そう、1969年以降のこのあたりは学生の恰好の棲家であった。
バンからでもなく、限りなく軟派な学生たちで溢れて、愛と自由を叫んでいたあの頃・・・・
高円寺、荻窪、阿佐ヶ谷・・・武蔵野たんぽぽ団なる素敵なバンドも暮らしていた。
のどか・・・というしかないそんな時代。
確かに「文化」だったんだろう。結局は所得倍増計画、列島改造論、バブルと経済至上主義一色となる流れ。
そんな中で、音楽文化は少しづつ根付いていたんだろう。
そんな時代に生まれたのがこの店なんだろう。
しかし店はオーナーのものでもなくミュージシャンのものでもなく・・・・この地域のモノなんだ。
そんなことをフト思い返しているうちに1曲目が終わる予感も緊張感もなく終わった。
礼儀で拍手はする。
また、MCが始まる。
何を言っているのか全く分からない。思考停止状況。でもお客は静かに笑を送っている。
仲間内だけにしか通じないジョークはジョークではないのに・・・・・
「まあ、そんなに固いこと言わないで、リラックスして私の演奏をきいてくださいよ・・・そんな緊張されると私が困っちゃいますよ」
まさか、口にしていないけれど、そんな心の声が聞こえてきたんだ。
僻みや妬みではない。
緊張している心身をほぐすのはミュージシャンの技量。
そんな気持ちとは裏腹に進行していくステージ。
で、次なる演者はコーラス女子2名とリード。片手にIpad。
歌うは「アントニオの歌」。しかも、ガンミしながら歌われた。そして、取り出したるアルトサックス。
ピアニッシモになると音が鳴らない。でも、平気なんだ。
これも余興ですわ・・・のような雰囲気で、平然と吹いてしまう。
もう、僕も、限界に達しつつあった。
お客はそれでも、楽しそうに聞いている。ノッテいるフリをしているのかノッテルのか・・・・意味不明。
もうこのムードには耐えられない。
隣の男女はなにやら怪しげな雰囲気を醸すし、下品な目線で語り合うし、
難しそうな顔で不気味なリズムを刻む一人客。
まさに異空間に入り込んだ自分を嘆くしかなかった。
あと、2~3曲は演奏があったんだろう。覚えてはいない。
でも、僕の友達の友達のギターはとてもよくて、素晴らしかった。
せめてもの救いだった。
そんなわけで、ブレイクに入った途端に、決心してしまった。
やっぱり、彼女に会いに行こう。約束を撤回して、ケータイを握りしめた。