NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#186 ハンク・モブレー「SOUL STATION」(BLUE NOTE CDP 7 46528 2)

2022-05-19 06:19:00 | Weblog

2003年9月12日(土)



#186 ハンク・モブレー「SOUL STATION」(BLUE NOTE CDP 7 46528 2)

ハード・バップ系のテナー奏者、ハンク・モブレーのアルバム。60年リリース。

ハンク・モブレーは、知名度はいまイチなれど、実力派のテナーマン。自ら率いるコンボのほか、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズにも一時参加していたことがある。

リーダー・アルバムは、ブルーノート・レーベルを中心に30枚以上。代表作は「ディッピン」「ロール・コール」そしてこの「ソウル・ステーション」など。

残念ながら、70年以降はほとんど作品を残しておらず、86年に55才の若さでこの世を去っている。

彼はジャズの「イノベーター」とよばれるような(たとえばジョン・コルトレーンのような)存在では決してなかったが、確かな技術と豊かなフィーリングを持った、職人肌のジャズマンだったと思う。

この終生「第二走者グループ」で終わったテナーマンを、筆者はけっこう気に入っている。

<筆者の私的ベスト3>

3位「IF I SHOULD LOSE YOU」

ジャズファンなら知らぬ者のない、スタンダード中のスタンダード。ロビン=レインジャー・コンビの作品。

ヴォーカルでいえばフランク・シナトラ、インストでいえばチャーリー・パーカーあたりが代表的なヴァージョンだろうが、このモブレー版もなかなかいい。

本盤のレコーディング・メンバーはカルテット編成。モブレーの他は、ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds)という、ブルーノート・オールスターズともいうべき豪華な面々。

それぞれがリーダー格ともいえる、このスゴい人々をバックにつけても、モブレーはのびのびとマイ・ペースで吹いているように思える。

特に「おっ」と思ったのは、自分のリーダー作ではすさまじいまでのドラミングを聴かせるブレイキーが、本盤ではひたすらバッキングに徹していること。過去にジャズ・メッセンジャーズで一緒にやっていただけあって、今回は見事にモブレーを「立てる」ような気遣いをしているのですな。さすが。

まずは、モブレーがテーマを吹き、イン・テンポで彼のアドリブ・ソロへ。

力みのない、のびのびとした彼のソロが2コーラス続き、それを引き継いで、ケリーのソロがワン・コーラス。

再び、テーマに戻って終了。

モブレーは、コアなモダン・ジャズ・ファンからは、そのどこか朴訥というか、ボソボソッとしたソフトな音色があまり好まれていないようだが、筆者的にはけっこう好きだな。

人間だって、いつもトンガった感じのひとより、あたりのやわらかな、素朴なひとの方が、接していてホッとするでしょ? それと同じです。

エッジの立った音もいいのですが、いつもそればっかり聴いていると疲れる。これがホンネかな。

2位「REMEMBER」

ジャズ史上屈指の名作曲家、アーヴィング・バーリンの作品。

このだいぶんオールド・ファッションなスタンダード・ナンバーを、実にカッコいいハード・バップにアレンジして聴かせてくれる。

まずはモブレーがテーマをゆっくりと吹き初め、次第にテンポを上げていく。

いかにも気持ちよさそうに、自然体で演奏しているのがよくわかる。流れるようなフレージングが、聴く者の耳にも心地よい。

それをサポートするリズム隊の演奏も、文句なし。とくに、早世のベーシスト、チェンバースのプレイは最高の「ノリ」である。

モブレーのソロに続いて、ケリー、そしてチェンバースが短めのソロを決め、テーマに戻って終わる。

あえてダラダラと長いソロでつなげず、コンパクトにまとめたのがマル。やはり、本作のリーダー、モブレーをうまく立てた作りになっている。

1位「SOUL STATION」

2、3位はスタンダード曲になってしまったが、もちろんモブレー自身のオリジナルにもいい曲がある。

なかでも、このタイトル・チューンでもある「SOUL STATION」は一番の出来ばえだと思う。

収録曲の中では一番長く、9分あまり。まずは、ケリーのピアノに導かれて、モブレーがブルース風のテーマを吹く。

このメロディが実にファンキーなんだわ。さすが、ジャズ・メッセンジャーズのメンバーだっただけのことはある。

モブレーがそのままアドリブに突入、心のおもむくままにロング・ソロを吹き上げる。いかにもブルーズィなフレーズの連続がうれしい。

続いてケリーのソロ。これもまたごキゲン。おなじみのクールなトーンで、バッチリとアドリブをキメてくれる。

そして、チェンバースのソロが続く。これがまたグーでございます。

テーマに戻り(何故かドラム・ソロはない)、派手な雰囲気で盛り上げて、ジ・エンド。

この曲は、何度聴いても、あきるということがない。モブレーのコンポーザーとしての才能も感じさせるナンバーだ。

ベストな選曲に、ベストな演奏に、ベストな録音。いろんな意味で、モブレーのベストな時期を伝える一枚。

モダン・ジャズだとか、ハード・バップだとかいうくくりとは関係なしに、音楽好きなひとにはぜひ一度聴いてみていただきたいものです。

音楽とは何か、気持ちよい演奏とは何かが、明快にわかりますから。

<独断評価>★★★★★