辰雄が目覚めた時、留美子は海を見つめていた
まるで、世界に人間なんて誰もいなくて
自分も空と海の青さに溶け込んでしまっているかのように
静かに、穏やかに、優しく
表現する言葉がないほどに自然と融合して
海を見つめていた。
辰雄はまだ夢のつづきを見ているのだと思った
だって留美子は目の前にいるのだし
さっきまでつないでいた手のぬくもりだってちゃんと残っているし
いつもなら気がついた時にはもういなくなっている留美子だったから
いちど目を逸らすときっといなくなってしまうのだろうという気がして
瞬きすらしてはいけないと思いながら見つめていた
柔らかな風が吹いて木の葉が騒いだ
それがあの落羽松の葉だということは分かっていた
「オレこの木好きなんだ」
辰雄が見上げながらつぶやくと
「私も好き」
留美子は落羽松に語りかけるようにそう言った
さっき確かにそう言った
つづく