2003年9月21日(日)
#187 デューク・ジョーダン「ブルー・デューク」(BMGビクター BVCJ-5020)
ビ・バップ期より息長く活動しているジャズ・ピア二スト、デューク・ジョーダン率いるトリオのアルバム。83年リリース、オランダ録音。
ジョーダンは22年生まれなので、彼が61才のときの作品ということになる。
<筆者の私的ベスト3>
3位「C JAM BLUES」
筆者がデューク・ジョーダンの存在を知って、もう30年近くになる。
中学・高校の同級に、若いくせに大変ジャズに詳しい男がいた。それもそのはず、彼のオヤジさんが長年ジャズ・レコードを収集していて、彼の家には何千枚もジャズのLPがあったのだ。
その彼が、一番入れ込んでいたアーティストがデューク・ジョーダンで、その影響で筆者もジョーダンに興味を持つようになった。と、こういうわけだ。
デューク・ジョーダンについて、その略歴を書いていくだけでも、相当字数を食いそうなので、ここでは簡単にふれるだけにしておこう。
60年、フランス映画「危険な関係」のために書いた「NO PROBLEM(危険な関係のブルース)」で一躍作曲家としても認められたが、第一線での派手な活動を嫌い、おもにヨーロッパで地道な演奏活動を続けるベテラン・ピアニスト。
チャーリー・パーカー・クィンテット、ジャズ・メッセンジャーズの一員だった時期もある。
そのプレイは、派手な技巧を前面に押し出したものではないが、味わいの深さ、ブルーズィな感覚においてはジャズ界屈指の名ピアニストといえよう。
さて、3位の曲はおなじみのエリントン・ナンバー。
すべてのジャズ・ピアニストたちにとって、「父」ともいうべき存在であるエリントンへの敬意を表して、取り上げたのだろう。
というのは、このアルバムには、彼自身のオリジナルで「FROM DUKE TO DUKE」というナンバーを録音しているのだが、この後のほうのデュークとは、エリントンに他ならないであろうから。
演奏のほうはといえば、ハリー・エメリーのベースがおなじみのリフを弾いてスタート。ジョーダンが抑制のとれたソロを4コーラスほど弾く。
続いて、ジェームズ・マーティンのドラム・ソロ。再びジョーダン、そしてエメリーのソロ。
最後はふたたび、エメリーがリフを弾いて、静かにエンディング。
若干控えめで、いわゆるホットな演奏という感じではないが、各人の職人技が十分に楽しめる。
2位「JOR DU」
「NO PROBLEM」と並んで知られる彼の代表曲。54年のアルバム「JOR DU」で発表して以来、何度となく演奏している。
おのおののヴァージョンが、そのまま、彼のプレイ・スタイルの歴史ともいえそうだ。
「JOR DU」という曲名は、ジョーダンの略称「DU JOR」をさかさまにしたものらしいが、まさに名刺代わりの一曲。マイナーのメロディが実に美しく、一回聴いたら忘れられない、強い印象を残すナンバーだ。
本アルバムの「JOR DU」は、自分よりだいぶん年若いエメリー、マーティンをバックに、トリオ編成で演奏される。
彼のリーダー・アルバムは、大半がホーンレスのトリオ編成によるもので、これが一番、彼にしっくりくるスタイルなのだろう。
本ヴァージョンは4分ちょうどと、コンパクトではあるが、内容の濃い演奏になっている。
ジョーダンが弾くイントロ、そしてテーマでスタート。
そのままジャーダンのソロに突入、スウィング感あふれる演奏が展開される。
どこか、バド・パウエルを連想させる、深くブルーズィな響きに、名人のたくみを感じずにはいられない。
決して「饒舌」ではなく、必要最小限の音なのだが、それでも確実に「自分」を語っている。
演奏はふたたびテーマに戻り、そのまま終了。
ジョーダンにつかず離れずでサポートするふたりのミュージシャンも、実に堅実でいいプレイを聴かせてくれるのだな、これが。
1位「NO PROBLEM」
なんのかんのいっても、ジョーダンの代名詞的ナンバー。スタジオ、ライヴを問わず、何回もレコーディングしており、彼にとっても愛着の深い一曲であることは間違いあるまい。
エメリーのベースに導かれて、ボッサ・ビートでテーマ演奏が始まる。途中、フォービートにチェンジしながらも、比較的ゆったりとしたリズムでプレイを続けていく。
サントラ盤の、速いテンポで、ホーンも入れた派手なアレンジのヴァージョンとは、実に対照的だ。
が、本ヴァージョンの、どこか倦怠感の漂う演奏も悪くない。
その根底にあるのは、やはり「ブルース」。マイナー調のメロディが、鬱で、やるせない気分を見事に表現している。
ジョーダンの、一音一音、丁寧に紡ぎ出されていくようなソロも素晴らしいし、エメリーの粘りのあるベース・ライン、マーティンの手堅いドラム・ワークもマル。
ヨーロッパのどこかの小都市の、こじんまりとしたジャズ・カフェあたりで聴いているような気分だ。
ピアノ・トリオならではの良さがよく出た、小味な一枚。休日の午後、コーヒーなどと一緒に、ぜひどうぞ。
<独断評価>★★★★