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高密度で星が存在する銀河の中心領域“銀河バルジ”にも、恒星から遠く離れた軌道を回る冷たい系外惑星は存在している

2021年09月12日 | 宇宙 space
重力マイクロレンズ法による系外惑星の観測結果を利用した研究で、恒星から遠い軌道を回る木星のような冷たい惑星は天の川銀河内に普遍的に存在していることが示されました。

系外惑星の探査方法

太陽系以外の恒星の周りを回る系外惑星が初めて見つかったのが1995年のこと。
それ以来、系外惑星の研究は世界中で活発に行われていて、今では4500個以上の惑星が見つかっています。

それらのほとんどが、ドップラーシフト法やトランジット法で発見されたもの。
ただ、探査方法の制約から、これらの惑星のほとんどが太陽から3000光年以内の恒星の周りを回る惑星に限られているんですねー
ドップラーシフト法は、恒星(主星)の周りを公転している惑星の重力で、主星が引っ張られることによる“ゆらぎ”を光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出。
トランジット法では、地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る。

天の川銀河の半径は約5万光年なので、銀河スケールで見ると発見されてきた系外惑星は、ほぼ太陽系と同じ位置に存在しているといえます。

では、天の川銀河内のもっと離れた別の場所に惑星は存在するのでしょうか?

たとえば、太陽系から約2万光年ほど離れた“銀河バルジ”と呼ばれる銀河の中心領域には、太陽系近傍の10倍以上の密度で星が存在しています。

そのため、もし惑星が存在していたら周りの星から受ける影響も大きいはずです。
そのような環境にも惑星は存在するのでしょうか?

現在、この問いに答えることのできる唯一の手段が重力マイクロレンズ法による惑星探査で、日本でも大阪大学を中心に進められています。
天の川銀河を俯瞰したイメージ、右下は銀河バルジにある冷たい系外惑星のイメージ図。青の点々は、マイクロレンズ法の探査領域に存在する冷たい系外惑星の分布イメージ図。右上の明るい領域が銀河バルジ。
天の川銀河を俯瞰したイメージ、右下は銀河バルジにある冷たい系外惑星のイメージ図。青の点々は、マイクロレンズ法の探査領域に存在する冷たい系外惑星の分布イメージ図。右上の明るい領域が銀河バルジ。(Credit: Osaka University)

遠方の系外惑星までの距離

銀河バルジのような遠方の系外惑星を探す有効な方法として、重力マイクロレンズ法があります。
重力マイクロレンズ法とは、系外惑星の質量によって生じる重力レンズ効果の観測からレンズ源になっている惑星の存在を検出する手法。
現時点では主星から離れた土星より軽い系外惑星を検出できる唯一の方法になる。

この方法は、惑星の重力によるレンズ効果で向こう側の恒星の光が明るくなる現象から、惑星の存在を探るもの。
他の手法と違い、惑星系の主星の光を検出する必要が無いので、太陽系から遠く離れた“銀河バルジ”の惑星も見つけることが可能です。

でも、一方で惑星までの距離の測定が難しいという課題もあるんですねー

これまで、“銀河バルジ”に惑星は無い可能性を指摘した研究もありましたが、不正確な距離測定のデータに基づいていて、よく分かっていませんでした。

そこで今回、NASAゴダード宇宙飛行センターと大阪大学大学院理学研究科の研究チームが注目したのは“アインシュタイン角半径”でした。

“アインシュタイン角半径”は、重力マイクロレンズ法で見つかった系外惑星について、惑星系の質量と惑星系までの距離の兼ね合いで決まる物理量です。

この物理量はすべての惑星系に対して偏りのない測定ができ、不正確な測定結果を含む可能性をほぼ排除できるという利点があります。

研究チームでは、重力マイクロレンズ法で見つかった28個の惑星系に対して、測定された“アインシュタイン角半径”の分布と、天の川銀河の星のモデルから期待される“アインシュタイン角半径”の分布を比較。
銀河中心から太陽系近傍まで、徐々に惑星の存在率が変化するというモデルで観測結果を説明できるものを調べています。

これらの惑星系はすべて、主星から遠いところを公転する冷たい惑星でした。

その結果、たとえば銀河中心から3000光年(銀河バルジ内)の星は太陽系近傍の星と比較すると、0.3倍~1.5倍惑星を持ちやすいことが分かりました。

これまでに銀河バルジには惑星は存在しないという可能性も指摘されてきました。

でも、今回の研究が示していたのは、木星や海王星のような中心星から遠い軌道を持つ冷たい惑星が、銀河バルジから太陽系近傍までの広い範囲に存在していることでした。

銀河バルジには、100億歳程度の年老いた星が多く存在しています。

また、太陽系近傍に比べて星の数密度が非常に高いので、太陽系の惑星とは大きく異なる環境で惑星が形成され進化してできたと考えられます。

今回の研究成果が示唆しているのは、木星のような遠い軌道の冷たい惑星が、様々な環境下で形成され、長期間安定して存在できること。
このことは、惑星の形成過程や天の川銀河における惑星の形成史を解明する上で重要な手掛かりになるはずです。

ひいては、太陽系の形成プロセスや生命が存在する惑星がどれくらい宇宙に存在するのか? っといった問いの答えにもつながると期待されています。


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