
シネマ歌舞伎で近松門左衛門作の『女殺油地獄』を見た。有名な作品ですが恥ずかしながら初めて見た。想像をはるかに超えたすばらしい作品だった。
主演は松本幸四郎。平成30年の襲名披露公演の映像である。
元禄時代の作品ではありながら、現代的なリアリティのあふれた作品であった。主人公の与兵衛は現代的に言えば家庭に問題のある子である。本当の父親は死んでしまい、使用人であった男と実母が結婚し、義理の父親は父親の威厳を保つことができない。与兵衛はグレて自分勝手な行動ばかり。そんな子供でも親は情がある。なんとかしてあげたいと義父は実母に隠して義父なりに、実母は義父に隠して実母なりに与兵衛に助け船を出す。与兵衛は両親の情に涙しながら、身についてしまった自分の甘さを捨てることができない。自分の甘さに追い詰められて罪を犯す。現代でもありうる事件である。
松本幸四郎の演技もリアリティのあるものであった。愚かな犯罪者ではあるが、その犯罪に追い詰められる過程が丁寧に演じられる。そして殺害の過程やその後の動揺した心理も真に迫っている。長い年月をかけて培われてきた伝統のすばらしさを感じさせる演技である。
演劇のよさを教えてくれる映画であった。
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