企業間のM&Aで、対象会社が決まり交渉が始まる際に、投資銀行・証券会社等のファイナンシャル・アドバイザー(財務アドバイザー=FA)、監査法人のコンサルティング部門(CPA)及び弁護士を起用することがあります。その際の特にDD(Due Diligence)でのFA及び弁護士の機能について考えて見ましょう。尚、財務DD (Due Diligence)+場合によっては企業価値評価を行ってもらうCPAは除きます。
○ 企業の買収・合併等の際、最近はアドバイザーの起用が一般化してきています。M&Aのときは、起用して遺漏ないように行うのが当然という認識を持っている経営者が多くなりましたね。でもきちんと彼らの機能を見極めて、起用の可否、適正な対価・報酬で起用することが大切です(外資系投資銀行などは大規模M&Aのとき以外は、Feeの融通性はあまりないですが)。勿論、例えば合併の場合などは、合併承認総会の2週間前の日からの事前開示の備置書類に、合併契約(法782・794条、まずあり得ない新設合併の場合は803条)の他に、合併対価とその割当の相当性に関する書類(施行規則182条1項1号、191条1項1号)も含めないといけませし、総会の参考書類にもその概要・一部を記載しないといけません。上場企業の場合などは、FA等の第三者から相当性の意見表明をもらって、相当である振りをしないといけませんので、あまり役立たなくても起用せざるを得ない場合もあると思いますが。
○ FAの機能 :
クライアント(顧客)からみたFAの機能は何でしょうか。
① 顧客社内でFAを起用したと言える。―つまり、経営者やリスクヘッジの得意な管理部門、あるいはM&Aは良くわからない等とアレルギー症状を持っている社内の人等に、FAを起用して遺漏ないよう取り進めている振りが出来る。(管理部門等は、「そんな起用は不要、自分が協力する」と何故言わないのでしょう。「起用しろ」というのは「自分は無能です」と言っているようなものです)
② 対象先(とそのFA)との面談をアレンジして参加し記帳してくれる。(アポ取り・記帳係り)
③ 対象企業の書類を整理して配達・送信してくれる。(書類整理・配達係り)
④ メッセンジャーボーイをしてくれる。(伝言係り)
⑤ 企業価値評価をしてくれる。(計算係り)―企業価値評価等、少し勉強すれば誰でも出来ます。当該事業の内容、機微等も分からずに、BS,PL,Cash Flow、類似会社、類似業種、EBITDA等の数字をもってきて、企業価値あるいは株式評価をしてくれますね。DCF法という数字遊びもやってくれます。
・ これぐらいが機能でしょうか。企業価値評価は別にCPAでもきちんとしてくれますね。
FAですから、M&Aの多少のプロセスは知っていますが対象企業の事業に精通している訳でもありません。どこが事業のポイントなのか重要な調査項目かも一般論しか言いません。分からないからです。特に技術が重要なメーカの場合など原価計算の事も良く知らないFAが多いのではないでしょうか。簿外負債を発見する能力などは持っていません。勿論簿外負債などは、巧妙に行っているので、その会社の中に乗り込んで数ヶ月たって、やっとおかしな事が分かる訳ですから、DD等ですぐに分かるものではないですが。
・ 上記通りFAの機能は雑用係りです。難しいことを行っているわけでもありません。誰でも出来ます。FAは、M&A契約が締結されると、お金を貰って去っていきます。M&Aの実行、即ち、事前開示書類の備置、総会決議・承認、債権者保護手続き(債権者異議申述の公告・催告書の送付-最近は要件が揃えば、個別催告に代えて新聞で出来るようになりましたが、等)、株券提供公告、公取への届出、登記、存続会社等の膨大な受入記帳や人事手続きは、全て当事会社が行います。
・ 欧米の投資銀行は、M&Aディールが盛んなときには、莫大な利益を計上します。如何に彼らの役務提供と報酬が不相当か、如何に報酬がバカ高いかの証明ですね。機能に相当する報酬で十分です。FAや弁護士などを起用する際は、いいなりの報酬を認めてはいけません。
○ 弁護士の機能:
DDにおける弁護士の機能は何でしょうか?結論を先に言えば、機能は殆どありません。
・ 「重要契約等は、弁護士さんにきちんと見て貰って」等と言う人がいます。別に見て貰っても良いですけれど、それでどうかなるのですか。全くピントがぼけていますね。
重要契約(例えば重要なライセンス契約、基本契約、仕入れ販売等の継続的契約)等は、その会社のビジネス・業務の基本構造です。従って、これをきちっとビジネスDDで調査して、その後の経営を考えないといけません。買収者等の当事者がしっかり調査すべきものです。弁護士は、法律的観点から契約を見ます。契約の内容など、技術的なものは、弁護士にわかりません。そのライセンスが必須なのか、ロイヤルティが適正か、次回の更新時に変更の必要があるのか等は経営上の重要事項でビジネスの判断です。弁護士に、重箱の隅の法律問題を指摘されても締結済みの契約を変更することはまず出来ません。
・法務DD等は、弁護士事務所の若手弁護士が担当します。DDを通じて勉強します。弁護士事務所から、彼らの勉強代を貰ってもよいぐらいです。
・ 私が関与したM&Aで、周りの雑音や諸般の事情で弁護士にDDをやって貰ったことが何度もあります。多額の報酬をぼったくられた記憶はありますが、一度も役だった事はありません。