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ほとんど知られていないX線偏光の情報を求めて! X線偏光観測衛星“IXPE”が超新星残骸の謎に迫る

2022年11月26日 | 宇宙 space
X線の偏光を高い感度で測定できる初の宇宙望遠鏡“IXPE”。
ほとんど知られていないX線偏光の情報を求めて超新星残骸“カシオペヤ座A”を観測してみると、爆発による衝撃波と磁場の広がり方について新たな手掛かりを得たそうです。

X線の偏光を高い感度で測定する宇宙望遠鏡

2021年12月9日に打ち上げられたNASAとイタリア宇宙機関のX線偏光観測衛星“IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)”。
この衛星は、X線の偏光(電磁波における波の向きの偏り)を高い感度で測定できる初の宇宙望遠鏡なんですねー

ほとんど知られていないX線偏光の情報を求め、“IXPE”が最初の観測対象としたのは、超新星残骸“カシオペヤ座A”でした。
超新星残骸“カシオペヤ座A”。(青)X線宇宙望遠鏡“チャンドラ”、(青緑)“IXPE”、(金)ハッブル宇宙望遠鏡がそれぞれ取得したデータを合成した疑似カラー。(Credit: X-ray: Chandra: NASA/CXC/SAO, IXPE: NASA/MSFC/J. Vink et al.; Optical: NASA/STScI)
超新星残骸“カシオペヤ座A”。(青)X線宇宙望遠鏡“チャンドラ”、(青緑)“IXPE”、(金)ハッブル宇宙望遠鏡がそれぞれ取得したデータを合成した疑似カラー。(Credit: X-ray: Chandra: NASA/CXC/SAO, IXPE: NASA/MSFC/J. Vink et al.; Optical: NASA/STScI)

“カシオペヤ座A”では超新星爆発によって、極めて高速の衝撃波が発生していました。

衝撃波で吹き飛ばされた陽子や電子などの荷電粒子は、同じく爆発に伴って生じた磁場に閉じ込められ、磁力線の周りを強制的に旋回させられることになります。

このとき電子は、磁力線の向きに応じて偏光した“シンクロトロン放射”と呼ばれる強い光を放ちます。

この偏光を調べると、非常に小さなスケールで超新星残骸の内部で起こっている現象を知ることができます。

超新星爆発による衝撃波と磁場の広がり

電波による観測では、“シンクロトロン放射”が“カシオペヤ座A”のほぼ全域で発生していることや、電波全体のうち偏向している物は5%程度しかないことが分かっていました。

また、磁場が残骸の中心から外側へと放射状に広がっていることも確認されています。

一方、NASAのX線天文衛星“チャンドラ”の観測によれば、X線は主に残骸の外側、つまり衝撃波が磁場にぶつかっているところで発生していました。

これまで、そのX線がどのように偏光しているかは観測できませんでした。

でも、予測されていたのは電波とは向きが違うだろうということ。
X線の“シンクロトロン放射”を生じさせている磁場は、電波を生じさせている磁場に対して垂直だと考えられていました。

ところが、“IXPE”が観測したX線偏光が示していたのは、磁場が電波と同じく中心から外へ向かう放射状に広がっていること。
さらに、“カシオペヤ座A”からのX線のうちで偏光しているものの割合は、電波の割合よりもさらに少ないものでした。

このことは、X線源となっている領域は乱流が渦巻き、あらゆる方向の磁場が入り交じっているため、それぞれからのX線が重なり合った結果、全体としての偏光度が小さくなったことを示唆しているようです。
“カシオペヤ座A”の画像に、X線偏光から判明した磁場の向きを重ね合わせた図。緑は“IXPE”の観測した信号が特に強かった領域。全体として磁場は中心から放射状に広がっていることが分かる。(Credit: X-ray: Chandra: NASA/CXC/SAO, IXPE: NASA/MSFC/J. Vink et al.)
“カシオペヤ座A”の画像に、X線偏光から判明した磁場の向きを重ね合わせた図。緑は“IXPE”の観測した信号が特に強かった領域。全体として磁場は中心から放射状に広がっていることが分かる。(Credit: X-ray: Chandra: NASA/CXC/SAO, IXPE: NASA/MSFC/J. Vink et al.)

これらの結果は、電子を非常に高いエネルギーに加速するために必要な環境を垣間見せてくれます。
観測は始まったばかりですが、“IXPE”のデータは、今後私たちが追跡すべき新しい手掛かりを提供してくれたようです。


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