○ 東大の神田教授(の『会社法』)によれば、「コーポレート・ガバナンス(企業統治)とは、どのような形で企業経営を監視する仕組みを設けるかという問題であるが、不正行為の防止(健全性)の観点だけでなく、近時は企業の収益性・競争力の向上(効率性)の観点からも、ガバナンスのあり方について世界的な規模で様々な議論がなされている。」と言われています。即ち前半が内部統制のこと、後半が収益性・競争力向上という、一見関連がないと言いますか矛盾しそうと言いますか、なぜこの両方が企業統治なのと疑問もわきそうですね。
・ 企業統治については、米国のみならず欧州でもいろんな議論があるようですね。でも米国の議論が一番すっきりしている感じですね。即ち、会社は株主のモノである。従い株主の利益の最大化を目指して経営するものであり、その為には効率的な経営をしなければならない。しかし同時に法令などの遵守もきちっとしないといけない。株主としては経営者をしっかりモニターしないといけないけれども、実際そんなこと出来ないので、経営陣で内部統制をしっかり確立して下さいと考えれば良いと思います。
○ 会社法362条(取締役会の権限等) 4項6号では、 「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」の決定を取締役会の重要な業務執行としており、同5項で、大会社については、「前項第6号に掲げる事項を決定しなければならない。」としています。
・ これを受けて、施行規則100条(業務の適正を確保するための体制)を定めて、その1項には以下の条項があります。①取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制 ②損失の危険の管理に関する規程その他の体制 ③取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 ④使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制(⑤は省略)
○ いくつかの会社の事業報告を読んでみました。施行規則に従って丁寧に記載しようとしている会社もありますね。しかし、いまいちの会社も多いです。ある企業の事業報告には「社長は、経営の基本方針を示し、具体的な経営目標を定めるとともに、経営計画を策定して効率的に目標の達成に当たっております。――経営目標を最も効率的に達成するよう柔軟な組織編成を行い、適材を配置します。」等としています。しかし体制についての具体的な記載もないし、「効率的」に目標達成にあたっていますと書いていますが、「目標達成が効率的」というのはどういう意味なのでしょうか?私にはよくわかりませんね。
・ 「職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制」と規定されていますので、「効率的に行っていますとか」上記の様な意味不明の言葉が記載されています。こういった文章を読むと、ますます社内が役所的組織になって窮屈・非効率になってきているのではないかと思います。「効率的」という言葉を、事業報告に記載することが効率的なんでしょうかね?おかしいですね。
○ 企業統治というのは、上記の様に、企業の収益性・競争力の向上(効率性)の観点もあるのですが、内部統制ばかりが強調されているのではないでしょうか。昔からですが、最近も企業の不祥事が報道されています。遵法は当然ですが、最近は、不祥事の影響もあり、管理部門がやたらとハッスルするというか、慎重になりすぎているというか、あまりに硬直的にすぎるというか、いろいろ社内で追加のルールを作ったりしているのではないでしょうか。困ったものですね。大企業の中には、法令の解釈も超厳格にして、法令で曖昧なときは、営業に当該行為を行ってはならない等となんでもネガティブに指示して、クリエイティブな事をしようとする営業を縛ってやる気を失わせているような管理部門もあるようですね。