノ』(95)のニッキーだろう。
どちらも、ジョー・ペシが演じている。
昔の職業(靴みがき)をからかわれただけで「自分より、位が上」だった男を殺し、
友人に無礼な態度を取っただけで、万年筆でその男の首をメッタ突きにする。
ペシは身長の低い俳優さんだが、こういう凶暴なキャラクターがよく似合う。
『グッドフェローズ』のエンディング、主人公ヘンリーの独白シーンでトミーが画面に向かって銃を撃つショットがインサートされるが、これはそのままの意味で「トミーが生きていたら、どんなに逃げても追いかけてきて殺されるだろうな…」ということである。
さて。
自分が本気で殴られて打ちのめされた話。
その昔、出所したての元ヤクザと組んで仕事をしていたことがある。
・・・という書きかただと堅気ではない仕事のように思われるかもしれないが、役所からの依頼で、違法広告物などを撤去する真面目な内容のものだった。
元ヤクザ(以下、Aさん)がドライバー、自分が助手席に座って町を一周し、電柱に張られたチラシや捨て看板などを撤去していく、、、と。
親しくなったころ、Aさんに「なんで刑務所に入っていたんですか」と問うてみたことがある。
「裏切り者の腕を斬り落とした」
「えっ」
「だから、斬り落としたんだよ」
「・・・・・」
二の句が継げなかった。
ホンモノだな、なにがあっても文句をいわないようにしよう―と、こころに誓ったものである。
その罪で、約7年の刑期を務めた。
そのあいだ浮気もせずに待ってくれていた女性と結婚し、足を洗い、いま真面目に働き始めたと。
基本は、いいひとだった。
しかし前科の内容が怖過ぎるので、距離感を間違えないように接していたところはあったように思う。
Aさんは、字を書くのが苦手だった。
役所に提出する報告書はドライバーが書かなくてはいけなかったが、それがイヤだという。
「コーヒー奢るからさ、お前、書いてくれないか。字、巧いし、いろいろ漢字知っているだろう」
「えぇ、べつに構わないですよ」
こうして毎日、自分が報告書を書くようになった。
そんなある日のこと―。
自分はいつものように助手席で報告書を作成。
そのあいだ、Aさんは荷台で違法広告物を種類分けしていた。
その日はなんだか気分がよくて、鼻歌まじりで文章を書いていたんだ。
すると・・・
「おい」
「はい?」
「お前、俺をバカにしているんだろう」
「なにがですか?」
「字が書けないからって」
「どうしたんですか」
「漢字を知らないからって」
「・・・」
「ちょっと外に出ろ」
なんかイヤな予感がしたが、それに従った。
詰め寄るAさん、
「そうなんだろう」
「なにをいっているんですか」
「前から思っていたんだ、報告書を書くとき、いつもヘラヘラしやがって」
「いえ、だからこれは、地顔ですよ」
「俺をからかっているのか」
「そんなわけないじゃないですか」
「じゃあ、力で勝負だ。殴ってこいよ」
・・・・・この発想が、う~ん偏見があるかもしれないことを承知でいうが、元ヤクザっぽい。
勝てっこないことを知っているので、もちろん自分は手を出さなかった。
じゃあ謝罪したのかといえば、謝る理由が分からない。
たぶん鼻歌にカチンときたのだろうが、こっちもムキになって素直に謝らなかった。
2~3分の問答が繰り返されたあと、イライラが募ったAさんが突然自分を殴打した。
・・・・・。
左フックは完璧に決まり、自分はその場に倒れこんだ。
痛いとか、そういう感覚さえなかった。
一瞬、死んだかと思った。
そのくらい、キレイに決まった。
倒れている自分に、Aさんはヒトコトだけいった。
「この世は、強いもので動いているんだ。忘れるな」
ある一面の真理ではあると思ったが、いやちがう!! と抵抗したかった。
・・・が、たぶんもう一発パンチが飛んできそうなので、それはいわなかった。
27歳のころの出来事である。
それ以前にアントニオ猪木のビンタや、元チャンプ畑山のパンチを喰らったことがあるが、これほどのインパクトはなかったと記憶する。
Aさん。
元気してますか?
10年以上が過ぎた現在だったら、あなたに勝てそうな気がします。
いっちょ、勝負しませんか?
・・・・・。
あ、でも、やめておきます汗汗
おわり。
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『オモチャーと、カルチャーと』
どちらも、ジョー・ペシが演じている。
昔の職業(靴みがき)をからかわれただけで「自分より、位が上」だった男を殺し、
友人に無礼な態度を取っただけで、万年筆でその男の首をメッタ突きにする。
ペシは身長の低い俳優さんだが、こういう凶暴なキャラクターがよく似合う。
『グッドフェローズ』のエンディング、主人公ヘンリーの独白シーンでトミーが画面に向かって銃を撃つショットがインサートされるが、これはそのままの意味で「トミーが生きていたら、どんなに逃げても追いかけてきて殺されるだろうな…」ということである。
さて。
自分が本気で殴られて打ちのめされた話。
その昔、出所したての元ヤクザと組んで仕事をしていたことがある。
・・・という書きかただと堅気ではない仕事のように思われるかもしれないが、役所からの依頼で、違法広告物などを撤去する真面目な内容のものだった。
元ヤクザ(以下、Aさん)がドライバー、自分が助手席に座って町を一周し、電柱に張られたチラシや捨て看板などを撤去していく、、、と。
親しくなったころ、Aさんに「なんで刑務所に入っていたんですか」と問うてみたことがある。
「裏切り者の腕を斬り落とした」
「えっ」
「だから、斬り落としたんだよ」
「・・・・・」
二の句が継げなかった。
ホンモノだな、なにがあっても文句をいわないようにしよう―と、こころに誓ったものである。
その罪で、約7年の刑期を務めた。
そのあいだ浮気もせずに待ってくれていた女性と結婚し、足を洗い、いま真面目に働き始めたと。
基本は、いいひとだった。
しかし前科の内容が怖過ぎるので、距離感を間違えないように接していたところはあったように思う。
Aさんは、字を書くのが苦手だった。
役所に提出する報告書はドライバーが書かなくてはいけなかったが、それがイヤだという。
「コーヒー奢るからさ、お前、書いてくれないか。字、巧いし、いろいろ漢字知っているだろう」
「えぇ、べつに構わないですよ」
こうして毎日、自分が報告書を書くようになった。
そんなある日のこと―。
自分はいつものように助手席で報告書を作成。
そのあいだ、Aさんは荷台で違法広告物を種類分けしていた。
その日はなんだか気分がよくて、鼻歌まじりで文章を書いていたんだ。
すると・・・
「おい」
「はい?」
「お前、俺をバカにしているんだろう」
「なにがですか?」
「字が書けないからって」
「どうしたんですか」
「漢字を知らないからって」
「・・・」
「ちょっと外に出ろ」
なんかイヤな予感がしたが、それに従った。
詰め寄るAさん、
「そうなんだろう」
「なにをいっているんですか」
「前から思っていたんだ、報告書を書くとき、いつもヘラヘラしやがって」
「いえ、だからこれは、地顔ですよ」
「俺をからかっているのか」
「そんなわけないじゃないですか」
「じゃあ、力で勝負だ。殴ってこいよ」
・・・・・この発想が、う~ん偏見があるかもしれないことを承知でいうが、元ヤクザっぽい。
勝てっこないことを知っているので、もちろん自分は手を出さなかった。
じゃあ謝罪したのかといえば、謝る理由が分からない。
たぶん鼻歌にカチンときたのだろうが、こっちもムキになって素直に謝らなかった。
2~3分の問答が繰り返されたあと、イライラが募ったAさんが突然自分を殴打した。
・・・・・。
左フックは完璧に決まり、自分はその場に倒れこんだ。
痛いとか、そういう感覚さえなかった。
一瞬、死んだかと思った。
そのくらい、キレイに決まった。
倒れている自分に、Aさんはヒトコトだけいった。
「この世は、強いもので動いているんだ。忘れるな」
ある一面の真理ではあると思ったが、いやちがう!! と抵抗したかった。
・・・が、たぶんもう一発パンチが飛んできそうなので、それはいわなかった。
27歳のころの出来事である。
それ以前にアントニオ猪木のビンタや、元チャンプ畑山のパンチを喰らったことがあるが、これほどのインパクトはなかったと記憶する。
Aさん。
元気してますか?
10年以上が過ぎた現在だったら、あなたに勝てそうな気がします。
いっちょ、勝負しませんか?
・・・・・。
あ、でも、やめておきます汗汗
おわり。
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明日のコラムは・・・
『オモチャーと、カルチャーと』