まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

現物出資の規制

2007-08-10 00:07:57 | 商事法務

     現物出資に関する規制については207条に規定されています。昔と比べると随分緩和されました。原則は、裁判所の選任する検査役の調査(同条1-5項)で現物出資財産の価額の調査をして、適正な価額を算出して、この価額に対して株式の割当を行います。原則の適用除外として、同条9項では、弁護士・公認会計士・税理士(法人を含む)から、その価額が相当であることについての証明(不動産の場合は、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価を付ける)を受けた場合には、証明を受けた現物出資財産の価額に対して株式の割当を行えるとしていますね。

     この規定の趣旨は、資産の過大評価をして水増しされた多くの株式を取得して例えば支配権を維持したりする者と、他の金銭出資をした株主との間の不公平を防ぐ趣旨と、水膨れの資産が形成されて債権者を欺くのを防ぐ趣旨ですね。

     ここでの疑問は以下です。

       弁護士等が、資産を正当に評価する能力があるのでしょうか?私は、無いのではないかと思います。例えば、特許権等どのように評価するのでしょうか。結局は、当事者が提出した資料を見て、おかしなところが無いかチェックするぐらいで、価額そのものが適切かどうかを評価する能力は無いのではと思います。

       現物出資財産の価額は、その財産を利用しうる能力のある人にとっては価値がありますが、そういった能力のない人にとっては価値がないということです。即ち、豚に真珠です。北海道の原野は、その土地を利用してリゾート開発をしようとする人にとっては意味がありますが、一般の人には、何の役にも立ちません。特許も同じです。その特許を使って、製品を作ろうとする人には価値がありますが、別に不要な人には何の価値もありません。

       現物出資財産の価値は乱降下する場合がある。不動産鑑定士の不動産鑑定評価も、同じ土地でも大きく異なる場合も多いですね。市場価格のある有価証券も、下手をすれば、すぐに半値になってしまう場合もありますね。

     重要なことは、現物出資財産を利用して、その会社の経営陣が収益をあげられるかどうかです。収益を上げられれば、キャッシュが入ってきますので、債権者(金銭債権の債権者)は、約定通り金銭の回収が出来ます。取引の継続も出来るようになるでしょう。

そうかといって、やはり金銭出資の株主との不公平は残ります。この点どの様に考えれば良いのでしょうか。

     私は、今の現物出資の規制を廃して、現物出資の内容と価額・割当株式の種類・数を登記事項にすべきと思います。現物出資を受ける企業は、普通は未上場企業ですし株式は公開されていません。企業・事業関係者やベンチャーキャピタル等のプロの投資家が株式を取得します。これら出資者・投資家は、登記簿の記載を契機として、経営陣から現物出資の内容詳細を調査すれば良いのです。その会社に関わりを持つ人・持とうとする人が納得すれば良い話だと思います。事業に関係の無い弁護士等の証明書がどれだけ訳に立つのですかと言いたいですね。

(まあ、米国などの様に、専門のappraisal companyが、キチンとしたレポートと証明書を出す制度なら、弁護士等よりは少しはましかもしれませんが)

     現物出資との関連で、財産引受と事後設立があります。ある財産を会社成立後に譲り受ける旨、発起人が契約することを財産引受(282号、33条等)と言いますね。このときに規制も現物出資の場合と同じですね。また、財産引受の潜脱を防ぐため事後設立の規制があります。即ち、会社成立前から存在する財産で事業の為に継続使用するものを、設立登記後2年内に、純資産の20%超にあたる対価で取得する場合には、総会の特別決議を要求しています(46715号、309211)。この財産引受・事後設立というのは、あまり知られていないこともあり必ずしも遵守されていないと思われます。特に、事後設立ですね。

・ 事後設立は、H2商法改正前は特別決議でしたが、時代錯誤的改正で、検査役の調査を要求するようになりました。有名大企業の子会社でも、不動産はなじみの鑑定士に評価を頼んで、そのまま弁護士に証明書を書いてもらい、その他の固定資産(機械装置等)は、リース会社を絡ませて、新設子会社に大規模営業譲渡(事業譲渡)を行った例もあります。今回の会社法で、以前の特別決議に戻りましたね。

 現物出資・財産引受・事後設立の規制は、今ひとつピントがずれているのではないかと思います。