ヤマアカガエルの産卵に春を知る日

山里の日々の生活と自然、そして稼業の木工の話

鉄道博物館~遠山記念館の見学

2016年09月27日 | 木工
催事が終わりました。

野外展でしたので、雨に降られてしまいさんざんでした。

その後も雨続きで、一週間後にやっとテントをしまうことができました。





用事が一つすんだ自分へのご褒美に、気になっていた博物館などに出かけてきました。

といっても仕事の研修的な小旅行です。






鉄道博物館。



鉄道博物館は楽しいところで、ここだけでも一日いられそうです。いろいろな展示物に結構興奮してしまいましたが、ここは木工屋らしく、鉄道のことはその筋のファンに譲り、木に関することだけをお話しすることにします。





先日人間国宝になった須田賢司氏の「木工藝 清雅を標に」に、指物師が島桑を使って内装を手掛けた御料車が鉄道博物館にあるということを知り、ぜひとも見てみたいと前々から思っていたので出かけました。

簡単にご説明すれば、御料車とは天皇のために作られた列車や自動車のことで、これを大正時代の超絶技巧の工芸家集団が最高の材を使って仕立てたものがあるというです。



しかし、意気盛んに来てみると御料車はガラス張りの展示スペースの中にあり、さらに当然列車の窓にもガラスが嵌っているので、車内は二重のガラスを隔てて数メートル遠くから眺められるだけという、かなり悲しい状態での見学となりました。






ガラスにピントがいってしまう。
でもいかに近くに寄れなくとも、その優雅な雰囲気が伝わります。


木工だけでなく漆工染織金工などあらゆる大正、昭和初期の工芸家の技量とセンスの良さを感じました。
過剰な加飾に偏らず、絶妙な線や面の構成や色の組み合わせが何とも品良く感じます。
ヨーロッパの物はやたら曲線がぐねぐねして金ぴかだったりするのに対し、
日本の物は直線基調で凛とした気品があります。
身びいきでしょうか?


壁沿いに長くある御料車の展示スペースの前を何度もうろうろしてしまいました。

遠足の子供たちはここには見向きもしませんねえ。





館内を見て回ると、驚いたことにというか当たり前というべきか、初期の列車は木でできていたのですね。








座席、壁、床、ひじ掛けなどは木製。

木で出来ていると落ち着く、と思うのも身びいきでしょうか?

メーテルが座ってそうなどと思ってしまいました。



さすがにこんな古い車両に私は実際には乗ったことがありません。

でも始めて東京に来た時に、丸ノ内線の床が木製だったので驚いた覚えがあります。






この車両などはもう見るからに木でできてます。






これは模型です。

木造家屋と変わらん。






木製車両のカットモデル。

私にも作れそうです。







これは軌道はあるものの、人が押して動かしたものらしい。



かように昔はなんでも木で出来ていたのかと、感慨無量です。

でも飛行機も、自動車も、船も最初は木で作られていたんですよね。

そしてそれを作った多くの木の職人がいた時代があったんだなあと。

斜陽産業にあえて身を投じながらもその衰退に目を覆いたくなる私はいろいろ思いを馳せてしまいました。








さて、もう一件。遠山記念館へ。



やはり「和家具 別冊太陽」を読んでいると多くの逸品に「遠山記念館 蔵」とあるので遠山記念館を知りました。

前田南斉という大正、昭和初期の指物師の作品を多く所蔵しているようです。見ることができるかもしれないと、期待が膨らみます。

見てみたいものがちょうど企画展に出ていることを知り出かけました。





立派な門構え。





幅が4尺を超える門の欅の板に驚いて写真を撮りました。







これが見たかった猫の手あぶり。仁阿弥道八という江戸後期の作者の物です。






これは南米の焼き物、カエル。
ペルー、ナスカ文明。
日本の工芸もいいがやはりこういうセンスは僕らにはないなあ、いいなあと思うことしきり。






美術館を見てから屋敷に入りましたが、こちらこそ圧倒的で、すっかり写真を撮るのも忘れてしまうほど見入ってしまいました。

ご興味がある方はこんな動画でもご覧ください。→




まず私のような木人間には建具や内装に使われている数々の銘木に圧倒されます。

これほどの材を集めるのにはどれほどの財と労力がかかったのでしょうか。銘木の見本館です。

また、それらを品よくまとめるセンスと技量もすごいです。

経年変化までも計算されているように思えます。

私には知識がありませんが、石や紙や左官や植木などのわかる人にもたまらないはずです。

前田南斉の作品も何点か見ることができました!



またいつか訪れよう。

しかし空いてたな。超穴場です。


















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背高のロッキングチェア

2016年09月14日 | 木工
ロッキングチェアは定番商品として作っていますが、「首まで支える背もたれのはないの?」とお客様に訊かれることが多いので作ってみました。





イメージ図から始めます。

まあ、定番の椅子の背もたれを伸ばしただけのものですけど。







奥村昭雄さんの本、『樹から生まれる家具』に載っているデコイを合わせてみて、座り心地を検討します。五分の一の図面です。






実寸のベニヤの型を作り、木取りや形を写すのに使います。

首までカバーする後ろ足兼背もたれの部材には長さが約1.3m、15cm幅の材が必要です。







背もたれの笠木の付く穴は型に開けた穴から目打ちを使って写します。







穴は背もたれの曲線に合わせてあるので、ひとつひとつみな角度が違います。
治具で加工するにはたくさんの治具を作らなくてはならないので煩雑です。

今回はこのような「窓」を作って機械にセットし、その窓にホゾ穴の墨を目視で合わせて穴の加工をしました。







座枠の穴の加工です。

長さも幅も機械にかかるギリギリのサイズです。








だいぶ途中の工程が飛びます。ロッカー(橇)を付ける加工です。

ホゾを作るのは全て手作業です。







ロッカーの穴を開ける方法です。
まず先に前足の穴だけを開けてその穴にホゾを入れて、後ろ足の穴の位置は実物のロッカーを付けてみて決めます。

仕事を始めたころは実寸図を描いて一生懸命寸法を割り出したりしたものですが、
なんてことはない、このような「おっつけ仕事」の方が簡単で確実でした。







出来ました。

背が高くて見栄えしますね。

ロッカーの後端はもう少し長い方がよいか悩みましたが、従来の物とほぼ同じにしました。

普通に座るのには問題なく安定がありますし、なにしろ長いと邪魔です。

お子さんが後ろ向けに乗って激しく揺らしたりすると倒れるかもしれません。







定番の物と並べてみました。
定番の物は座面を張る作業の途中です、日が暮れて写真が撮れなくなりそうだったので。







モデルがいないので私が座って撮影。

首までちゃんと支えます。

枕がいるかな。







今回は四種類、七台の椅子の混合ロットでした。

これは桑材の椅子、ひじ掛けなしと両肘。
四脚のセットです。






ちょっと変わった、浮いたように付くひじ掛けです。





今回作った椅子は今週末開催の「創造の森・上野村フェスティバル」に出品します。

みなさまのお越しをお待ちしております。




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先人の手の跡

2016年09月09日 | 木工
台風がまた来るといわれた日、

朝、春に鳴くはずのホトトギスが鳴き、夕、初夏に鳴くはずのヒグラシが鳴いた。

季節に律儀な動物たちがどうしたのでしょうか。





一日に四件納品に歩いた先日のこと。


お客様から古いこね鉢をお預かりしました。






裏に昭和21年の墨書きがあります。

蕎麦打ちをする方なのですが、縁の形状を作り直して欲しいというご依頼です。







裏の立ち上がりはこんな感じ。

刃物の跡が綺麗に付いています。道具は「セン」でしょうか?

赤いのはベンガラでも塗ってあるのではないかとのことです。






内側はこんな感じ。

やはり刃物で削ったままの仕上がりです。

白くなっているのはお客様がサンドペーパーでこすったからです。





この刃物の跡に昔の人の美意識を強く感じます。

今ならば研磨紙で磨き倒して作ってしまうところです。

刃物で仕上げるしか方法がなかったのも事実でしょうが、

よい刃物、よい砥石、よい材料、そして熟練した手がなければできない仕事です。



これに倣った方法で作り直し、漆を塗るつもりです。







もう一件伺ったお宅で、納品後雑談になり、
ふとしたきっかけでお客様が「草双紙」のコレクターであることを知りました。

私がとても興味を持ったことから、なんと二冊お譲り頂きました。

「こういうものは手に取ってみなさい」とおっしゃっていました。



浮世絵などは美術館ではガラス越しにはみることできます。

本などもたくさん出ていますが、印刷されたものでは本来の精緻さがわかりません。

頂いて手元に置いて目を近づけてみるとそのことがよくわかります。







大きさ縦が六寸、横が4寸ほどです。
上下巻になっています。

元治元年(1864年)の発行とあります。






開けばこんな感じ。






私は骨董的美術的価値などの語る立場にはありません。

しかし私は木を加工する者としてこれをつぶさに見ると、いろいろな思いがあふれてきます。



最初に感じるのは、刃物の切れの冴えです。

私も版画や彫刻のまねごとをしたことがあるので、その技術的な素晴らしさにはただひたすら驚嘆します。

これは直接の木工品ではないですが木版画ですので加工された木製品の写しを見ているわけです。

なんと細密で粋な仕事なのでしょう。

やはり、よい刃物とよい砥石があり連綿と続く職人集団があったことがわかります。






色刷りの表紙です。

地と襟に透かしやエンボス加工の様な模様が押されています。

これは版に絵の具をのせずに刷ることによるできる効果のようです。







これはいわば巻頭カラーページです。

曲線的な筆の流れが完璧に表現されています。

このような曲線を版木に彫るのは難しいはず。

白地に一切汚れが無いのにも驚きます。







残念ながら私には読めないので場面の内容がわかりませんが、右下の人物はまるで幽霊のように薄い色で刷られています。


















細かけりゃ偉いというのも違うのでしょうが、やはりこの細密さにはうなります。






こんな技を尽くしたような本が蕎麦二杯ほどの値段だったそうです。

一枚の版木で刷れるのは200枚ほどだそうです。

絵の具はあまりよいものではなく退色は早いそうです。

いわゆる浮世絵ほど人気はなく、安く買えるのだとか。


このような本が広く読まれた当時の日本の識字率にも驚きます。





とにかく昔の日本の職人の技には驚くばかりです。


















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細い額の制作

2016年09月02日 | 動物
台風10号が来て、私の所でも警報が出ました。




毎日通勤しながら見ている川です。
これは一番酷い時で、今はだいぶ水位は下がっています。

お祭りのとき駐車場になったりキャンプ客がテントを張ったりする河原は完全に水没です。



何年かおきにはこのくらい増水します。

向こう岸に芝生が見えますが、この芝生に水が乗るくらい増水すると家が流されたり崖が崩れたりするような災害になります。
私の知る限り、二回ほどそんなことがありました。
通行止めで孤立しますし、消防団で救助に行ったり土嚢積みをしたり。
これで水不足は一段落ですね。

被害にあった方のことを思うと胸がうずきます。






額を一つ作りました。

とにかく、細いものというご要望です。





高さは20mm、前から見た厚さは10mmをご希望でしたが、
金具を付けたりするためには11mmは必要とお伝え、そのようになりました。







いつも使ってる機械ですが、小さな部材を精密に加工をするためにベニヤや角材を貼り作業します。







これは試作品です。

留め(45度)の部分以外に「あられ組」という仕口で組みます。







留めの部分にも「あられ組」が作れることを思いつき、
最終的にはこのような木組みにしました。







途中で厚みが変わるので、ホゾの切れ込みも二段になっています。







組んだもの。

一枚のホゾの厚さは3mmです。







金具を付けたところ。

金具が7mm幅あるので、付く部分も7mm必要です。

前側の引っ掛かりは4mmで、計11mmという訳です。








全景。

63cm×55cmくらい。

地味で、仕口などは目を凝らさないと見えませんが、これがよいとのことです。





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