「モントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス」。
1968年6月、スイスで第2回モントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルが行われた時の、ビル・エヴァンスの演奏を収めたライヴ・アルバムです。
数あるビル・エヴァンスの作品の中でも、ぼくが好きなもののひとつです。
お城のジャケットは有名ですね。
脇を固めるのはエディー・ゴメス(b)とジャック・ディジョネット(drs)。
どちらも当時は新進気鋭の有望株として将来を期待される存在でした。
ゴメスはエヴァンスの相棒として1966年から78年まで10年以上を共にしますが、ディジョネットが参加しているのは、プライヴェート録音を別にすればこれが唯一のものです。(追記 : 2017年にリリースされた『アナザー・タイム』の録音メンバーは、このエヴァンス、ゴメス、ディジョネットの三人。)
ゴメスもディジョネットも、実に若々しく、かつエネルギッシュです。
エヴァンスの演奏もまた力強く、そのうえ清々しささえ感じます。ゴメスとディジョネットのふたりの溌剌とした演奏がエヴァンスを刺激しているのでしょうか。
自分なりの「美」の表現を追求するエヴァンスのピアノは美しくて詩的です。
逆にエヴァンスに触発されたゴメスとディジョネットは自由自在に音で泳ぎ回ります。エヴァンスの音を時にはサポートし、時にはあおり、時には見守りながら、スリリングな世界を創り出しています。
とくにディジョネットの知的で色彩感にあふれたドラミングは素晴らしいと思いました。キース・ジャレットと行動を共にしている現在の姿がこの時の演奏から垣間見えるようです。
スピーディーでよく歌うゴメスのベースは、エヴァンスのピアノに活力を与えています。スコット・ラファロ亡き後、定着しなかったエヴァンス・トリオのベースですが、ゴメスはその穴を見事に埋めていると言えるでしょう。
ビル・エヴァンス(上)、エディ・ゴメス(下左)、ジャック・ディジョネット(下右)
明るさをたたえた、よくスウィングする「ワン・フォー・ヘレン」、緊張感のある演奏が繰り広げられている「ナルディス」、ゴメスの卓越したベースが大きくフィーチュアされた「エムブレイサブル・ユー」、スピード感にあふれ、よくドライヴしながらも鮮やかに歌いあげている「いつか王子様が」などが、アルバムの中でも好きな曲です。ぼくの大好きなバラード「愛するポーギー」は、ここではソロ・ピアノで演奏されています。
ぼくは、演奏の生々しさが伝わってくるようなライヴ・アルバムが好きです。スコット・ラファロ在籍時の4枚の作品も大好きですが、このアルバムも緊張感と熱さが感じられていて、自然と聴きたくなるのです。
エヴァンスが奏でる独特のリリシズムは、同時に美の世界でもあります。
そしてその世界は、聴き手を陶酔させずにはおかないでしょう。
◆モントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス/Bill Eans At The Montreux Jazz Festival
■演奏
ビル・エヴァンス・トリオ/Bill Evans Trio
■録音
1968年6月15日 カジノ・ドゥ・モントゥルー、スイス
■プロデュース
ヘレン・キーン/Helen Keane
■収録曲
[side A]
① イントロダクション/ワン・フォー・ヘレン/Introduction / One For Helen (Bill Evans)
② ア・スリーピング・ビー/A Sleeping Bee (Harold Arlen)
③ 伯爵の母/Mother Of Earl (Earl Zinders)
④ ナーディス/Nardis (Miles Davis)
⑤ 愛するポーギー/I Loves You Porgy (Ira Gershwin, George Gershwin, Dubose Heyward)
⑥ あなたの口づけ/The Touch Of Your Lips (Ray Noble)
⑦ エンブレイサブル・ユー/Embraceable You (Ira Gershwin, George Gershwin)
⑧ いつか王子様が/Someday My Prince Will Come (Frank Churchill, Larry Morey)
⑨ ウォーキン・アップ/Walkin' Up (Bill Evans)
⑩ クワイエット・ナウ/Quiet Now (Denny Zeitlin)
■録音メンバー
ビル・エヴァンスBill Evans (piano)
エディ・ゴメスEddie Gomez (bass)
ジャック・ディジョネットJack DeJohnette (drums)