僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

残 心

2010年04月02日 | ケータイ小説「パトスと…」
「さぁそろそろやるか」
浩二の声でみんな一斉に準備を始めた。

辰雄はすぐにカバーを解き
だらんとぶら下がっていた弦に撚りをかけた。

「浩ちゃん、ちょっと持ってて」
声をかけると学ランを脱いだままの浩二が「おう」と言って
辰雄の弓を肩口で受けた。

和弓は逆に反った弓を押し戻し撚りをかけた弦を先端に引っかけて準備する。
鴨居に角でも押さえることができるが
倶楽部ではふたりで代わりばんこに押さえて互いの弓を張るのが普通だ。

「辰雄はいつも早いなぁ、ちょっと待っててくれよな」

まだ胴着にも手を通していない浩二は、それでもあわてる様子はなく
笑いながら辰雄に言った。

辰雄は無言で頷き、張ったばかりの弦をわらじでこすっていた。
この日の為に作ったばかりのわらじに、裏庭で煮詰めた「ぎりこ」をたっぷりと付けた。
これで弦をこすり、摩擦熱で松ヤニを染みこませるのだ。

わらじは切れた弦で、長さ7センチほどの小さなわらじ型に編む
ぎりこは松ヤニを煮詰めた物で右手にはめる「弓がけ」の滑り止めに付けるものだ。
辰雄は薬局で購入した松ヤニを空き缶に入れ、自宅の裏庭で3時間ほど煮詰めて作った。
市販の物よりずっと軽く、使い心地がよかった。

弓道部の数人が段級審査に臨み、
いよいよ実技試験の時が近づいていた。

つづく






コメント
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