NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#185 ハウリン・ウルフ「MOANIN' IN THE MOONLIGHT」(MCA/Chess CH-9195)

2022-05-18 05:16:00 | Weblog

2003年9月10日(水)



#185 ハウリン・ウルフ「MOANIN' IN THE MOONLIGHT」(MCA/Chess CH-9195)

ハウリン・ウルフのチェスにおけるデビュー・アルバム。62年リリース。

シングルの寄せ集めによる作品ということでは、以前取り上げた「ロッキン・チェア・アルバム」と同様だ。

レコーディングの年代は、51年から59年までと、かなり広がりがある。

<ギターのカッコよさで選ぶベスト3>

3位「SMOKESTACK LIGHTNIN'」

ウルフといえば、その相棒ギタリストはもちろん、ヒューバート・サムリン。このアルバムでも、初期(51年)の2曲と、56年7月録音の1曲を除く9曲で登場、その華麗なプレイを聴かせてくれる。

この曲は56年1月の録音。ウルフの作品。

サムリンと、初期ウルフ・バンドで活躍していたウィリー・ジョンスンがギター。

クラプトン在籍時の第二期ヤードバーズがカヴァーしたことであまりに有名なナンバーだが、オリジナルもなかなかごキゲン。

延々と繰り返されるワンコードのシンプルなリフはあまりに強烈。これが、ヤードバーズ→ニュー・ヤードバーズ→レッド・ツェペリンという流れの中で、「ハウ・メニー・モア・タイムズ」というオリジナル曲へ昇華していったと言えるだろう。

さて、この曲でのサムリンのプレイはといえば、ソロをウルフのハーモニカにもっぱら預けて、リフを繰り返しているに過ぎないのだが、そのソリッドな音色がなんともカッコいい。

ソロを弾かずに、きっちり自己主張が出来るギタリストなんて、そうざらにいるもんじゃない。サムリンは、そのタイプの数少ないひとりだね。

彼の奏法の特徴は、なるべく単音、使ったとしても2音程度に抑えて(つまりコード奏法はほとんど使わない)、一音一音を出来るだけクリアに出しているところだと思う。

そのへんは、ウィリー・ジョンスンがソロを弾く「HOW MANY MORE YEARS」とこの曲を聴きくらべてみると、歴然だろう。

もう、響きからしてまるで違う。中低音を効かせたジョンスンのギターに比べ、サムリンのそれはあくまでトレブリーで、刃物のように鋭い。この音がレスポールから出ているとは、なんとも不思議だよね。

2位「FORTY FOUR」

54年の録音。ウルフの作品。彼の比較的初期のヒットといえそう。

このアルバム中ではちょっと異色の、遅めのシャッフル。

たとえていうなら「KILLING FLOOR」や「SHAKE FOR ME」あたりの曲を、半分の速さにした感じの、粘りのあるビートだ。

メロディ・ラインは「ROLLIN' AND TUMBLIN'」に通ずるものがある。

この曲でもサムリンはほとんど、ソロらしいソロはとっていない。たとえていえば、ジョディ・ウィリアムズとふたりで、ダブル・リズムギターを弾いているという感じだが、延々と繰り返されるリフがけっこういいんだわ。

彼のギターは、そのライトな音色のおかげもあってか、歌のウラでずっと弾きっぱなしでも、しつこく感じられることがない。

あのコテコテの、ウルフのヴォーカルに重なっても、サウンドがクドくならない。これは、われわれが考えている以上の「離れ業」なのではなかろうか。

ジミー・ペイジの「ZEPマジック」に匹敵しているというべきか。いやいや、ペイジが彼らのサウンドから学んで、真似したのだといったほうが正しかろう。ZEPだけではない。ストーンズもそうだ。

おおかたのブルースマンは、シンガーとギタリストを兼務しているが、そのため、そのブルースマンひとりの個性が前面に押し出されてしまい、結果、よく言えば「濃い」、悪く言えば「くどい」「アクの強い」サウンドになりがちだ。

ウルフとサムリンの場合は、ふたつのパートを「完全分業」することによって、独自のクールなサウンド・バランスを保つことに成功している。

ふたりの対照的なキャラも相まって、実に絶妙なコントラストを織りなしているのだな、これが。

1位「I'M LEAVING YOU」

59年の録音。ウルフの作品。ギターはサムリンとL・D・マギー。

このアルバム中では珍しく、わりとまとまったサムリンのソロが聴ける一曲。コピーに向いているかも知れない。

サムリンといえば、人を驚かすような、突飛なフレーズが多いという印象が強いが、この曲でのソロはわりと常識的なラインだ。

おなじみの、高音を強調した、ややリバーブのかかった音で、これぞシカゴ・ブルース!というソロを聴かせてくれる。

ウルフの歌のバックでもずっとオブリを入れているので、3分ちょうどというコンパクトさにしては、結構聴きごたえあり、です。

このアルバム、どちらかといえば暗い曲調のものが多いし、後代のロック・ミュージシャンにカヴァーされた有名曲もあまり収録されておらず、いまひとつジミな印象なのだが、聴けば聴くほど味が出てくる、という感じだ。

人間の奥深いところにある「本性」をえぐり出して歌ってみせるのが、ウルフの真骨頂だと筆者は思うが、このアルバムのテーマ・チューンともいえる「MOANIN' AT MIDNIGHT」や「MOANIN' FOR MY BABY」を聴くと、まさにそれを感じる。

思わず、ゾクッと来まっせ。

<独断評価>★★★☆