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金星下層雲の巨大な筋状構造をシミュレーションで再現してみると、形成メカニズムが分かってきた。

2019年01月30日 | 金星の探査
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金星を覆う雲の中に巨大な筋状構造が、金星探査機“あかつき”の観測データから発見されました。

大規模な数値シミュレーションの結果、この構造を再現し、さらに形成メカニズムの解明に成功するんですねー

これまで、このような惑星規模の巨大な筋状構造は地球で観測されたことがなかったもの。
なので、金星特有の現象だと考えられていたのですが、どうやら地球と同じメカニズムが金星大気でも働いて筋状構造が作られているようです。


“あかつき”の赤外線カメラで見つけた巨大な筋状構造

2016年4月から観測を続けている日本初の金星探査機“あかつき”。

様々な科学的な成果のなかには、金星の高度50キロ付近の下層雲に巨大な筋状構造の発見があります(赤外線観測画像から見つかった)。

南北半球それぞれに約1万キロ近くにわたって斜めに伸びるこの構造は、“あかつき”のIR2(波長2μm赤外線カメラ)によって初めて明らかになったもので、研究チームでは“惑星規模筋状構造”と呼んでいます。

このような惑星規模の巨大な筋状構造は地球では観測された例がなく、金星特有の現象だと考えられています。
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“あかつき”がとらえた金星下層雲(左)と、シミュレーションによる再現画像(右)。
黄色い破線が“惑星規模筋状構造”になる。


地球と同じメカニズムが金星大気でも働いている

神戸大学大学院理学研究科のチームでは、金星大気の数値シミュレーションのための計算プログラム“AFES-Venus”を開発。
海洋研究開発機構のスーパーコンピューター“地球シミュレーター”を駆使し、高い空間解像度での数値シミュレーションを行います。

その結果、この“惑星規模筋状構造”を再現し、さらに形成メカニズムの解明にも成功したんですねー

筋状構造形成のカギになるのは、意外にも日本の日々の天気とも関わりの深い“寒帯ジェット気流”でした。

地球の中高緯度帯では、南北の大きな温度差を解消しようとする大規模な流れが、温帯低気圧や移動性高気圧、そして寒帯ジェット気流を形成しています。

これと同様のメカニズムが金星大気の雲層でも働いていて、高緯度帯にジェット気流が形成されます。

一方、低緯度帯では、大規模な流れの分布や惑星の自転効果を復元力とする大気波動(ロスビー波)によって、赤道から緯度60度付近にまたがる巨大な渦が生じます(下画像左)。

そこにジェット気流が加わることで、渦が傾き、引き伸ばされ、北風と南風がぶつかる収束帯を筋状に形成。
収束帯で行き場を失った南北風は強い下降流になり、雲の薄い領域からなる“惑星規模筋状構造”を作り出すと考えられます(画像右)。
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“惑星規模筋状構造”の形成メカニズム。
低緯度帯で発生する“ロスビー波”は、
赤道をまたいだ雲層下部に存在する波動(赤道ケルピン波)と結合していて、
これにより南北対称性が維持されている分かった。
金星は西向きに自転しているのでジェット気流も西向きに吹いている。


観測データとシミュレーション解析の連携に期待

今回の研究結果は、“あかつき”による金星探査と“地球シミュレーター”による高解像度での大規模シミュレーションの連携によるもの。
世界初の成果になり、金星の気象学が新たな段階に達したことを示したものでもあります。

今後、期待されるのは“あかつき”の観測にシミュレーション解析を連携させることで、金星気象の謎が解き明かされること。

現在、“あかつき”は宇宙科学研究所の所内プロジェクトとして、3年間の延長運用フェーズに移行していて、大きな不具合などが無ければ今後4~11年間は引き続き観測が行えそうです。

金星の気象衛星とも言える“あかつき”の新しい発見が楽しみですね。


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金星探査機“あかつき”2年間の定常運用を終了。そうだ、燃料も残っているし3年ほど運用を延長しちゃえ!

2018年12月13日 | 金星の探査
2016年4月から2年間の定常運用を終えたJAXAの金星探査機“あかつき”。
姿勢制御用の燃料がまだ残っていることもあり、3年間の延長運用に移行することが発表されました。

様々な科学的な成果をもたらしてくれた“あかつき”ですが、これから始まる延長運用フェーズがどのようなものになるのか?

大きな不具合などが無ければ今後4~11年間は引き続き観測が行えるそうですよ。


金星の気象衛星“あかつき”

JAXAの“あかつき”は日本初の金星探査機。
2010年5月に種子島宇宙センターからH2-Aロケット17号機により打ち上げられました。

金星の大気を立体的に観測するため、観測波長の異なる複数のカメラを搭載している“あかつき”の主な目的は、スーパーローテーションと呼ばれる惑星規模の高速風など、従来の気象学では説明ができない金星の大気現象のメカニズムを探ること。

言ってみれば、“あかつき”は金星の気象衛星なんですねー


二度目で周回軌道投入に成功

当初の予定では、“あかつき”が金星の周回軌道に投入されるのは2010年12月7日でした。
でも、軌道投入のために逆噴射を行う主エンジンが噴射途中で破損… “あかつき”の金星周回軌道投入はは失敗に終わってしまいます。

その後、金星軌道よりも内側に入るという予定外の高温環境に耐えながら、再び金星に近づくのを待つことに。

この間“あかつき”は、太陽風が太陽半径の5倍程度離れた距離から急に加速される様子を観測することに成功。長年謎だった、コロナ加速問題を解くカギを得ています。

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“あかつき”に、再び金星周回軌道投入のチャンスが訪れたのは、5年後の2015年12月7日でした。

このとき“あかつき”は姿勢制御用のスラスター4機を約20分間噴射。
遠金点が44万キロ、周期14日で金星の周りを公転する超楕円軌道に投入されます。

その後、2016年4月に軌道修正が行われ、近金点8000~1万キロ、遠金点36万キロ、周期10.5日の軌道で定常観測を行ってきました。
ちなみに、当初目指していたのは30時間周期の軌道でした。


定常運用終了後は3年間の延長運用フェーズへ移行

“あかつき”がこれまでの観測で明らかにしたのは、赤道付近の中層から下層にかけての大気に、ジェット状の風の流れ(赤道ジェット)が存在すること。

さらに、金星の雲頂に長さ1万キロに及ぶ弓状の構造がしばしば発生し、これが金星表面の地形によって生じていることも発見しています。

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“あかつき”は様々な科学的な成果をもたらしてくれました。
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“あかつき”の中間赤外線カメラ(LIR)で撮影された金星大気の弓状構造(上段左、下段)。
上段右は紫外線イメージャ(UVI)で撮影されたほぼ同時刻の紫外線での金星像。
一方、20016年12月には赤外線カメラの制御回路が故障。
このため、TR1(波長1μm赤外線カメラ)、TR2(波長2μm赤外線カメラ)が使えない状態になっています。

“あかつき”の2年間の定常運用期間を終了した後、JAXAでは今年8月にプロジェクトの終了審査を実施。

当初予定していた軌道への投入失敗や、TR1、TR2の故障はあったものの、ミッションとしてのミニマムサクセス、フルサクセスの条件は達成できたとして定常運用の終了が決定されました。
  2018年11月27日には金星軌道の周回数が100周を超えている。

現在は宇宙科学研究所の所内プロジェクトとして、3年間の延長運用フェーズに移行しています。

12月7日の時点で“あかつき”に残っている姿勢制御用の燃料は1.41~3.86キロ。
これは、大きな不具合などが無ければ今後4~11年間は引き続き観測が行える量になるそうです。


12月7日に発表された研究成果

故障前のTR2カメラで撮影された金星の夜領域の画像を解析してみると、金星の赤道付近の下層大気に、太陽の動きに連動した風が生じていることが明らかになります。

自転する金星が太陽光を受けると、太陽に加熱される場所が自転とは逆向きに移動することになります。

これによって金星大気に生じると考えられているのが“熱潮汐波”と呼ばれる波です。

金星の大気に生じている自転速度の60倍もの高速風“スーパーローテーション”も、この“熱潮汐波”が原因だという説があります。

発表された研究成果が示しているのは、“熱潮汐波”の影響が金星の下層大気にまで及んでいることでした。
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2016年10月19日に“あかつき”のTR2カメラで撮影された
金星の夜の領域(疑似カラー合成画像)。
通常探査機が燃料を使い果たすと、ソーラーパネルやアンテナを太陽や地球の方向に向けることができなくなってしまいます。
そう、バッテリーの充電やデータの送受信が出来なくなるんですねー
  観測対象(惑星など)の重力に引かれ高度を保てなくなることもある。

幸い当初予定していた2年間の定常運用を終えた“あかつき”には燃料がまだ残っています。

これから始まる3年間の延長運用フェーズがどのようなものになるのか? どんな発見を送ってくれるのか?
“あかつき”にはまだまだ頑張ってもらいたいですね。


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2017年09月17日 | 金星の探査
金星探査機“あかつき”の観測により、
金星にこれまで知られていなかったジェット気流が発見されました。

大きさが地球に近く、公転軌道も比較的近いことから地球の双子星と呼ばれる金星。
その謎に迫る情報が“あかつき”から得られると期待されているんですねー
“あかつき”による金星の夜面観測(イメージ図)
“あかつき”による金星の夜面観測(イメージ図)


謎の気象現象“スーパーローテーション”

金星で有名な気象現象に“スーパーローテーション”があります。

“スーパーローテーション”は金星の自転よりも速く金星を一周する風で、
太陽系惑星の気象現象の中では最大の謎とも言われています。
ただ、自転より速くと言っても、そもそも金星の自転は遅く1年は地球の224日。
でも自転周期は243日なので自転の方が遅いんですねー

さらに自転の向きが逆なので、金星上での1日の長さは地球の117日になってしまいます。
これほど遅いと金星は片面だけが太陽に加熱され、反対の面は夜になって冷えてしまうことに…

すると地球の赤道と北極・南極のように、
昼側と夜側の空気を入れ替えるような風が吹きそうに思えますよね。

でも、実際には金星を東から西へ一周する風が、
地球時間で4日前後という金星の自転よりも速い速度で吹いています。

なぜ、ほとんど止まっているような金星の自転の向きに、
自転よりはるかに速い速度で風が吹いているのか? いまも謎のままなんですねー


“スーパーローテーション”より速い気流の発見

“スーパーローテーション”のことはこれまでの金星探査で分かっていました。
でも“あかつき”は新しい現象も観測していたんですねー

それは、赤道付近の低層大気に“スーパーローテーション”とは異なる流れがあることでした。

金星は大気が濃く雲も厚く、雲の表面の高さは高度70キロもあります。
地球では、ほとんど真空になる高さです。

この高度では“スーパーローテーション”の風が吹いていて、
風速は秒速100メートル程度で時期や場所による違いはあまりありません。

今回“あかつき”は赤外線カメラ“IR2”を使って高度40キロ以下の雲の下の風を観測。
  “IR2”は下層大気の熱放射による赤外線が雲を透過する際にできる“影絵”を観測して、
  高度約45~60キロにある分厚い中・下層雲を可視化することができる。

  金星探査機“あかつき”の5つの観測機器が定常観測へ移行
    

すると2016年7月の観測データから、高度45~60キロの中・下層雲領域に、
赤道付近に軸をもつジェット状の風の流れ“赤道ジェット”が世界で始めて見つかります。

“赤道ジェット”はその後少なくとも2か月継続し、
赤道付近では80メートル以上の強風が吹き、赤道から離れると風が弱まるという現象でした。

過去にも2007年から2008年にヨーロッパ宇宙機関の金星探査機“ビーナス・エクスプレス”が、
同様の観測をしていたのですが、このような強い風は見つかっていません。
  金星探査機“ビーナスエクスプレス” 最後の軌道上昇へ
    

また、“あかつき”で観測されたのも2016年7月~8月で、それ以前には観測されず…
なので、この風は“スーパーローテーション”と違い、吹いているときと吹いていないときがあるようです。
IR2による金星夜面の雲の模様(擬似カラー)。より多くの雲粒子が大気下層から来る赤外線を遮るため、雲が厚いところほど暗い。画像左側の白いところは昼面。
IR2による金星夜面の雲の模様(擬似カラー)。
より多くの雲粒子が大気下層から来る赤外線を遮るため雲が厚いところほど暗い。
画像左側の白いところは昼面。


増えた謎と解き明かされる謎

この新しいジェット気流がなぜ起きているのかは、
まだ分かっていないません。

そもそも金星の“スーパーローテーション”自体が、
なぜ起きているのか分かっていない謎の現象です。

さらに、赤道付近にだけ強い風が吹くのは、力学の常識から考えても不思議な事になります。

フィギュアスケートのスピンで手足を縮めると回転が速くなるように、
回転する物体は半径を小さくすると回転が速まります。

地球でも、赤道上の渦が北半球や南半球に移動すると回転が強まり、台風などの現象になります。
なので、回転が赤道上で最も強いというのは逆の現象になるんですねー


金星大気の研究は地球の役に立つ?

金星の謎が明らかになったら何かの役に立つのでしょうか?

金星大気のシミュレーションプログラムは、
基本的に地球上の天気予報に使われているものと同じ原理になります。

もちろん実物の金星も物理法則は地球と同じです。
なのに、どうしてこれほどまでに違う環境になっているのか。

私たち地球人は地球の気象現象が当たり前だと思っています。
でも、宇宙には様々な星があり気象現象も異なります。

そう、地球の気象は当たり前ではなく、たまたまこうなっているだけかもしれないんですねー

なので、地球ではありえない金星の気象現象を調べることは、
今までは思いもよらなかった気象の原理発見につながるかもしれません。

そして、それは気付いていなかっただけで実は地球にもあるとすると、
今まで解明されていなかった気象現象が解明されるかもしれないということですね。


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金星の“巨大な弓状模様”はどうやって作られたの?

2017年01月24日 | 金星の探査
金星探査機“あかつき”に搭載された中間赤外線カメラが、
2015年12月に南北方向に約10,000キロにおよぶ弓状の構造を発見しました。
2015年12月に“あかつき”が撮影した金星画像

金星には“スーパーローテーション”という、
4日で金星を一周する秒速約100キロの東風が吹いています。

でも4日間にわたる観測期間中、
この模様は“スーパーローテーション”に流されることなく、
ほぼ同じ場所にとどまっていたんですねー

数値シミュレーションを用いて調べてみると、
大気下層に乱れが生じると、そこから大気中を伝わる波が発生。

その波は、南北に広がりつつ上空に伝わって広がり、
高度65キロ付近にある雲の上端を通過する際に、
観測された弓状の温度の模様を作ることが分かりました。
2015年12月7日の中間赤外線カメラ観測画像。
画像処理を施し弓状の模様を強調し、地形上にマッピングしたもの。
(地形の等高線の間隔は1キロ)
観測された構造が高地(アフロディーテ大陸の西部)の上空に
出現していることが分かる。

それでは、なぜ金星大気下層の乱が上空へ伝わり広がるのでしょうか?

原因は、この弓状模様の中心の下にあるアフロディーテ大陸でした。

アフロディーテ大陸は標高が5キロほどあるので、
下層大気の乱れが“重力波”という波になって上空へと伝わり、
弓状の模様になっていたわけです。
  この重力波は、地球のアンデス山脈などでも観測されることがあります。
(左)2015年12月7日の中間赤外線カメラ観測画像に見られる弓状の模様の下には、
アフロディーテ大陸と呼ばれる高地が存在している。
(右)コンピュータシミュレーションによって再現された高度65キロ付近の弓状の模様。
金星大気の下層に大気の乱れが生じると、そこから発生した波が上空へ伝わって、
高度65キロでは弓なりの形に広がる。

金星雲頂の観測から下層大気の様子を推測できることが、
この研究から示されました。

今後、研究チームは弓状構造の出現条件を探っていくようなので、
弓状構造の生成メカニズムの全貌が解明されるといいですね。


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金星探査機“あかつき”の5つの観測機器が定常観測へ移行

2016年05月01日 | 金星の探査
軌道変更を無事終え、金星を観測できる期間が2.5倍に増えた探査機“あかつき”。

搭載している6つの観測機器のうち、
5つについて性能が打ち上げ前の想定を満たしていることが確認され、
定常観測へと移行したんですねー
金星探査機“あかつき”


金星の最新観測データの取得へ

これまで“あかつき”では、
観測機器の動作確認や試験観測での最適化といった、
調整作業が行われてきました。

その結果、各フィルターを通した感度や画像の分解能などの観測性能が、
打ち上げ前の想定通りに満たされていることが確認されたんですねー

6つ搭載されている観測機器のうち、
1μmカメラ(IR1)、2μmカメラ(IR2)、中間赤外カメラ(LIR)、
紫外イメージャ(UVI)、超高安定発振器(USO)
の5つについて定常観測へと移行しました。
2μmカメラ(IR2)が2016年3月25日に撮影した金星の夜面。
(約10万キロ離れた距離から撮影)
金星全体を一望する夜面画像として、これまでで最も詳細な様子がとらえられている。
この波長では、地面近くの暑い大気からの熱赤外線を背景に、
雲の濃淡がシルエットとして映し出されている。

ただ、残る1つの雷・大気光カメラ(LAC)については、
“あかつき”が金星の陰に入る際に運用する機器で、
約10日に1回1時間程度の運用となっているので、
時間をかけた慎重な調整が続けられているそうです。

今後“あかつき”が目指すのは、
雷・大気光カメラ(LAC)を早期に定常観測へ移行させること、
それと金星研究のために世界最先端のデータを継続的に取得していくことになります。

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