ヤマアカガエルの産卵に春を知る日

山里の日々の生活と自然、そして稼業の木工の話

お蕎麦屋さんの椅子の制作 その4

2015年05月31日 | 木工
仕事をしているのがあほらしくなるような晴天である。









通勤路にある桑の木はおいしい実が生るのでお気に入りです。






ただ、最近は木が大きくなってしまい、手が届かなくて実が採りにくくなりました。






葉陰でカメムシのお母さんが卵を守っています。
子守をするヒメツノカメムシという種類です。







椅子の組み立てが始まりました。





とりあえず、これで10脚分です。



すべての部材の加工が終わってから組み立てをしているわけではありません。

組み立てをしたのちに、糊が乾く時間を充分に取るため、
また締め付けに使うクランプの数が限られているため、
10脚ほど組んで、糊の乾燥時間の間に次の部材を加工する、という工程上の工夫をしています。






10脚分の組み立てにおおよそ一時間半かかります。
次の10脚分の最終加工(面取り、磨きなど)にはおおよそ4時間。





細かい話ですが、今回はすこし仕口を変えてみました。

後ろ脚と座枠のほぞが離れてしまう例がいくつか見られるので、その点を何とか改善できないかという試みです。






今までは左右と前後の座枠のほぞは同じ長さにし、
ぶつかる部分はお互いに切り欠いてあるようなほぞでしたが、
今回は前後の座枠のほぞは長く取り、左右の座枠のほぞを短くしました。

抜けやすい方のほぞを長くしてみたわけです。

ほぞを短くした方はそもそも負荷が少ない上に、背もたれや座面などの部品も付いて踏ん張るので、
短くしても問題ないのではという計算です。





そして保険に、その長くしたほぞに横からネジを打ちました。




ネジが閂(かんぬき)になってほぞが抜けないようにです。
このネジは組み立てると見えなくなります。

これでより丈夫なものになるといいんですが。








組めたものはとりあえず工房の隅に積み上げます。



これから横手も組み、最終組み立てに入ります。

椅子の形になると、工房が急に狭くなります。


そろそろお尻に火が着いてきた!

お蕎麦屋さんの椅子の制作 その3

2015年05月23日 | 木工
近所の雑貨屋で子供の使うような虫取り網を買いました。






これで蝶を獲ろうというのではありません。

工房に入ってくる危険な虫を捕まえて外に出すためです。




これはスズメバチ。

山にお帰り頂きました。

くわばらくわばら。







通勤路の道端にトゲトゲの植物が生えているのを見つけました。








葉っぱはこんな感じで、たぶん今年になってにょきにょき伸びたものです。




調べてみると、「ハリギリ」という木です。
別名「アクダラ」とか「センノキ」。


おお、それはまさしく、今作っているお蕎麦屋さんの家具の材の木ではないか!



ちょっとしたシンクロニシティーを感じました。


材として知っているセンノキは直径が70cmくらいあるような大木になる木です。
あたりまえだけど、木の命もこんな幼木から始まるのですね。



ちなみに山菜として有名なタラノキに似ているけど食べられないのでアクダラという別名らしい。
タラノキも同じくトゲトゲです。
葉が桐に似ててトゲがあるからハリギリ。
樹齢を重ねて大きくなるとこの樹皮のトゲはなくなります。








木の命のはなしで思い出しましたが、5月の初旬に赤城山の南面に生える栗の古木の撮影に行ってきました。
7月の催事のDM用写真を撮るためです。





「赤城栗太郎」といわれる木で、樹齢数百年という看板が立っています。


この木は洞(うろ)もでき、枯れかけているように見えました。


立木を見ると木工屋の悪い癖で、つい用材として値踏みをしてしまします。
この木は残念ながら、価値はゼロです。


私のような木工屋はたぶん誰でも木を消費することに対して多少のうしろめたさを感じているのではないでしょうか。
自然破壊に加担しているのではないかという危惧です。

でも木材で物を作るということは古代からの人間の基本的な活動です。


このような寿命をまっとうしようとしている木を見ると思います。
木もいつか枯れてしまうのだから、せっかくならば素材として使えるうちに人が使わせてもらってもいいんじゃないかなと。

人間のわがままでしょうか。









さて、椅子です。センノキの椅子。




ほぼ一週間かけて、40脚分の椅子の部材の形に加工は終わりました。

これからホゾやホゾ穴などの仕口を加工します。

その数を考えるとややうんざり。








部材を並べて木目合わせをします。
なるべく木目を揃えてきれいな物を作りたいのです。





揃えた部材には番号を振っておきます。





墨(すみ)をします。
加工のためのしるしです。

すべての部品に墨をするわけではなく、機械をセットすれば同じに加工できる物は一つにだけ墨をします。






この窓の開いたT定規のようなものでほぞ穴の墨をします。この墨はすべての部品に必要です。
この道具は前回同じ椅子を作った時にこさえたものがあったので、また使えました。




前途多難ですが、ブログを書く余裕はまだあります。



お蕎麦屋さんの椅子の制作 その2

2015年05月16日 | 木工
朝、工房に行くと、育てていたコリアンダー(香菜)が鹿につまみ食いされていた。




悔しいー。
私だってまだ一葉も食べていなかったのに。

あわてて網をかけました。











お蕎麦屋さんの椅子、ではなく、テーブルを先に作っています。



なにしろまだこれからたくさん椅子を作らなくてはならず、納品施工に行く体力を温存しておかなくてはならない。

最後に何日も徹夜してふらふらで納品に行くのでは命からがらになってしまう。それは避けたい。

なのでまだ納期のひと月前ですが、毎日の仕事時間を増やして制作を進め、
余裕をもってこの仕事を終わりにしようと考えています。

毎日の残業はいまのところプラス1時間から2時間くらい。

家族に迷惑かけてます。









テーブルは木地ができ上がり、塗装工程に入っています。






これは組み立て前のテーブル類の部材です。




今回のような店舗の仕事はウレタン塗料を塗っています。
目指すは出来る限りの厚塗り。

デパートの厳しい空調にもめげず、千客万来の使用に耐えるためにはタフな塗膜が必要です。





かんかん照りの5月の空の下、野外で塗装をします。






本当は日の当たるところに木工品を晒すのはよくないのですが、こうすると塗料が早く乾くので作業性はすこぶるよろしい。
手際の良さが勝負だ。

単管と角棒で塗装の台を作りました。
これらは去年の2月に大雪で倒壊した薪小屋を再建するために買った資材です。
つまりまだ小屋は再建できていません。
でもこの作業に使えたからよかった。







テーブルの板を並べて置き、端からどんどん塗料をガン吹きしていきます。

段取りを済ませ、早弁を食べ12時から8時までぶっとうしでスプレーガンを振りました。





こちらはテーブルの足。





たかが塗装作業と思っていましたが、ずっとスプレーガンを握っていたらたいそう疲れた。
もう腕が上がらない。へとへとです。
たまにしかこの作業はしないからなー、体が慣れていないんです。





前にも書きましたが、使っているウレタン塗料は水性の一液タイプの物です。

これが作業性、安全性、経済性がまことによろしい。

水性なので薄めるのも器具を洗うのも水でOK。
専用シンナーなども買わなくてよい。
一液なので出して塗るだけ。使わず余ったらまた容器に戻せばいい。
二液タイプだと混合に手間がかかるうえに余った塗料は硬化が進むので捨てるだけ。

そして匂いが少ない。
塗った翌日に納品してもほとんど匂いは気にならないほど。
有機溶剤などは使わないので健康にも心配がない。

そんな楽なのに塗膜はちゃんと強い。
過去に納品した物を見ても塗膜は切れていないです。


重宝しております。
メーカーさんありがとう。








塗装工程二日目。


雨ということもあり、仕上げ塗りは室内でします。






今朝は疲労困憊で起きられず、やっと目覚めたら家族は出かけてしまっていた。
なぜか腕だけでなく腰や太ももまでもが痛くなっている。

テーブルトップの塗装はスプレーガンを持って右左に腕を振りながら塗料を吹き付ける動作を繰り返すので、
意外と全身運動なんだなあと知る。
塗装作業なめてた。




塗りの工程は、

表面は下塗り(サンディング)3回、仕上げ塗り3回。裏はそれぞれ2回ずつ。
これはたぶんオーバークオリティーですが、そのくらい手間はかけます。
1回塗ると1時間ほど乾燥時間を置き、研磨をします。

とりあえずお昼の時間などであっても塗りにいき、乾燥を待つ時間に食事をする。

塗ってる時間は30分から1時間くらいで、あとは乾くまですることがない。
なので自宅に帰りブログを書いたり図面を描いたりしてます。

乾いたころまた工房に行き、塗り終えたら家に帰るのくりかえし。
これを4回ほど。



そのあたり、ひとり自営業なので時間の使い方には融通が利きます。
悪く言えば働きずくめ。


大きな産地ならば塗装の専門業者がいて塗装仕事は依頼してしまいます。
ここではそんな業者はないので自分でなんとかするしかありませんでした。
その方がかえってなんでもできるようになり、よかったのかもしれません。





テーブルができたら今度は椅子の制作に入ります。

座椅子の制作

2015年05月07日 | 木工
GWも通常営業でした。



お蕎麦屋さんの椅子を大慌てで作っている、という記事をアップしたばかりなのですが、違うものをまた作っています。

お蕎麦屋さんの仕事のために買ってあった材は木場の材木屋に留め置いてあったのですが、GWになってしまい配達してもらえない。
つまり作業が進められない。

仕方がないので材が届くまでの間、違う仕事をすることにしました。




座椅子です。


私の定番の椅子を元にお客様からご提案されたものです。

この座椅子は定番の椅子を座面の下でばっさり切って、畳摺りを付けるような形です。
座面は床から10cmほどの高さです。



右側の肘掛けは跳ね上げ式に、とのこと。
これはちょっと苦労しそう。



自分ではなかなか思いつかないことをお客様に教わります。
そんなんばっかりです。

定番の椅子からロッキングチェアが生まれ、
そしてまた座椅子、とご提案を頂きながらいろいろなバリエーションが増えていきます。







跳ね上げ式の肘掛けなんて作ったことはありません。

ちゃんとした原寸の図を描いて検討します。

出来そうな気がしてきました。


肘掛けが水平に止まる機構も外に出さず肘掛けの中に組み込むつもりです。











木取ってもなんかちんちくりんな部材です。

2脚のご注文のところ、3脚作って見本に置いておきます。







部材の加工が終わって並べてみました。





これが跳ね上げ式の肘掛けの仕組みです。

軸はボルトですがそれだけではもたないと思い、肘掛け側にも木の軸を作り、背もたれにその軸が入る穴を掘ります。
肘掛けが水平で止まり、跳ね上げた時に上で止まる仕組みは木の軸に付けたカムです。
まあご覧いただければ一目瞭然ですね。








組み立てていても変な感じ。
足が無いからか。





組み立てが終わり、オイルを塗って、座面のペーパーコードを張ります。

畳摺りは座面を張るのに邪魔なので、コードを張り終えてから付けます。


ペーパーコードは満身の力を込めて張るのですが、この椅子は勝手が違ってやりにくい。
椅子の足を膝や手でおさえて張っていたのですが、その足が無いので文字通り掴みどころがないので力が入らないのです。







一脚張り終えました。そして畳摺りを付けました。





苦労した肘掛けはこのように跳ね上げます。







そして一脚できた頃、お蕎麦屋さん用の材が届きました。
遠くまで運んでくれてありがとうございます。

これから一月半、お蕎麦屋さんの家具一筋です。








日が暮れる。

いつの間にか緑が濃くなっています。

工房の裏のクルミの木には花が咲いています。

お蕎麦屋さんの椅子の制作 その1

2015年05月02日 | 木工
打ち合わせに行ってきました。





一日に何十万人もの人が見ている景色でありましょう。

いつもあえて山の風景ばかり載せていますが、実はわりと都会の仕事にも行っているのです。


東京に行って帰ってきて思うのは、まるでタイムマシンに乗ったように感じるということです。

山からは片道たったの3時間。
人気の少ない鬱蒼とした山里と、夜でも煌々と光り輝くビルの谷間を多くの人が行きかう都会。
そのあまりの違いに頭がくらくらします。
同じ国の同じ時代とは信じられません。
その違いにはだいぶ慣れたし、むしろ楽しんでます。








さてその打ち合わせですが、お蕎麦屋の改装に伴う家具の制作です。



7月半ばの納期とのことでお話が進んでいたのですが、急遽6月半ばに早まることに決まりました。


本当は2か月ほどの工期を考えていたので、あわてました。
もう一月半しかありません。

これから大変かも~(涙)





帰って、さっそく作業を開始しました。







蓄積してきた材を倉庫から引っ張り出し、検分します。

作るのは椅子が約40脚、テーブルが大小含めて12台ほど。




材はすべて「栓(セン・ハリギリ)」という木です。


付き合いのある材木屋さんが栓が入る度に声をかけてくれる。
特に使うあてもなく、買っておく。
あるいはなにかに使ったときに残っていたもの。
そうな風に集めてあった材です。

なにしろ最近は思ったように材木が買えなくなってしまい、まとまった仕事のために材を揃えることが困難になりつつあります。
一昔前なら、何軒か材木商に電話をかければ買えたようなものなのですけど。






この板には「せん 耳付き材 JAS 北海道 エビナ」と印字されています。

エビナというのは材木業者の名前で、大きな会社だったが今はないと聞きます。
板の色から判ずるに、製材してからだいぶ経っています。
どこかの倉庫に長くあったものなのでしょうか。
北海道産らしく、目の詰んだよい木です。




広いものはテーブルに、細いものは椅子になどと、適材適所を考えて部材を揃えていきます。
なんにせよ、手持ちの材で足りるか、が最大の問題です。




40脚分の椅子の部材が取れました。足りてよかった。

これでもまだ座枠と座面がありません。
それには少し薄い板を使います。

ご注文は37脚なのですが、少し余分に作っときます。
組み立ての時に破損してしまうこともあるので、個数ぴったりというのはキケンです。






端材が出ます。
椅子の部材はへの字に曲がっているのでどうしても三角形の端材が出てしまう。

これでもまだ歩留まりがいい方です。

用意できた材の品質が良かったからでしょう。





で、前回や前々回に木取っていたあの椅子やあの椅子やらは、と思われる方もいますでしょうか?






このように工房の隅に積み上げられて出番を待っております。

こうして時間をかけて作った方がいい製品になるし!って?