駄目だ・・秋は駄目だ 私をどんどん消極的にする。
神戸に向かう途中下車、わざと駅を反対側に降りて、遠回りをした。
そこいらの街路樹の紅葉を見ているだけでも、カニツアー・・だの紅葉ツアー・・そんなチラシにチラっと気持ちは逸っても、家から一歩外に出ただけで、
心変わりをしてしまう。 プラタナスは格別そう、大好き。
特に美味しいもの食べたいとも思わないし、わざわざ出かけなくても、街並の紅葉だけでも充分私の心は躍っているのだ。
どうしよ・・出無精がよけいにデブ症になる。 いやだなぁ、秋。
神戸の夫人のお見舞いお伺い。 昨夜夫に「明日行って来るね」と言ったら、「え?また行くんかい」 「だってあなたのお母さんでしょ」
手が不自由なのに、ほっておけないやん。 ようそんな事言うね」 そう言った夜。
昨日の記事のウェディングブックに、神戸の夫人はメッセージを書いてなくて、名前の下に、”義母より” と書いていた。
ちょっと衝撃だった。 若いときは気にせずユーモアだと何気に見ていた。 老いて不自由になった今、”義母より”その文字がずっしり心に迫った。
好きな人が戦死し、ずっと結婚せずに来られた。 会社を辞めてもまねごとのように、会う時は子供になってずっと続いているお付き合い。
子供たちとも何度か来ている。 お花見にも行ったし、なつめも来たことがある。 お正月には4人の孫たちへお年玉を下さる。
”義母より” それを見たことも偶然でないと思った。 夫にもこのことを話した。 「すごいね、義母さんなのよ」
夫人に会ったら笑いながら開口一番「けんちゃん、怒らへんかった? また行くんかって」
まるで見えていたかのような言葉だった。
「いえいえ、そんな」
ちょっと落ち着いから2人でお昼にした。
今日は昨日NHKさんで見たさつま芋ご飯、お酒とお塩とサイコロに切ったお芋さんで美味しそうだったので、夫人にこれいい!と炊いた。
私はそのご飯のおにぎり2個と炒り豆腐。 夫人は3個目いった! 好物の高野豆腐・・明日の分も・・みんな食べはった。
しかし食欲があるだけでも私はどれだけ助かっていることか。 そうでなければ、寝込んだりもっと足を運ばなくてはいけなくなる。
若い時と違ってレパートリーが少なくなったが、夫人の好きなものをと作っている。
今日は、炒り豆腐、米茄子の田楽、大根とかの煮物、高野豆腐の卵とじ、クリームシチュー、ほうれん草のお浸しの玉子巻き、それにさつま芋ご飯。
田舎から第一号、届いたおみかんを持参。 皮がむけるかなと思ったが、好きなのでむけるそうだ。 尾道生産の生姜湯・・入れ忘れた。
1週間前に聞いたお話をまた聞いた。 そう言ってたねとは言わないで、「そうなんや」って初めて聞くように聞いた。
亡きお母さんの思い出をいっぱい話してくれた。 お母さんと2人でアパート住まいしていたとき、私の休日初めて訪ねたことがあった。
まだ20歳の頃。 「あの子面白い子やなぁ、あんたもおらんのによう1人で来たわ。 人見知りせん子やなぁ」この話はもう何回も聞いた。
私ってそうじゃない、人見知りするし、会話苦手なので第一印象悪いし・・。
ずーーっとしゃべり続けた。 1週刊分。 でも来た時と違って、表情がどんどん明るくなるのが分かる。
(どうかいつまでも痴呆にならず、私とこうして話が出来ますように・・) 祈るような気持ちで聞いていた。
夕暮れの風が外のプラタナスをカサコソ揺する。 そのプラタナスの決まった木には、常宿のように戻って来るすずめの大家族が騒々しい。
これはいつものこと、時間になればいつも。
すずめさえこんなに家族でわいわい言っているのに、高齢の1人暮らしの方が多くて、ひっそりしている震災復興住宅。
さぁ、私もぼつぼつ・・日が暮れたし。
「外に出なかったら、一回も声を出さへんし、気が変になりそうな時があるわ」
そう言った夫人の言葉に、後ろ髪惹かれる思いで、玄関の外からずっと見送り痛くない方の手を振る姿がなんとも言えずせつない。
強い風に押されそうになりながら、何度も振り返り手を振った。
(来週は何を作ってあげようかな・・)帰りの電車は献立を考えていた。 夫人の笑顔を思い出しながら。