【Live Information】
テッド・ローゼンタール・トリオ。
「本物」や「熱い志」を厳しい姿勢と優しい眼差しで見守っていた名プロデューサー、故・藤原憲一さんが「手塩にかけて」サポートしてきたトリオだと言ってもいいのではないでしょうか。
毎年のように日本ツアーを行い、その時には必ず岡山に立ち寄って素敵な演奏を聴かせてくれるこのトリオ。来岡を心待ちにしているジャズ・ファンも年々増えているような気がします。
もはや岡山はテッドの「ホーム・タウン」のようです。
台風のような雨と風の土曜日でした。
荒れた天候の屋外とは対照的に、ルネスホールはジェントルな音色で満たされてゆきました。
ジェントルといっても、単なるロマンチックな演奏ではありません。セット・リストの数々は、意思がしっかり込められた演奏とアレンジによって瑞々しい生命力を持っているように聴こえました。
演奏されたのは、テッドのオリジナル、スタンダード・チューン、クラシックを素材としたものなどです。
聴いてみて思ったのは、すべて自由に演奏しているのではなくて、テッドの出したいサウンドに向かって各々が自分の持ち場というか領域でベストを尽くしているのではないか、ということです。
だからベースの植田さんもドラムのクインシーも、音楽の全体像を見据えながら、その時々に応じた最善の手段を講じていたんだと思うのです。
そして、やっぱり素晴らしいミュージシャンである植田さんのプレイはベース弾きの端くれとして目が離せませんでした。
なんていうんでしょう、名匠というか、頼れる参謀というか、まさに文字通りの「頑健な土台」だと思いました。
グルーブ感、音色等々、どこをとっても安心堅実、他のメンバーからするとまさに「大船に乗った気分」なのではないでしょうか。
ソロがまた実に魅力的なんです。
「味のしっかりしみた煮物」、そんな言葉がぼくの頭に浮かんできたんですが、これは自分の脳細胞が上手い喩を生み出せないってことなのかなw
それにしても、植田さんはもっと日本のメディアによって注目されるべきベーシストだと思うなあ。
このトリオは、メンバーが長年連れ添っているだけに、お互いの意思も共有しているだろうし、ステージの雰囲をみてもとてもナチュラルな、研ぎ澄まされているけれどもフレンドリーな、という感じがしました。
それにしても素晴らしいライブでした。
優しい音は会場の空気を優しくし、
暖かい音は会場の空気を温かくし、
凛とした音は会場の空気を清々しく張りつめたものにし、、、
音符が記された紙に命を吹き込むところを目の当たりにし、ハッピーになれる「秘薬」に満ちた音を浴びて、ぼくはルネスホールを後にしました。
そのあとでピアノ・バーに寄りました。
高ぶった気持ちをクールダウンさせたかったのです。
お店を出たのは、日付が変わってから2時間ほど経った頃だったでしょうか。
空を見上げると、雲の切れ間から星がまたたいたような気がしました。
◆テッド・ローゼンタール・トリオ ライブ・アット・岡山ルネスホール
2019年6月15日(土)
<personnnel>
テッド・ローゼンタール(piano)
植田典子(bass)
クインシー・デイヴィス(drums)