NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#189 嘉門雄三 & VICTOR WHEELS「LIVE!」(ビクター音楽産業 VFX-1001)

2022-05-22 05:07:00 | Weblog

2003年10月5日(日)



#189 嘉門雄三 & VICTOR WHEELS「LIVE!」(ビクター音楽産業 VFX-1001)

嘉門雄三 & VICTOR WHEELSによる最初にして最後のアルバム。ライヴ盤(CD未発売)。

嘉門雄三とはもちろん、サザンオールスターズの桑田佳祐の変名。英語の「C'MON」と加山雄三から名づけたのであろう。

桑田は本業のSASとは別に、息抜き・お遊びとして、企画ものを時々やりたがるひとだが、これはそのハシリといえそう。

81年3月、桑田とその周辺の有志で、SASゆかりの渋谷のライヴハウス「エッグマン」にてシークレット・ギグを二日間にわたって行ったのがきっかけで、このライヴ盤を出そうということになった。

同年12月11・12日、同じくエッグマンにて録音。

中身は一曲(A-2)を除いて、すべて英米のアーティストのカヴァー。もう完全に趣味の世界(笑)。ま、お遊びだからしかたないか。

<筆者の私的ベスト3>

3位「BLUES MEDLEY~BLUES POWER」

このライヴのメンバーは、SASからはベースの関口和之のみ。他は、斎藤誠(g)、国本佳宏(Key)、今野多久郎(per)、宮田茂男(ds)という顔ぶれ。

斎藤は、SASを生んだ青山学院大学の音楽サークル「BETTER DAYS」での、桑田の後輩にあたるギタリスト/シンガー。このアルバム発表後、ソロ・デビューも果たしている。国本はSASのアルバムでもおなじみのキーボーディスト/アレンジャ-。今野はのちにKUWATA BANDにも参加しているパーカッショ二スト。宮田も、BETTER DAYSに参加していたドラマーだ。

さて、3位はブルース・メドレーというよりは、クラプトン・メドレーといった方がいいかな。

このライヴではふだんのプロ活動では直接聴くことの出来ない、桑田の音楽趣味がモロに出ていて面白いが、このメドレーがまさにそう。

まずは、おなじみの「WORRIED LIFE BLUES」から。

転調して「RAMBLIN' ON MY MIND」、さらには「HAVE YOU EVER LOVED A WOMAN」へ。斎藤のギター・ソロが、なかなかカッチョえーです。

途中、いきなり放送禁止用語を叫び、観客にも叫ばせるという一幕がある。必ず笑いを取らないと気のすまない、桑田らしい演出やね~。英詞の歌でも、決してマジ一本やりではないのだ。

最後は「BLUES POWER」へとなだれこむ。もう、客席も大騒ぎ状態。

多少馴れ合いの感はありますが、少人数のライヴハウスならではの、密なコミュニケーションが感じられますな。

2位「SAY GOOD-BYE TO HOLLYWOOD」

このバンド、このライヴのテーマは、海のむこうの音楽にどれだけ肉薄出来るか、そういうことだと思いますが、答えはちょっとビミョ-です。

もしこれを、アメリカの白人、あるいは黒人が先入観なしに音源だけ聴かされたら、果たして「えー感じやん」というだろうか。かなり疑問です。

桑田はもちろん、日本ではトップ・アーティストと呼んでいいと思いますが、向こうに行ったら、そんなこと全く関係ないですからね。

ロックとかポップスとかいった音楽は、人種・民族を越えて受容・理解されるものではありますが、その作り手は、(多少の例外はあるにせよ)おそらく特定の人種・民族に限定されざるをえないでしょう。

何故なら、ロック、ポップス、ブルースといった「詞(ことば)」を伴うジャンルの音楽は、作り手の「言語生活」と深~くかかわっているからです。どんなに他民族がうまく模倣したつもりでも、オリジネーター達にとっては奇妙な「まがい物」にしか見えないものなのです。

たとえば紅毛碧眼の白人が、日本の民謡に魅惑されて、どれだけたくみにそれを歌ったとしても、われわれはそれを容易に自分たちの同胞が歌っている民謡とは同じようには思えないでしょう。せいぜい「キワモノ」扱いするのがオチです。

それと同じことで、いくら桑田が歌唱力があり、黒人なみの太い声を持っていたところで、彼がコテコテの日本人としての言語生活を送っていた以上、アメリカに渡って向こうで「まっとうな」ロック・シンガーとして認められるとはとても思えないのです。

彼自身、そのことはよくわかっていて、あえてアメリカ進出などという愚行はとらないのだと思います。それが賢明というものです。

さて、2位はといえば、このビリー・ジョエルのカヴァーですかな。

本盤ではジョエルでもう一曲「YOU MAY BE RIGHT」もやっているのですが、こちらのほうが歌の出来がいいかな。

桑田の歌唱力がいかんなく発揮されているナンバー。桑田というと「低音、巻き舌」というイメージが強いが、ちょっと苦しそうに高音をふりしぼるようにして出す感じも、実は悪くない。

中間部の斎藤のソロもグー。バックのコーラスも綺麗に決まっている。

若干ラフな印象はいなめない演奏ではあるが、「勢い」を評価したい一曲であります。

1位「REGGAE MAN」

結局、1位は並み居るカヴァー曲を押さえて、彼のオリジナルでありました(笑)。

まさに「ごくろうさま」って感じですが、やはり英語の歌詞の曲に比べると、ミョーな力みがなくて、自然なのが一番の理由です。

歌詞もこちらにすんなりと伝わって来ますし、やっぱり日本人は日本語で勝負するのが一番のようで。

桑田夫人の原坊もヴォーカルで参加。そしてMCのスネークマンこと小林克也も、嘉門=桑田との絡みで客席をわかせてくれる、実に楽しい一曲。

「完成度」ということでいえば、歌、演奏ともにだいぶん難はあるのだが、桑田をはじめ、メンバーはまだ二十代なかば、全体に若々しいパワーが漲っているので、それでよしとしよう。

なんてったって、ロックは「若さ」と「パワー」の音楽だからね。

<独断評価>★★★