NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#182 マディ・ウォーターズ「ELECTRIC MUD」(MCA/Chess CHD-9364)

2022-05-15 05:15:00 | Weblog

2003年8月24日(日)



#182 マディ・ウォーターズ「ELECTRIC MUD」(MCA/Chess CHD-9364)

マディ・ウォーターズのオリジナル・アルバム、68年リリース。マーシャル・チェス、チャールズ・ステプニー、ジーン・バージが共同プロデュース。

まずは論より証拠、一曲目から聴いてみて欲しい。「ン!?これって、ブルース?」となること、間違いなしだから。

このアルバム、全編がなんとも奇妙なサイケデリック・アレンジに彩られているのであります。

<筆者の私的ベスト3>

3位「LET'S SPEND THE NIGHT TOGETHER」

本アルバムは、過去の自分のレパートリーを、新アレンジにて再録音したものが多いが、これは他のアーティストのカヴァー。

マディのことを父と慕うバンド、ローリング・ストーンズの67年のヒットである。ジャガー=リチャ-ズの作品。

このちょっとエロティックな歌詞を持つナンバーを、マディはハードにドライヴするアレンジで、力強く歌いまくる。

この重心が低いバック・サウンドが、実にごキゲン。ノレます。ストーンズ版より、むしろ好きかも。

今回のレコーディング・メンバーは、従来のマディのバック・バンドとは違っていて、だいぶんロック色が強く、寄せ集めのセッションといった方がよいかも知れない。

プロデュースも担当したサックス奏者、ジーン・バージ、キーボード奏者のチャールズ・ステプニーは、いずれも前年の「BRASS AND THE BLUES」からの付き合い。

これにギターのピート・コージー、フィル・アップチャーチ、ローランド・フォークナー、ベースのルイス・サタフィールド、ドラムスのモーリス・ジェニングスという、初参加組を加えて編成。

従来のマディ組、ジェイムズ・コットン、オーティス・スパン、パイントップ・パーキンス、ウィリー・スミスといった面々は一切加えず、完全に白人ロックを意識したサウンドに仕上げている。

2位「MANNISH BOY」

後期マディの代表的ナンバー。自身も相当気に入っていたようで、何度となくスタジオ、ライヴでレコーディングしているが、オリジナル版はこれ。

マディ自身の作品だが、その曲調には、同年のアルバム「SUPER BLUES」でコラボレートしたボ・ディドリーの影響も色濃いように思う。いわば、マディ版「I'M A MAN」。

曲の大半がMCで、メロディなんてなしに等しい。「HOOCHIE COOCHIE MAN」にも似た構成だ。

これがなかなかカッコよい。即席で作ったようなテキトーな詞を、べらんめえ調でまくしたて、聴く者を煽っていく。一種、元祖ラップ・ミュージックふう。

ライヴにはうってつけの、「つかみ」の一曲といえそう。

いい意味で「唯我独尊」なのがウリの、マディらしさがよく出たナンバー。ビートが最高に気持ちよく、サイケ・ギターもピタリとハマっている。

この「MANNISH BOY」、その後、少しずつアレンジを変えて再演しているので、その変遷史をたどっていくのも一興だろう。

1位「I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU」

マディといえばやはり、この曲と「HOOCHIE COOCHIE MAN」だろうな。2曲ともに収録されているが、筆者の好みはこっち。

のっけから、ピート・コージーとおぼしきファズ・ギターが炸裂! ベースのルイス・サタフィールドが、ノリのいいリフを繰り返す。

もう、カッチョいいのひとこと。

ドラムスのモーリス・ジェニングスも、ところ狭しと暴れまくる。従来のブルースでは到底許されない、乱暴狼藉の極みである。

そして御大マディは、そのヴァイオレントなサウンドにもまったくひるまず、雄々しく、猛々しく吼えまくる。

最後は、チャールズ・ステプニーのファンキーなオルガンが乱入、プロレスの場外乱闘の如き有様で、エンディング。

いやー、痛快痛快。オトコ気全開、まさに格闘技のようなハード・ロッキン・ブルースなんである。

これらの他にもテンプテーションズの「MY GIRL」のインストを後半にくっつけた「SHE'S ALRGHT」、「MORE REAL FOLK BLUES」収録のナンバーをスーパー・へヴィ・アレンジで再録音した「THE SAME THING」などが聴きものだ。

本アルバムのリリースされた68年、時はまさにサイケデリック・ロックの開花期。ジミ・ヘンドリクスをはじめとして、クリーム、ストーンズ、ヤードバーズなどがこぞってサイケを追究していた。

そのへんを敏感に察知、「サイケ」というトータル・コンセプトで一枚のアルバムにまとめ上げたのは、なかなかの先見眼といえるだろう。

確かに、「これがブルースか?」と聞かれたら、「だいぶん外道なブルースだ」としか答えようのない、逸脱ぶり。サイケデリック・ロック、さらにはフリー・ジャズ的要素まで盛り込んだそのサウンドは、かなり変態チックだ。

でも「変態ブルース」も、ブルースであることに変わりはないと思う。

そもそも、ブルース自体が、相当「エクストリーム」な音楽だったんだから。外道な連中が仲間うちで、たがいに外道よばわりしてどうすんの(笑)。

細かいことなど言わずに、この「変態ブルース」を大いに楽しもうじゃないか。

<独断評価>★★★