○ 買収防衛策の発動については2005年5月の経済産業省・企業価値研究会レポート(P83)によって方向付けられました。即ち、買収防衛策は、企業価値を損なう買収提案を排除するものならOK、高める場合は防衛策を発動しないという「企業価値基準」が適切であり、これをより明確にして企業社会が共有する常識とすることが必要としています。また企業価値を損なうか、防衛策を解除するか否かは、本来なら株主総会で株主が判断すべきであるが、有事では総会を迅速に開催出来ないので、経営者の判断に委ねざるを得ないと述べています。続けてこの基準に沿った防衛策の工夫として、1) 平時導入・開示・説明責任を果たすこと、2) 総会決議で消却可能なものであること、及び3)有事における取締役会の恣意的判断がなされないように、独立社外取締役等のチェック・客観的な解除要件の設定、又は総会の授権といった工夫をすべきとしています。
○ 防衛策の典型はライツプラン(ポイズンピル)ですね。例のTBSでは買収者(楽天)が20%超の株式を取得したりTOBをかけたりしたら、防衛策発動すべきか「企業価値評価特別委員会」で検討することになっており、先般一応の回答を出しました。20%を少しぐらい超えても楽天は何も出来ないし、先の株主総会でも既存株主はTBSの味方だから、今ここで荒波を出すこともないということで、「濫用的買収者」というレッテル貼らなくても良い。ちょっと静観がすればどうか。わざわざ臨時株主総会開催してもお金も大変だしということですね。この特別委員会のメンバーは、毎日新聞社の北村社長、石油会社の会長、元銀行&現郵政の社長、弁護士、公認会計士&法科大学院教授の方ですね。
○ ここでの疑問です。企業価値基準の判断者に判断する能力といいますか、判断の基礎となる知識・経験はありますか?私はそんな判断を適切にする能力が、株主あるいは独立社外取締役等にあるとは思いませんね。
・ 株主は、経営・事業のプロに経営を委託しているわけですね。即ち、自分ではどのように価値を上げられるかわからないから、現経営者に価値上昇(結果として株価上昇・増配を期待)を委託しているわけですね。
・ 新聞社・銀行・石油会社の人が放送とITについての深い経験・知識があるはず無いですよね。即ち普段当該事業に従事していない人に適切な判断がどれだけできるか疑問です。判断材料として、自分を指名してくれた会社からの説明・資料の他に、今回は買収者側の楽天ともインタビューしたようですけれども。まあ、独立性のある社外人とは言えないですよね。独立性を装う社外人だとは思いますが。特にこれから新規にビジネス開拓していく場合等は、専門家でも企業価値を発揮できるかわからないですね。例えば、松下電器がMCAを買収したり、NTT Docomoが海外の通信事業者に莫大な金をつぎ込みましたけれどもうまく行きませんでした。事業をやっている者自身でもなかなか難しい問題ですね。結局は、屁理屈を並べるにせよ、最初から結論を決めて、周りの状況を見て、買収防衛策発動の要否を、被買収者の立場から見て理屈を探すのが実態ではないでしょうか?
○ 実際に価値が向上するにはうまく行って2-3年はかかりますね。放送とITの融合と言われると一見良さそうですがビジネスは地道な積み上げでしかありませんし、知恵も出し汗も出し痛いところかゆいところもきちんと抑え、リスクを背負って推進し徐々に成果が出てきます。うまくいけば価値が上がりますね。(うまく行かないケースも多いですが)。2-3年先には現経営陣が交代している場合もあるかもしれませね。
現経営陣や敵対的買収者は、自分のビジョン・戦略等を株主・独立社外取締役等の素人に説明して、価値が上がりそうだという気にさせないといけません。企業価値が上がるか否かの判断を仰ぐわけですね。
1) これに対して、判断能力の適格性に疑問のある株主の多くは、企業価値基準ではなく、株価が上がって儲かるか(下がっても儲けるプロもいますが)否かを基準に判断する場合が多いのではないでしょうか。しかし、日本の株主は、時として株価だけで判断しません。狩猟民族的なやり方は嫌いだし、攻められている側を助けたいという気持ちも働きますので、米国の様に株価だけで判断しない場合もでてきます。複雑と言いますか、外国人にはちょっと不思議に思えるかもしれません。
2) 判断能力の適格性に疑問のある独立社外者・取締役等は、会社から指名されている訳ですから、普通なら現経営陣の顔を見ながら、その意向を尊重して(建前上は企業価値が上がるとか毀損されるとかの理屈を整えて)判断する可能性が強いということですね。
これって「企業価値基準」なんでしょうか?私には、「やらせ」に見えますけど。