2003年10月31日(土)
#192 バターフィールド・ブルース・バンド「EAST-WEST」(ELEKTRA/ASYLUM 7315-2)
バターフィールド・ブルース・バンドのセカンド・アルバム。66年リリース。
白人シンガー/ハーピスト、ポール・バターフィールド率いる6人組グループの、出世作となった一枚である。
メンバーに2名の黒人を含むとはいえ、彼らをホワイト・ブルース・バンドと呼ぶのは問題あるまい。
彼らの登場により、アメリカに本格的なホワイト・ブルースが根付いたからだ。
<筆者の私的ベスト4>
4位「WORK SONG」
ブルース・バンドと銘打ってはいたが、彼らは黒人のブルースに限らず、幅広いジャンルの曲を演奏していた。これもその一例だ。
ファンキーなプレイで人気の高かったアルト奏者、ジュリアン"キャノンボール"アダレイの作品。
黒人の労働歌をモチーフにしたこのジャズ・インスト・ナンバーを、彼らは実に多彩な切り口でアレンジしてみせる。
まずはマイク・ブルームフィールドのギター、続いてバターフィールドのハープ、マーク・ナフタリンのオルガン、そしてもうひとりのギター、エルヴィン・ビショップへとソロをつなげていく。
ブルース、ジャズ(ギターではオクターヴ奏法も見られる)、サイケデリックなロックが渾然一体となったサウンドが、なんとも圧倒的。
8分近くと長めの、インプロヴィゼーション、インタープレイを主体とした演奏だが、メンバー各人の高い演奏能力がそれを可能にしている。長丁場、決してダレたという印象はない。
「おれたちゃ、ブルースだけじゃないんだぜ、何だって出来るもんね」という意気込みが伝わってきそうである。
3位「WALKIN' BLUES」
こちらは、有名なブルース・ナンバー。ロバート・ジョンスンの作品だ。
オリジナルはもちろん弾き語りスタイルで、リズム・セクションを伴ってはいなかったが、こちらはジェローム・アーノルド(b)、ビリー・デイヴンポート(ds)の生み出す、ヘヴィーなビートにのって演奏するスタイル。これまた、カッコいい。
リード・ヴォーカルのバターフィールドも、黒人とはまた違った、独特の枯れた味わいのあるヴォーカル・スタイルがなかなかいい。
そしてもちろん、特筆すべきは彼のハープ・プレイだろう。
白人ミュージシャンとしては初めてシカゴのゲットーに入り、黒人たちの生のプレイから学んだだけあって、その艶のある音色は見事に"ブルース"を感じさせるものだ。
ちなみにバターフィールドは70年代、「ベター・デイズ」というバンドにおいてもこの曲を「NEW WALKIN' BLUES」なるタイトルで演奏している。アレンジ、テンポも微妙に違っているので、聴き比べてみるのも一興だろう。
2位「GET OUT OF MY LIFE, WOMAN」
ニューオーリンズの名プロデューサー、アレン・トゥーサンの作品。
歯切れのいいビートにのって、バターフィールドが思い切りシャウトする。聴く側も実に気持ちよい。
中間部、ナフタリンのころがるようなNO風ピアノ・ソロも、見事にキマっている。
またこの曲ではギターがバッキングに徹していて、前面には出てこないのだが、リズム・カッティングがカチッと決まっているので、地味という感じはしない。
ふたりもギタリストがいるので、ギター・バンドと把握されがちな彼らだが、決してゴリゴリ弾くだけでなく、全体の調和を考えた、「引き」のプレイをもきちんとマスターしているのは、さすがだと思う。
1位「EAST-WEST」
アルバム・タイトルともなっているナンバー。ブルームフィールドと、後に彼と「エレクトリック・フラッグ」なるバンドを結成することになる友人のシンガー、ニック・グレイヴナイツとの共作。
これがなんと、13分を越える超大作なんである。
タイトルが示すように、東洋的な音と西洋的な音との邂逅がテーマで、ブルースとかロックとかいった西洋の音楽ジャンルをいったん解体し、新たなサウンド作りに挑んだナンバーだといえそうだ。
まずは、ビショップのワンコード・ソロからスタート、最初はまだ普通のブルース・ギター風だ。
これを引き継いで、バターフィールドがソロ。ふだんの彼のプレイに比べて、ブルース色が稀薄という印象がある。
そして、三番手のブルームフィールドのソロからは、明らかに東洋的な音階へとシフト。
瞑想的なフレーズを延々と紡ぎ出していくさまからは、いつもの彼の、どっぷりとブルースに染まったプレイなど想像もつかない。
とはいえ、随所にファンキーなフレーズも溶かし込まれており、東洋へのエキゾチシズム一辺倒というわけでもない。
そしてハイライトは、バターフィールドとビショップのツイン・ギターの絡み。もう、「圧巻」のひとこと。
13分という長さを意識させることなく、一気に聴かせてしまうのだ。
やはりそれは、プレイヤーたちの並々ならぬテクニック、そして緊密、周到に練られたアレンジ、これが揃ってこそであろう。
「青は藍より出でて藍より青し」という譬えがあるが、ブルースをベースにしながらも、より多彩なイメージを持ったサウンドを創出したのが、このバターフィールド・ブルース・バンドだと思う。
まさに、ブルースを越えた、スーパー・ブルース。
この「EAST-WEST」という曲は、「ラーガ・ロック」という東洋風ロックの、流行の火付け役ともなったという。
それはとりもなおさず、この曲で展開されたサウンドが、いかに当時のリスナーやミュージシャンたちに強烈なショックを与えたかという証左ではなかろうか。
単なる黒人ブルースの模倣、亜流を越えて、白人ならではのオリジナルなサウンドを生み出した"創造力"、これこそが彼らの面目なのだといえるだろう。
<独断評価>★★★★★