2003年7月13日(日)
#176 サディスティック・ミカ・バンド「天晴(あっぱれ)」(東芝EMI CT32-5432)
J-ROCKの先駆者といえるロック・グループ、サディスティック・ミカ・バンド、89年リリースのアルバム。
もちろん、オリジナルのほうではなく、再結成後のファースト・アルバムに当たる。
メンバーは加藤和彦、高中正義、小原礼、高橋幸宏というおなじみの面々に加えて、二代目ミカ(MICA)としてモデル出身の桐島かれんがヴォーカルで参加している。
<筆者の私的ベスト3>
3位「愛と快楽主義者」
今回のアルバムでは、二代目ミカの実力不足をカヴァーするためか(?)、過去の作品ではあまりリード・ヴォーカルをとらなかったメンバーも、積極的に歌っている。
この曲の小原礼&高橋幸宏もいい例だ。
森雪之丞、小原、高橋のペンによる、R&B調ナンバー。清水靖晃のテナーを加えた、テンプテーションズの「マイ・ガール」風のクラシカルなアレンジが、ちょっと異色。
小原の呟くような低音のヴォーカルもなかなかカッコいいし、ユキヒロの歌ももちろん、長年ヴォーカル・キャリアを積んだだけあって、のびやか。さすがの出来ばえだ。
ミカ・バンドって各メンバーの力量がすごくて引き出しが多いから、どんなサウンドでも出来るってことやね~。
2位「脳にファイアー! Brain's On Fire」
サエキけんぞう(当時パール兄弟)、小原礼の作品。
これがなんともイカしたハードロック・ナンバーなんだわ。
日本で初めて、世界に通用するロックサウンドを生み出した彼らならではの、カンペキな演奏。
ことに高中のギターが、ふだんのトロピカルなノリとはうってかわって、まことにハード&へヴィー。マジでハードロックしてます。ギター・キッズ、必聴ナリ。
リード・ヴォーカルはまずは小原が取り、サビでトノバンに渡す。こちらも実にパワフルにキマってる。
迫力あるサウンド同様、サエキのトッポい歌詞もなかなかオキニな一曲ざんす。
1位「Boys & Girls」
このトップ・チューンはシングル・カットされてヒットしたので、覚えていらっしゃる方も多いと思う。CFでもよく流れていた。
アルバム中では一番キャッチーでポップなナンバー。森雪之丞、小原、加藤、高橋の合作。
このミカバン再結成自体は、いかにもショーバイがらみ、某大手広告代理店がらみの「匂い」を感じてしまうのだが(ことに声がまるきり「ロック」していない、ミカ=桐島かれんの加入がそうだよね)、ミカが「使えない」ぶん、他のメンバーが張り切って歌っているようなので、それもまあよし、である。
サウンドは、いかにも89年当時の「最先端」といえそうなもの。
デジタルなビートに、小林武史のシンセ・ストリングス&ホーンがからみ、高中のディストーション・ギターが暴れまくり、かれんがラップで加わる。
ほぼ全員が参加の分厚いコーラスが、この老舗バンドの底力を感じさせるね。
で、なんといっても存在感があるのが、ユキヒロの「声」。彼の声は繊細で決してロックっぽくはないのだが、その得がたい魅力は、新生ミカバンの「核」となっていることは間違いない。
初代(?)ミカの、決して上手くはなかったがパンキッシュでアナーキー、ある意味「ロック」そのものだったヴォーカルこそオリジナル・ミカバンの魅力だった。
だが新生ミカバン=SADISTIC MICA BANDは、職人技でありとあらゆるサウンドをこなす「大人」のバンドであって、J-ROCKのフロンティアとしてのミカバン=SADISTIC MIKA BANDとはまた別のグループだと考えたほうがよいだろう。
ロックがロックたるためのサムシング、それは「欠乏感」「飢え」のようなものだと思うが、残念ながらこのアルバムにはそれがまず感じられない。
サウンド的には昔よりはるかに完成度が高くても、筆者としてはその一点が気になったのであります。ハイ。
<独断評価>★★★