NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#176 サディスティック・ミカ・バンド「天晴(あっぱれ)」(東芝EMI CT32-5432)

2022-05-09 05:08:00 | Weblog

2003年7月13日(日)



#176 サディスティック・ミカ・バンド「天晴(あっぱれ)」(東芝EMI CT32-5432)

J-ROCKの先駆者といえるロック・グループ、サディスティック・ミカ・バンド、89年リリースのアルバム。

もちろん、オリジナルのほうではなく、再結成後のファースト・アルバムに当たる。

メンバーは加藤和彦、高中正義、小原礼、高橋幸宏というおなじみの面々に加えて、二代目ミカ(MICA)としてモデル出身の桐島かれんがヴォーカルで参加している。

<筆者の私的ベスト3>

3位「愛と快楽主義者」

今回のアルバムでは、二代目ミカの実力不足をカヴァーするためか(?)、過去の作品ではあまりリード・ヴォーカルをとらなかったメンバーも、積極的に歌っている。

この曲の小原礼&高橋幸宏もいい例だ。

森雪之丞、小原、高橋のペンによる、R&B調ナンバー。清水靖晃のテナーを加えた、テンプテーションズの「マイ・ガール」風のクラシカルなアレンジが、ちょっと異色。

小原の呟くような低音のヴォーカルもなかなかカッコいいし、ユキヒロの歌ももちろん、長年ヴォーカル・キャリアを積んだだけあって、のびやか。さすがの出来ばえだ。

ミカ・バンドって各メンバーの力量がすごくて引き出しが多いから、どんなサウンドでも出来るってことやね~。

2位「脳にファイアー! Brain's On Fire」

サエキけんぞう(当時パール兄弟)、小原礼の作品。

これがなんともイカしたハードロック・ナンバーなんだわ。

日本で初めて、世界に通用するロックサウンドを生み出した彼らならではの、カンペキな演奏。

ことに高中のギターが、ふだんのトロピカルなノリとはうってかわって、まことにハード&へヴィー。マジでハードロックしてます。ギター・キッズ、必聴ナリ。

リード・ヴォーカルはまずは小原が取り、サビでトノバンに渡す。こちらも実にパワフルにキマってる。

迫力あるサウンド同様、サエキのトッポい歌詞もなかなかオキニな一曲ざんす。

1位「Boys & Girls」

このトップ・チューンはシングル・カットされてヒットしたので、覚えていらっしゃる方も多いと思う。CFでもよく流れていた。

アルバム中では一番キャッチーでポップなナンバー。森雪之丞、小原、加藤、高橋の合作。

このミカバン再結成自体は、いかにもショーバイがらみ、某大手広告代理店がらみの「匂い」を感じてしまうのだが(ことに声がまるきり「ロック」していない、ミカ=桐島かれんの加入がそうだよね)、ミカが「使えない」ぶん、他のメンバーが張り切って歌っているようなので、それもまあよし、である。

サウンドは、いかにも89年当時の「最先端」といえそうなもの。

デジタルなビートに、小林武史のシンセ・ストリングス&ホーンがからみ、高中のディストーション・ギターが暴れまくり、かれんがラップで加わる。

ほぼ全員が参加の分厚いコーラスが、この老舗バンドの底力を感じさせるね。

で、なんといっても存在感があるのが、ユキヒロの「声」。彼の声は繊細で決してロックっぽくはないのだが、その得がたい魅力は、新生ミカバンの「核」となっていることは間違いない。

初代(?)ミカの、決して上手くはなかったがパンキッシュでアナーキー、ある意味「ロック」そのものだったヴォーカルこそオリジナル・ミカバンの魅力だった。

だが新生ミカバン=SADISTIC MICA BANDは、職人技でありとあらゆるサウンドをこなす「大人」のバンドであって、J-ROCKのフロンティアとしてのミカバン=SADISTIC MIKA BANDとはまた別のグループだと考えたほうがよいだろう。

ロックがロックたるためのサムシング、それは「欠乏感」「飢え」のようなものだと思うが、残念ながらこのアルバムにはそれがまず感じられない。

サウンド的には昔よりはるかに完成度が高くても、筆者としてはその一点が気になったのであります。ハイ。

<独断評価>★★★