宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホールを回る星の動きを“アルマ望遠鏡”で見てみる

2021年10月06日 | 宇宙 space

電波と赤外線

電波望遠鏡が得意なこと。
それは、宇宙に存在するガスを見ることです。

例えば、天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール“いて座A*(いてざエースター)”周囲では、電離ガスが何本もの腕状に分かれていることが、30年も前から明らかになっていました。
“いて座A*”は天の川銀河の中心に存在している太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール。

ただ、星を見ることに優れているのは赤外線観測になります。

赤外線だと、天の川銀河中心付近の星でも比較的容易に観測でき、さらに補償光学技術を用いると大気による星のゆらぎを取り除いて撮像することができました。

星が放つ光の強さは、波長の2乗に反比例するので、赤外線より波長の長いミリ波サブミリ波では放射が弱くなってしまいます。

また、解像度も波長に比例して悪くなり、解像度が低いと星の放射は薄まってしまうことに…

このように電波望遠鏡を用いた星の検出は難しくなるんですねー

このため、今までの電波望遠鏡では、近距離にあるものを除いて星を観測することはできませんでした。

高感度な電波望遠鏡で星の動きを観測

一方、透過力になると赤外線観測がミリ波サブミリ波よりも強くなります。
十分に高感度な電波望遠鏡を使えば、星雲中に深く埋もれた星であっても観測できると期待されます。

2017年には宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所のチームが、“アルマ望遠鏡”を用いて周波数230GHzで天の川銀河中心を観測。
25ミリ秒角の高解像度と、“いて座A*”の電波強度の5万分の1まで検出できる高い感度を実現しています。

この“アルマ望遠鏡”の桁違いの高感度高解像度によって、天の川銀河中心の周囲の星を電波で初めて検出することに成功しています。

検出された星は約50個であり、そのほとんどが極めて明るい星であるウォルフ・ライエ星やO型星でした。

また、2019年の観測データも用いて、天の川銀河中心に対する星の運動も、電波望遠鏡としては初めて測定しています。

その結果分かったのは、この領域の星がランダムに動いているのではなく、いくつかのグループに分類できることでした。

図中の青い楕円内部、“いて座A*”近傍では多くの星は“いて座A*”を中心に時計回りに公転しているようでした。

この公転は、赤外線観測による長年の観測ですでに知られているもの。
それが、“アルマ望遠鏡”では2年間隔のわずか2回の観測で確認しているんですねー
“アルマ望遠鏡”で観測した天の川銀河中心部の様子。左は“アルマ望遠鏡”で観測した星の位置と動き(矢印)で、中心に“いて座A*”がある。右は星団“IRSI3E”のアップ。
“アルマ望遠鏡”で観測した天の川銀河中心部の様子。左は“アルマ望遠鏡”で観測した星の位置と動き(矢印)で、中心に“いて座A*”がある。右は星団“IRSI3E”のアップ。(Credit: M. Tsuboi et al.)
もし、この領域で星の形成が散発的に起きるとすれば、星の運動はランダムになってもよいはずです。

星の運動が揃っているという観測結果が示唆していること。
それは、ブラックホールに向かって落下してきたガスから同時に星が作られたか、あるいは星自身が揃ってブラックホールに向かって落下していることでした。

星の運動速度は外側では秒速数十キロと緩やかですが、内側に行くにつれて激しくなり、秒速数百キロにも達しています。

これは、星が“いて座A*”の周囲をケプラー運動していると考えると説明が付きます。

この速度から推定したブラックホールの質量は太陽の400万倍以上。
これは、これまで他の観測結果から推定されている質量と一致していました。

さらに、天の川銀河中心に最も近い場所に位置する星団“IRSI3E”における星の動きも測定することができています。

その結果分かったのは、星団のほとんどの星が西向きに運動していること。
これも、赤外線によるこれまでの観測結果を裏付けるものでした。

すでにいくつかの成果を上げている“アルマ望遠鏡”による星の動きの観測。
さらに、“IRSI3E”星団中心に星ではなく明るい円盤状の天体があることも明らかにしたそうです。


こちらの記事もどうぞ