2003年8月10日(日)
#180 ジェフ・ベック「ジェフ」(ソニー・ミュージック/EPIC EICP 195)
ジェフ・ベック、約3年ぶりのソロ・アルバム。この8月6日に発売されたばかり、出来たてホヤホヤの新作だ。
本作のプロデューサーはアンディ・ライト、ディーン・ガルシア、デイヴィッド・トーン、アポロ4:40(フォー・フォーティ)ら。
一般的なロックのファンには、あまりおなじみのない名前ばかりだが、ライトはジェフの前作「ユー・ハッド・イット・カミング」で既にプロデュースを手がけたひとだ。過去にはユーリズミックス、シンプリー・レッド等を担当している。
彼らの生み出すサウンドは、ジャンルでいえば「エレクトロニカ」というべきもの。
打ち込み、サウンド・エフェクトを多用した、アンチ・バンド・サウンド。99年の復活アルバム「フー・エルス!」以来、ジェフのバック・サウンドは明らかにこの傾向が強くなってきており、本アルバムはそれをさらに徹底させたといえそうだ。
この、無機質的なエレクトロニカに絡む彼のギター・プレイはどうかというと、これがジェフ・ベック以外のなにものでもない音。
若干、バックのノイジーさ加減に合わせて、ディストーションきつめかなぁ~とは思うが、そのフレージングには彼ならではの自由な発想が健在なんであります。
フリーキーにしてファンキー、そしてブルーズィ、まさにワン・アンド・オンリーなプレイだ。
<筆者の私的ベスト5>
5位「HOT ROD HONEYMOON」
アポロ4:40のグレイ兄弟らとジェフの共作。
いきなりアップテンポで、ブルーズィなスライド・ギターが始まる。まるで、ロバート・ジョンスンのよう。
これにエレクトリックな打ち込みの轟音と、ヌードダンサー出身のナンシー・ソレルの蓮っ葉なヴォイス、ビーチボーイズ風コーラスが絡んで、奇妙なアンサンブルを織り成す一曲。
途中のジェフのスライド・ソロが、指弾き以上にスピード感にあふれていて、実にカッコよろしい。
1930年代のカントリー・ブルースと、21世紀の最先端サウンドとの「出会い」が、意外とイケているのです。
4位「PORK-U-PINE」
ジェフ、アンディ・ライトらの共作。ライトのプロデュース。
ここではサフロンという女性シンガーのラップをフィーチャー。
「AND IF THE BOYS DON'T SAY IT, THE GUITAR WILL PLAY IT」というシンプルなリフレインがなんとも印象的。
ヘヴィーなエレクトロニカ・サウンドに負けじと、ギターを自由自在に鳴かせまくっているジェフ。
どことなくオリエンタルな響き、ワールド・ミュージック的な広がりも感じられる。ロックのイディオムをいい意味で「無視」した、彼らしい意欲作だと思う。
同じくライトによる「TROUBLE MAN」、ガルシアがプロデュースした「SO WHAT」、アポロ4:40とのコラボによる「GREASE MONKEY」あたりも、似たようなタイプの曲だ。
3位「BULGARIA」
タイトルが示すように、なぜか、ブルガリアのトラディショナルが一曲。ジェフとアンディ・ライトがアレンジを担当。
それまでの混沌、騒擾、狂乱(?)の電子サウンドから一転、一点の曇りもなく晴れわたった空のような、静謐な世界が現出する一曲。
ロンドン・セッション・オーケストラのストリングス・サウンドとともに、まるで撥弦楽器を弾いているかのように、自在にギターを操るジェフ。その姿は、神々しくさえある。
この曲からシームレスでつながる、アルバムラストの「WHY LORD OH WHY?」も、ニュアンスに富んだ深遠なジェフのプレイが聴けて、素晴らしい。
ギターを弾く以上、こういうプレイで聴くひとびとを魅了してみたいもんだ。切にそう思う。
2位「SEASONS」
ジェフ、ライトその他の共作。ライトのプロデュース。
途中までは「PORK-U-PINE」や「GREASE MONKEY」のようなエレクトロニカなのだが、ひと味違うのは、ストリングスを加えてサウンドに厚みを加えていること、そして途中テンポ・チェンジをして、ジェフの哀愁に満ちたソロをフィーチャーしている点。
ここの彼のソロは、変にギミックなど使わず、ストレートに弾きたいように弾いている感じが、好印象。
テクニックで相手をねじふせるのではなく、音の微妙なニュアンスによって聴く者を"感動"させるのである。
彼と同じくらいテクのあるギタリストはゴマンといるだろうが、その一点に於いて、彼を超えられるものはいない。
1位「JB'S BLUES」
プロデューサーのひとり、ディーン・ガルシアとジェフの共作。
アップテンポの曲が多い本アルバムの中では、珍しく落ち着いたテンポのナンバー。
ブルースとは銘打っているが、マイナー調のバラードといったほうがいいかも。でも、「ココロ」的にはまさにブルースな一曲。
深い悲しみをそのまま綴れ織りにしたかのような、ジェフのエモーショナルなプレイ、絶品です。
「悲しみの恋人たち」あたりに比べると、さらにプレイが進化して、ただ美しく弾くというのではなく、奥深い感情そのものをギターで表現出来るようになっているのがよくわかる。
40年余りのキャリアは、やっぱりダテじゃないね。
ジェフがグループ活動に見切りをつけ、ソロ活動に専念するようになって、はや28年。
その間、さまざまなインストゥルメンタル・ミュージックの可能性を模索し、多くの名演を残して来たが、この一枚もまた、余人の追随を許さない仕上がりだ。
ポップで聴きやすいというわけでは決してない。むしろ逆で、パッと聴いたぶんには、とっつきの悪い音かも知れない。
だが、音楽をそれなりのキャリアを積んで聴き続けたひとびとには、彼のサウンドの持つ「含蓄」がわかるのではないだろうか。
一聴しただけでは簡単にわからない、再聴、三聴してこそ、本当の価値がわかってくるアルバムだと思う。
ギターという楽器に己れの一生を託した男、ジェフ・ベックならではの世界。ギタリストを自認するすべての人々よ、心して聴くべし。
<独断評価>★★★★