2003年6月24日(火)
#173 ビリー・ジョエル「ソングズ・イン・ジ・アティック」(CBS/SONY 20KP 733)
ビリー・ジョエルのファースト・ライヴ・アルバム。81年リリース。
77年発表のアルバム「ストレンジャー」で全世界的にブレイクした彼の初のライヴ盤は、80年6~7月のサマーツアーの模様を収めながらも、なぜか初期(71~76年)の4作に絞り込んだ選曲となっている。
アルバム・タイトル(屋根裏部屋にしまわれていた歌)が示すように、彼がブレイクする以前の、ほとんど知られていない名曲を集めたものといえる。
これは、すでに超売れっ子、スーパースターとなっていた彼が、あえて「初心忘るべからず」ということで企画した一枚なのだろう。ジョエル自身がライナー・ノーツを書いているほどの、入れ込みようだ。
<筆者の私的ベスト3>
3位「さすらいのビリー・ザ・キッド(THE BALLAD OF BILLY THE KID)」
同じ名前だから、かどうかは知らないが、ジョエルにとって「心のヒーロー」ともいうべき伝説的人物、ビリー・ザ・キッドを歌ったナンバー。
セカンド・アルバムにして、彼の存在を世間に広く知らしめた「ピアノ・マン」(73年)に収められた名曲。
オールド・タイミーなスタイルのピアノが全開。どこかのどかで、ノスタルジックな曲調は、まさに「古き佳きアメリカ」そのもの。
現代の吟遊詩人、ビリー・ジョエルが歌う、放浪するビリー・ザ・キッド像は、街から街へとツアーを続けていくジョエル自身と、見事にダブっている。
ジョエル自身のハーモニカでゆっくりと始まり、頻繁にテンポ・チェンジを繰り返す。ピアノとバックとの掛け合いなど、メリハリに富んだ曲構成もまた、聴きものだ。
2位「さよならハリウッド(SAY GOODBYE TO HOLLYWOOD)」
「ストレンジャー」発表以前の彼のナンバー中、もっともポピュラーな一曲。76年リリースの第四作「TURNSTILES(ニューヨーク物語)」から。
彼の歌の中に一番出てくる都市は、もちろん彼が生まれ育ったニューヨークだが、彼はそれ以外にも、さまざまなアメリカの地名を曲中に歌い込んでいる。
この曲もその一例だし、本アルバムでは他に「ロサンゼルス紀行」なんてのもある。
フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」風、ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」を思わせる曲調が、なんとも懐かしい感じ。
リッチー・カナータの力強いサックス・ソロをフィーチャー。これぞ王道ポップス!と唸らせる。
もちろん、ジョエルの喉とピアノも絶好調。スタジオ版にも、決してヒケをとらない出来ばえだ。
1位「マイアミ2017(MIAMI 2017)」
こちらもまた、アルバム「TURNSTILES」から。
近未来のアメリカをテーマにしたSFチックな内容の作品。副題の「SEEN THE LIGHTS GO OUT ON BROADWAY」が示すように、歌詞中にニューヨークの描写もふんだんにちりばめられている。
これを演奏する場は、当然ここっきゃないでしょ!ということで、NYCはマディスン・スクウェア・ガーデンの、満場の観衆を前に披露。いやー、ウケるのなんのって。
特に(未来の)ヤンキーズについて歌ったところでは、観衆も狂喜乱舞状態。
生粋のニューヨークっ子、ビリー・ジョエルの面目躍如の一曲である。
彼のピアノ・サウンドをベースに、シンセを効果的にあしらったサウンドが、当時の筆者には新鮮に聴こえたものだが、20年以上の歳月を経ても、いまだにその魅力は色あせていない。
筆者自身、76年、77年と二回彼のライヴを聴いているが、これらのどの曲も、ヒット曲と同様愛着を持って歌いこんでいたのが印象的であった。
ヒット曲ぞろいとは言い難いが、ジョエルのすぐれて叙情的な歌詞とメロディ、その確かな歌唱力、そしてバックのパワフルなサウンドがこの一枚をライヴ盤の秀作にしている。
意外と忘れられがちな一枚だが、チェックしといて損はないと思うよ。
<独断評価>★★★★☆