ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

スター・スパングルド・バナー(星条旗)

2020年11月23日 | 名曲

【Live Information】


ミュージシャンの伝記映画やドキュメンタリー映画が花盛りな感のある昨今です。
この数年で観たのは、メガ・ヒットを記録した「ボヘミアン・ラプソディ」(クイーン)をはじめ、「エイト・デイズ・ア・ウィーク」(ビートルズ)、「ロケット・マン」(エルトン・ジョン)、「12小節の人生」(エリック・クラプトン)などなど。
そして去年観にいった「オールウェイズ・ラヴ・ユー」(ホイットニー・ヒューストン)。


「オールウェイズ・ラヴ・ユー」の中で取り上げられていたエピソードのひとつに、「スーパーボウルでの国歌独唱」があります。
このできごとは知ってはいましたが、実際はどんな歌いっぷりだったかは恥ずかしながら知りませんでした。


あとで動画投稿サイトでその映像を見直してみました。
凄い。
トリハダものです。
「圧巻」という言葉が安っぽく感じられるくらいです。
「伝説的な」「神がかった」「スーパーボウル史上最高の」といった、数々の、そして究極の賛辞は、みな言葉どおりのものだったんですね。





第25回スーパーボウルは、1991年1月27日にフロリダ州タンパにあるタンパ・スタジアムで行われました。
ホイットニーは、試合開始前にフロリダ管弦楽団の演奏をバックに、「星条旗」を歌いました。
この歌唱は歴史的な名唱として絶賛され、今に至るまで語り継がれています。
ホイットニーの歌った「星条旗」はこの年シングルとしてリリースされ、ビルボード20位までチャートを上昇しました。
10年後の2001年起きたアメリカ同時多発テロ事件の直後にもリリースされ、この時はビルボード6位の大ヒットを記録しています。


「星条旗」は、アメリカ国歌です。
米英戦争真っただ中の1814年9月、フランシス・スコット・キーは捕虜交換のためメリーランド沖のイギリスの軍艦に乗り込みました。
捕虜交換の話はまとまりましたが、作戦上イギリス艦隊はボルティモアのマクヘンリー砦を終夜砲撃し続けます。
激烈をきわめた夜間砲撃が終わった9月14日(ちなみにぼくの誕生日です)の夜明け、キーたちは曙の中で砦に星条旗が翻っているのを目にするのです。
アメリカ軍が苦難に耐え切って砦を死守したことに大きく感動したキーは、すぐに砦の防衛を題材とした詩を書きあげます。
この詩は、当時人気のあった歌「天国のアナクレオンへ」のメロディに合わせてアレンジされたのち、この年10月14日に初披露され、のち「The Star-Spangled Banner(星条旗)」として出版されました。
国歌として正式に採用されたのは1931年3月3日。時の大統領はハーバート・フーヴァーでした。


アメリカン・フットボールは、野球、バスケット・ボールと並ぶアメリカの三大スポーツです。
アメリカン・フットボールのふたつのリーグの覇者がそのシーズンの優勝をかけて激突するスーパー・ボウルは、国をあげての一大イベントといっても過言ではないでしょう。(ちなみにボウルは「ボール(ball)」ではなく、ボウル(bowl 鉢。フットボール・スタジアムの形状から。)」です)
試合前に歌われるのは「国歌」(星条旗)と決まっています。
ごまかしはきかず、純粋に歌い手の力量のみが問われる重要なパフォーマンスで、マイクを持つことができるのはアメリカを代表するシンガーだけです。





1991年の晴れ舞台に国歌独唱を指名されたのは、ホイットニー・ヒューストン。彼女が27歳の時です。
ホイットニーは、「どれだけたくさんの砲弾やロケット弾が飛んで来ようとも折れることなく翻り続けた星条旗」にゴズペルのフィーリングを取り込んでみたいと感じたそうです。
ホイットニーの音楽スタッフであるリッキー・マイナーは、もともと3拍子のこの曲を4拍子に変えることを提案します。その方がさらにソウルフルな歌になると考えたからです。
ただ、湾岸戦争が勃発したばかりのこの時期、ホイットニー側が準備しているサウンドが「戦時中なのに不謹慎」とする向きもあり、実際ナショナル・フットボール・リーグからは、アレンジをもっと質素にするような要望が出されたということです。しかしこれはスーパー・ボウルのエンターテインメント部分を担当するプロデューサーによって却下されました。(大英断!)


声の美しさはもちろん、なんと優しく、柔らかい歌声なのか。
7万人を超す大観衆の中で、とてもリラックスして歌い始めている(ように聴こえる)ことに驚かされます。
途中でアレンジがストリングス中心になりますが、そこでのホイットニーの声は、まさに慈愛。
そのあとの「And the rocket' red glare」からは一転、伸びやかな高音でソウルフルに歌い上げます。
クライマックスに向かうホイットニーとオーケストラが放つエネルギーが一体となって、感動を生み出しています。
ホイットニーの表情は実に豊か、そしてとってもチャーミング。
「Oh, say does that star-spangled banner yet wave(ああ星条旗はまだたなびいているか)」の部分では不覚にも目が潤んできます。アメリカの国歌に大きく感情を揺さぶられてしまっている自分が少し照れくさくもありますが。
敬礼している軍人を映像に入れるという演出が、またアメリカらしいというか、ツボを心得ているというか。
さらに、要所要所でズシンとくる打楽器群が実に効果的なんですね。
そして「O'er the land of the free」で繰り出すハイトーンに気持ちを鷲掴みにされます。感動はもちろん、清々しい気持ちにさえなってしまうのです。





「口パク」だという説もあるようです。
でも、この歌を聴かされると、そんなことはどっちでもよくなります。
それくらい素晴らしすぎる歌声だと思います。
映画の中では「ホイットニーには当日(前日だったかな)譜面を渡した。体調も良くなく、不機嫌だった。」との証言があったと記憶していますが、それでいながらこの物凄いパフォーマンス。
ホイットニーが、決してヒット・ソングを量産するだけの美人ポップ・シンガーではないことを、改めて骨の髄まで思い知らされました。


[歌 詞]



■星条旗/The Star-Spangled Banner
  ◆リリース
    1991年2月12日
    2001年9月26日
  ◆歌
    ホイットニー・ヒューストン/Whitney Houston
  ◆プロデュース
    ジョン・クレイトン/John Clayton (music arrangement)
    リッキー・マイナー/ Rickey Minor(music coordinator)
  ◆作詞 
    フランシス・スコット・キー/Francis Scott Key (1814年9月)
  ◆作曲
    ジョン・スタフォード・スミス/John Stafford Smith (1780年)
  ◆週間チャート最高位
    1991年 アメリカ(ビルボード)20位、ビルボード・アダルト・コンテンポラリー・チャート48位
    2001年 アメリカ(ビルボード)6位、ビルボード・R&B・チャート30位、カナダ5位




「星条旗」 歌・ホイットニー・ヒューストン 1991年1月27日 タンパ・スタジアム


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