夫は右むき 私は左むき
お互いに布団へ入ったときのベストな向きである
その向きは まるでけんかをしたときみたいな
夫は何度か寝返りをうつ 上を向いたり 左を向いたり
私は上を向いて寝られない
まっすぐに足を伸ばすと 右足に激痛としびれが起こる
脊柱管狭窄症のたぐいである
だから横向きで 膝を曲げて寝るのだ
左向き それは夫の轟音を避けるための向きで
長の年月を重ね おのずと出来あがった向きなのである
私の方が遅く布団に入ることが多いかも知れないが
今夜もそう 入ったもののすっと眠れないでいた なぜか
明日の予定を頭の中で復唱していた
お互いに外向いて あいた背中 位置を少し後ろへずらした
夫のお尻があたった
温か~い うん・・温ったかい
後に寝るものの特権
ありがたいぬくもりである
そう言えば結婚40年にして 夫の轟音にも 苦笑いし耐えられるようになった
と言うより その轟音は 息をしている証しで むしろ安心なのである
夫のことへ思いを馳せると ぬくもりにじーんとしてきた
5分と歩けなかった4年前 手術をして背骨に入っている4本のボルト
繁忙なときには やはり堪えているようだ
暖かくなって 薬を飲まないでもいけるようにはなったが
決してなんともないのではない
私にはどうしても ボルトが入った感じが分からない
今まで痛みやしれに耐えながらも
黙々と仕事をし続け 家族を支えてきてくれたことを思うと
夫の背骨を支えるのはボルトだが
夫の心を支えるのは 私の心や行動でなくてはならない
足りない心を反省しながらの40年
ここいらでいい加減可愛く変身しないとばちがあたる
夫の背に 背をくっつけた
伝うぬくもりのありがたさに 感傷的になった
夫は 私の方が先にいくと言うが
夫より一日でも多く生きたいと内緒で思っている
生きている間中 今のこのぬくもりを感じていたいと
改めて 密やかに思った