ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

人生設計通りに社長になった方にお目にかかりました

2010年06月25日 | 汗をかく実務者
 大学発ベンチャー企業のナノエッグ(川崎市)は化粧品「MARIANNNA」シリーズの化粧品事業で成功していることで有名な企業です。当然、化粧品のブランド名も有名になっています。

 
 同社代表取締役社長を務める大竹秀彦さんは「研究成果を提供した大学の名前が聖マリアンナ医科大学で本当に良かった」と笑います。例えば、東京大学や京都大学という大学がベンチャー企業の母体になっていたら、「化粧品のブランド名には使えないでしょう」と言います。確かに、普通の“お堅い大学名”では消費財のブランド名にはならないと思います。

 大竹さんは自分が目指す自己実現のための計画、すなわち人生設計を練り、その実現のために努力を続けている方です。


 イノベーターのお手本みたいな方です。日ごろの睡眠時間を削る生活を30年以上続けて、自分がやりたいことを着実に実現しています。

 ナノエッグの話に戻ります。同社は2010年6月3日に自社で製造・販売している化粧品「MARIANNNA」シリーズの新製品発表会を開催しました。同シリーズに新製品を加えたり、従来品の一部を「抗酸化効果が期待できる有効成分を加えたり増やしたりする一方で、価格は引き下げるリニューアルを実施する」と発表しました。

 ナノエッグの化粧品の新製品発表会は、今年に入って2回目です。2月にも新製品発表会を開催するなど、化粧品ビジネスを活発化させています。そして、2回目の6月時点の新製品やリニューアルによって、化粧品ビジネスの「売上げ倍増を狙う」と強気の発言をしています。多くの大学発ベンチャー企業が売上げの立つ事業をなかなか成立できないことで苦しんでいる中で、同社は売上げが立つ事業を既に持っています。ここに、同社の強みがあります。現在、化粧品事業の売上げは年間4億~5億円と順調に成長しているとのことです。これは、同社の優れた事業戦略と研究開発戦略の賜(たまもの)です。

 日本の大学発ベンチャー企業の多くは、なんとか創業はしてみたものの、始めてみたら最初に考えた事業戦略が未熟なために、研究開発費や事業投資費の重い負担に耐えながら研究開発に追われ、追加の投資金集めの金策に苦労している企業が多いのが実情です。これに対して、ナノエッグはまず化粧品という製品を実用化して販売し、着々と事業収益を上げ、成長路線を歩んでいる数少ない大学発ベンチャー企業の一つです。

 もちろん同社は化粧品の事業化を目指しているだけの企業ではありません。目指す事業は、機能性化粧品事業と医薬品事業、第三の新規事業などと、事業のポートフォリオをしっかり組んだ事業計画を持っています。

 事業戦略をしっかりつくり上げ、実践している理由は、研究開発の責任者(CTO、最高技術責任者)と経営の責任者(CEO、最高経営責任者)の役割を明確に分けて事業化を進めていることが一因です。研究開発は、創業者の一人である研究開発本部長の山口葉子取締役が担う一方、事業計画などの経営は大竹秀彦社長が担う役割分担がはっきりしています。この経営体制の下に、現実的な事業戦略に基づく成長戦略を描き、着々と実行しています。

 ナノエッグは2006年4月6日に、レチノイン酸のかたまりを、カルシウムやマグネシウムの炭酸化合物などの無機材料でコーティングするナノ粒子をDDS(ドラッグ・デリバリー・システム、Drug Delivery System)として利用する用途を目指して設立されました。DDSは人間の体の必要な箇所に薬効成分をマイクロカプセル化して確実に届ける先端技術です。実は、この実用化を目指しているバイオテクノロジー系の大学発ベンチャー企業は多数あります。

 ナノエッグのDDSの基盤技術となっているのは、ナノ粒子の製造法です。同社が国内出願した基本特許「多価金属無機塩被覆レチノイン酸ナノ粒子の製造方法および当該製造方法により得られたナノ粒子法」が2009年12月11日に成立したと発表しています。知的財産戦略も一層加速させ、経営基盤を固めています。このDDSに使うナノ粒子を“ナノエッグ”と名付け、親しみやすいことから社名に採用しています。大学発ベンチャー企業には、妙に先端技術らしさを前面に押し出した訳の分からない社名が多い中で、ナノエッグは覚えやすい点でしたたかな戦略性を感じます。独りよがりではない、ユーザー視点を感じます。

 同社は聖マリアンナ医科大の難病治療研究センターの五十嵐理慧さん(現ナノエッグ名誉会長)と山口葉子取締役が起業計画を練り上げて設立されました。五十嵐さんと山口さんは共同創業者として事業化の準備を進め、2003年9月に科学技術振興機構(JST)のプレベンチャー事業にテーマ「皮膚再生のためのレチノイン酸ナノ粒子」を提案したそうです。この提案が2003年9月にJSTに選ばれ、創業に向けて一気に加速したのだそうです。

 同社設立時は、大竹さんはナノエッグの副社長として参画しました。その経緯は次回にお伝えします。なかなか複雑な話なのです。