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133億光年彼方の銀河“SPT0615-JD1”内に5つの若い星団を発見! 宇宙再電離時代に高密度で大規模な星団が形成されていた

2024年07月05日 | 銀河・銀河団
私たちの天の川銀河には、何十億年もの間、自らの重力で集団を保ちながら生き延びてきた星団“球状星団”(※1)があります。
※1.恒星の集まり。特に、恒星同士の重力で集団を保つ星団を自己重力星団と呼ぶ。今回見つかった5つの星団は自己重力星団だということが分かった。星団のうち数百万個以上の恒星が重力で集合し、概ね球状の形をとったものを球状星団と呼ぶ。数百光年以内に数万個以上の恒星が密集している。
球状星団は、宇宙初期に生まれた、いわば化石のような天体だと考えられています。
でも、いつどこで形成されたのかは、未だに良く分かっていませんでした。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(※2)を用いて、宇宙年齢4億6千万年の時代に銀河“SPT0615-JD1”内に、5つの若い星団を発見。(“SPT0615-JD1”の別名はコズミック・ジェムズ・アーク(Cosmic Gems arc)は、宇宙宝石の円弧を意味する。)
発見した星団は、これまでの中で最遠方のもの、球状星団の祖先となる可能性がありました。
※2.ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つに投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。わずか2年の間に、初期宇宙の銀河の観測で革新的な成果を数多く上げている。本研究の成果もその一つとなる。
このことから分かったのは、発見された星団は天の川銀河の球状星団より質量が大きく、恒星の数密度が非常に高いことです。
この発見により、初期宇宙の若い銀河で球状星団がどのように誕生したのかを、解明する大きな一歩になると期待されます。
さらに、銀河の進化にとって重要な大質量星や、ブラックホールの種の形成についても、新たな視点をもたらす可能性があるようです。
この研究は、早稲田大学、千葉大学、名古屋大学、筑波大学などの天文学者の国際チームが進めています。
本研究の成果は、2024年6月24日付のイギリスの科学雑誌“Nature”の電子版に、“Bound star clusters observed in a lensed galaxy 460 Myr after the Big Bang”としてオンライン掲載されました。
図1.今回発見された星団。(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, L. Bradley (STScI), A. Adamo (Stockholm University) and the Cosmic Spring collaboration)
図1.今回発見された星団。(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, L. Bradley (STScI), A. Adamo (Stockholm University) and the Cosmic Spring collaboration)


宇宙再電離時代に存在した銀河“SPT0615-JD1”

宇宙が誕生したと考えられているのは約138億年前のこと。
その約4億6000万年後、宇宙はまだ若く、星や銀河が形成され始めたばかりの時代でした。
この時代は“宇宙再電離時代”(※3)と呼ばれ、宇宙の進化において重要な転換期にあたります。
※3.生まれたばかりの宇宙は、電子や陽子、ニュートリノが密集して飛び交う高温のスープのような場所で、電離した状態にあった。でも、宇宙が膨張し冷えるにしたがって、電子と陽子は結びつき電気的に中性な水素が作られる。この時代には、光を放つ天体はまだ生まれていなかったので“宇宙の暗黒時代”と呼ばれている。その後、宇宙で初めて生まれた星や銀河が放つ紫外線により水素が再び電離されていく。これにより、宇宙に広がっていた中性水素の“霧”が電離されて晴れていく。この現象を“宇宙再電離”と呼ぶ。今回発見された星団は、宇宙再電離を引き起こした紫外線源という可能性もある。
銀河“SPT0615-JD1”は、この宇宙再電離時代に存在した銀河の一つで、地球からは非常に遠方に位置しています。
その距離は約133億光年、つまり133億年前の姿が今の地球に届いていることになります。

もちろん、そのような遠方の天体を観測することは容易ではありません。
でも、“重力レンズ効果”と呼ばれる現象を利用することで、より鮮明な観測が可能になります。

重力レンズ効果は、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする効果があります。

対象となった“SPT0615-JD1”は、“SPT-CL J0615-5746”という前景の銀河団による重力レンズ効果により、長辺がおよそ100倍に拡大されて観測。
取得された画像には、小さな輝点の連鎖が、鏡に映したように対象に並んでいました。

今回の研究では、この重力レンズ効果を利用することで、“SPT0615-JD1”をこれまで以上に詳細に観測することに成功しています。


非常に狭い領域に密集している5つの若い星団

“SPT0615-JD1”の観測に用いられたのは、最新の宇宙望遠鏡“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”でした。
観測の結果は驚くべきもので、“SPT0615-JD1”の中に5つの星団が存在することが明らかになります。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が無ければ、このような若い銀河の星団を見つけることはできなかったはず。
今回の観測結果は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の驚異的な感度と解像度が、巨大な前景銀河団による重力レンズ効果と相まっ出たものでした。

星団とは、数百から数百万個の星々が密集して形成された天体のことです。
発見された星団は、いずれも形成から5000万年未満と非常に若く、チリや金属が非常に少ないという特徴を持っていました。
また、その質量は太陽の約100万倍と見積もられていて、これは天の川銀河で見られる一般的な若い星団よりもはるかに大規模なものと言えます。

さらに、これらの星団が位置しているのは、わずか70パーセク(約230光年)という領域内…
5つの星団は、非常に狭い領域に密集していることになります。

重力レンズ効果による拡大を考慮すると、それぞれの星団の実際の大きさは約1パーセク(約3.26光年)と推定されます。
これは、局所宇宙における典型的な若い星団と比べて、約1000倍も高い星密度に相当していました。

このことは、星団の内部で起こっている何らかの物理過程を示唆するもので、銀河の進化にとって重要な大質量星や、ブラックホールの種の形成について新たな視点を与えてくれるはずです。

初期宇宙に存在する超大質量ブラックホールの起源などを説明するのに、高密度な星団中でブラックホールの合体頻度が高まることで、より大質量なブラックホールが誕生するという仮説や、恒星同士の合体が暴走的に起こることで超大質量の恒星が誕生するという仮説などが、理論的に提案されてきました。
今回発見された高密度な星団は、まさにその舞台となる可能性を秘めていると言えます。


宇宙再電離時代の銀河進化に新たな知見

これらの観測結果から、研究チームはこれらの星団が重力的に束縛された星系“原始球状星団”である可能性が高いと結論付けています。
原始球状星団は、数十万~数百万個の星が球状に密集した天体で、銀河の形成と進化において重要な役割を果たしたと考えられています。

これまでの観測では、宇宙初期に球状星団が形成された証拠は、ほとんど得られていませんでした。
でも、“SPT0615-JD1”の観測結果は、宇宙再電離時代という宇宙初期においても、すでに球状星団の形成が始まっていたことを示唆しています。

今回の研究は、“SPT0615-JD1”の観測を通して、宇宙再電離時代における星団形成と銀河の進化に関する新たな知見をもたらしました。
特に、高密度で大規模な星団が宇宙初期に既に形成されていた可能性は、これまでの銀河形成モデルに再考を迫る重要な発見です。

今後、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡をはじめとする次世代望遠鏡を用いた更なる観測により、宇宙初期の星団形成と銀河進化の謎が、さらに解き明かされることが期待されます。


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