ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

水ビジネスについてお伺いしました

2010年06月16日 | イノベーション
 「水ビジネス」という言葉をお聞きになったことがありますか。
 水道の蛇口をひねると、飲み水が当たり前のように出てくる日本ではあまり馴染みのない言葉です。こんな国は実は大変少ないのです。今後、BRIC'sなどの産業発展によって、将来は深刻な水不足に陥るとの予測もあります。

 水ビジネスという言葉は、日本の社会の産業構造の現状を端的に示す言葉になりつつあります。そして、日本のイノベーション創出にも深く関わっているのです。

 2010年3月に発行された「日本の水ビジネス」(東洋経済新報社発行)という単行本の著者である中村吉明さんにお目にかかりました。

 中村さんは現在、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の技術開発推進部長をお務めになっています。単行本を書く契機となったのは、経済産業省の環境指導室長の時の自主的な研究活動とのお話でした。


 今回は、実力派の某インタビュアーが6月14日午後に中村さんをインタビューするということで、横でお話を聞かせていただく機会をもらいました。自分で企画した取材ではないため、取材テーマに対する問題意識が絞られていません。以下、気になったことをつまみ食い的にまとめてみました。

 単行本「日本の水ビジネス」によれば、日本の地方自治体(地方公共団体)が運営・管理している上水道・下水道設備システムは老朽化し更新期を迎えているものが増えています。現在のような上水道・下水道料金を維持できるかを真剣に検討する時期に差し掛かっています。これまで設備拡張や維持のコストをあまり深く考えずに運営されているため、地域格差として現在でも1カ月当たりの一般家庭の水道代は約9倍あるそうです。1カ月当たりの使用量の基本単位となる20立方メートルの水(2007年時点の水道料金)は、最安値は700円、最高値は6132円と、自治体によって意外と大きな差があるそうです。

 地方自治体の財政問題や水道事業の運営のやり方によっては、将来、もっと格差が開きそうです。このため、一部では部分的に民間企業の助けを借り始めて、低コスト化を図っています。しかし、もし水道代が高騰し、その水道代金が支払えない家庭が出た場合は、水道の供給を止めるのでしょうか。水は生命の根源にかかわるため、おそらく住民感情としては供給停止はできないと思います。しかし、同じように公共性がある電気やガスは民間企業が供給しているため、供給停止が実際に行われています。これは、部分的に民営化する際にでも、きちんと議論しておいた方がいい話です。

 日本国内ではなく海外の上水道・下水道事業をみてみましょう。海外には、「水メジャー」「ウオーターバロン」などと呼ばれる水ビジネスを手がける大手企業が存在し、国際市場で活躍しているとのことです。有名な水メジャーはフランスのヴェオリア・ウォーターやスエズという大手企業です。ヴェオリアは、フランスでナポレオン3世の時代の1853年に設立された企業が出発点になり都市部の上水道などを幅広く手がけている大手企業です。水道事業の運営やメンテナンスのノウハウを蓄積し、現在は64カ国で上水道事業などを手がけています。同社の水部門の売り上げは2008年で126億ユーロです。スエズはフランスなどで電力やガス、水道、廃棄物処理などを手がける総合エネルギー企業です。上下水道事業の売り上げは1兆5000億円だそうです。欧州各国や米国、アジアなどで水ビジネスを幅広く展開しているそうです。ヴェオリアもスエズも、中国の主要な上水道事業などを受注し、水ビジネスを強力に展開しているそうです。

 中村さんの話では、シンガポールの国家戦略が興味深かったです。シンガポールは国土が小さいため、降水を蓄えておくことができず、隣国のマレーシアのジョホール州から水を輸入してきました。2000年にマレーシアが水供給代金の大幅値上げを要求したことを契機に、シンガポールは安全保障として水ビジネスを手がける企業を設け、水ビジネスを国家戦略として強力に推進しているそうです。シンガポールとしての成長戦略でしょう。同様のことは韓国も進めているとの話です。

 経産省系の試算では、水ビジネスの国際市場規模は2005年で60兆円、2025年で100兆円に達する見通しです。海外の水ビジネス企業が目の色を変える魅力的な規模です。最近発表になった日本の新成長戦略では新幹線などの鉄道網システムや原子力発電所などのインフラ輸出を取り込んでいます。この中に水ビジネスは含めることができるのでしょうか。

 既に、日本の三菱商事や丸紅などの商社や日揮などの設備メーカーが部分的には海外の水ビジネスに参入しています。中村さんによると、「日本企業はヴェオリアもスエズなどのように、水ビジネスの“胴元”にならないと主導権をとれないだろう」とのご意見です。

 実は、例えば逆浸透膜などでは日本の化学メーカーは優れた技術・製品を持ち、国際シェアも現在は高いのです。つまり、水ビジネスを構成する部品では、日本企業はそれなりに強みを持っています。この話を聞いて、日本の電機産業と構造は同じだと感じました。携帯電話機では、日本の電機メーカーは製品のシェアは低いのですが、中に使われている部品では高いシェアを持っています。日本企業は研究開発で優れた要素技術を開発し、部品やサブシステムの実用化では強みを発揮します。しかし、製品では主導権をあまりとれません。要するに、ユーザーに製品の使い方を提案するビジネスモデルを構築する構想力が、日本企業を担う日本人は弱いのです。これに対して、日本人は、ビジネスモデルがある程度固まって、必要な基本仕様が見えた部品は研究開発し、事業化できます。昔、戦国時代に種子島に伝播した火縄銃を、短期間で世界最先端の火縄銃に改良し量産した伝統が生きています。

 最近のイノベーションはビジネスモデルの構築争いです。何もない所から、製品の使い方のビジネスモデルを考えるイノベーターをどう育てるのか、かなりの難問です。日本の大学や大学院の教育に、ビジネスモデルを開発できる人材養成を担う専攻が充実するかどうかが問われています。

 最近、ビジネスモデルを輸出し始めたものにコンビニ事業があります。米国で誕生したコンビニは朝から晩まで食料品や日用品などを品切れ無く売っているという意味で便利な存在でした。しかし、米国では品揃えはあまり変えなかったそうです。これに対して、日本のコンビニはビールや缶コーヒーなどの例から分かるように、3カ月単位で多くの品揃えが変わります。ユーザーがほしがる品揃えを追求し続ける点が、日本版コンビニのビジネスモデルです(もちろん、弊害もあります)。このコンビニ事業をアジアに輸出し始めています。品揃えというソフトウエア面の事業モデルの輸出です。日本のビールや清涼飲料などの飲み物、スナック菓子などの食料品事業のアジア・太平洋地域への事業展開話も絡んでいます。

 以上、ややまとまりのない展開の話になりました。まだ続きます。