ほぼすべての銀河の中心には、太陽の数100万倍から数10億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在しています。
そのブラックホールからは、電波ジェットと呼ばれるほぼ光速で運動するプラズマ噴出流からの電波信号が観測されています。
でも、ブラックホール近傍では物質はブラックホールへと落ち込んでしまうので、電波放射に必要なプラズマを電波ジェットへと供給する機構は大きな謎になっていたんですねー
そこで、東北大学学際科学フロンティア研究所のチームが考えたのは、ブラックホール近傍で磁気エネルギーが効率的に高エネルギーの光子へと変換されるフレア現象が発生するということ。
これにより作成された理論モデルを用いて、フレアの際に放射される高エネルギーの光子同士が相互作用して効率的に電波ジェットへとプラズマが供給され、電波ジェットの観測から要求されるプラズマの供給量を説明することに初めて成功しています。
過去に提案されてきた理論モデルと比べ、今回のメカニズムでは10万倍以上もの量のプラズマを電波ジェットへと供給できることになります。
今回の理論モデルでは、私たちの住む天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール“いて座A*”からの電波ジェットは暗くて現在の装置では観測できないこと、初めてブラックホールの画像が撮られた巨大楕円銀河“M87”からは強力な電波ジェットが観測されることも自然に説明できました。
さらに、“いて座A*”や“M87”の中心ブラックホールが駆動するフレアからの高エネルギー光子は、次世代のX線観測衛星によって検出可能なので、将来のX線天文学によって電波ジェットの謎の解明が期待されています。
でも、その電波で輝く噴出流“電波ジェット”の生成機構、特にエネルギー源とプラズマの供給機構は、電波ジェットの発見から約50年が経過した今でも未解明の問題となっていました。
近年のイベント・ホライズン・テレスコープ・コラボレーションによるブラックホールの電波画像は、ブラックホールの回転エネルギーが電波ジェットのエネルギー源であることを支持しています。
でも、ブラックホール周囲には非常に強い磁場があると考えられているので、その磁場が壁になっていて降着プラズマを電波ジェットへと直接運ぶことはできません。
これまで提唱されたシナリオに、降着プラズマから放射されるガンマ線を用いて、“電波ジェット”へとプラズマを供給するというものもありました。
ただ、これまでの理論モデルで予言されるプラズマの供給量は、電波ジェットの再現に必要な供給量よりも約100倍から1万倍も少ないもの…
プラズマの供給量を達成できる理論モデルの登場が待たれることになります。
これにより、観測から要求される供給量を達成できる理論モデルの構築に初めて成功したんですねー
これらのシミュレーション研究では、強く磁化したブラックホールの周囲で、磁気リコネクションにより突発的にエネルギーを開放する現象が見られています。
太陽フレアでは、磁気リコネクションにより加熱されたプラズマは、幅広いエネルギー帯域の光子(可視光線、紫外線、X線)を放射します。
一方、ブラックホールの周囲で発生する磁気リコネクションでは、プラズマ粒子一粒当たりのエネルギーが太陽フレアと比べて約10億倍も大きく、ブラックホールが駆動するフレアではより高エネルギーの光子(X線、ガンマ線)が放射されます。
この理論モデルでは、多量の高エネルギーの光子がブラックホール近傍の非常に小さい領域から放射されます。
その結果、光子同士は頻繁に衝突し、多量の電子・陽電子対が生成され、電波ジェットへとプラズマを供給することになります。
この理論モデルで可能なのは、これまでに提案されていた理論モデルの約10万倍のプラズマを“電波ジェット”へと供給すること。
ブラックホール表面近くの小さな領域で、効率的に磁気エネルギーを高エネルギーの光子へと変換することで、高いプラズマ供給量を達成できたわけです。
例えば、初めてブラックホールの画像が撮影された“M87”銀河の超大質量ブラックホールでは、多量のプラズマが“電波ジェット”へと供給され、明るい“電波ジェット”が形成されています。
一方、私たちの住む天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール“いて座A*”では、ブラックホールの質量が軽く降着プラズマの物質量も小さいので、“電波ジェット”へと供給されるプラズマの量が少なく、現在の観測技術では“電波ジェット”を見ることができません。
これらの予言は、現状の電波観測結果と一致していて、“電波ジェット”の有無を自然に説明できるモデルになっています。
ブラックホールが駆動するフレアからは、強いX線が放射されます。
これまでにも超大質量ブラックホールからX線の増光現象は観測されていますが、今回の研究で提案する理論モデルでは、より短い時間の“X線フレア”を予言しています。
今までのX線観測衛星では見逃されていた短い時間のフレア。
次世代のX線観測衛星は、“いて座A*”や“M87”銀河の中心ブラックホールが駆動する短い時間の“X線フレア”が観測可能になります。
なので、将来のX線天文学により、“残された課題”である“電波ジェット”の起源の解明ができるかもしれませんね。
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そのブラックホールからは、電波ジェットと呼ばれるほぼ光速で運動するプラズマ噴出流からの電波信号が観測されています。
でも、ブラックホール近傍では物質はブラックホールへと落ち込んでしまうので、電波放射に必要なプラズマを電波ジェットへと供給する機構は大きな謎になっていたんですねー
そこで、東北大学学際科学フロンティア研究所のチームが考えたのは、ブラックホール近傍で磁気エネルギーが効率的に高エネルギーの光子へと変換されるフレア現象が発生するということ。
これにより作成された理論モデルを用いて、フレアの際に放射される高エネルギーの光子同士が相互作用して効率的に電波ジェットへとプラズマが供給され、電波ジェットの観測から要求されるプラズマの供給量を説明することに初めて成功しています。
過去に提案されてきた理論モデルと比べ、今回のメカニズムでは10万倍以上もの量のプラズマを電波ジェットへと供給できることになります。
今回の理論モデルでは、私たちの住む天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール“いて座A*”からの電波ジェットは暗くて現在の装置では観測できないこと、初めてブラックホールの画像が撮られた巨大楕円銀河“M87”からは強力な電波ジェットが観測されることも自然に説明できました。
さらに、“いて座A*”や“M87”の中心ブラックホールが駆動するフレアからの高エネルギー光子は、次世代のX線観測衛星によって検出可能なので、将来のX線天文学によって電波ジェットの謎の解明が期待されています。
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した“M87”銀河のジェット(Credit: NASA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)) |
電波で輝く噴出流“電波ジェット”
私たちが住む天の川銀河を含め、宇宙にあるほぼ全ての銀河の中心部には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在しています。超大質量ブラックホールは、銀河の中心にある太陽の100万倍から100億倍ほどの質量を持ったブラックホール。銀河中心部の星やガスの運動の観測、“M87”銀河の超大質量ブラックホールの影の電波画像によって、その存在が確かめられている。このブラックホールへと物質が落ち込むと膨大な重力エネルギーを開放し、様々な電磁波を放出する天体“クエーサー(活動銀河核)”として観測される。
さらに、一部の超大質量ブラックホールには電波で明るく輝く、ほぼ光速で噴出している細く絞られたプラズマ流が付随していることが知られています。でも、その電波で輝く噴出流“電波ジェット”の生成機構、特にエネルギー源とプラズマの供給機構は、電波ジェットの発見から約50年が経過した今でも未解明の問題となっていました。
ブラックホールに落下する物質は角運動量を持つため、降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作る。降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射しX線などが観測される。この降着円盤からのジェットを“電波ジェット”と呼ぶ。
“電波ジェット”のエネルギー源
電波ジェットのエネルギー源は、ブラックホールによる回転エネルギーであるという理論が有力です。近年のイベント・ホライズン・テレスコープ・コラボレーションによるブラックホールの電波画像は、ブラックホールの回転エネルギーが電波ジェットのエネルギー源であることを支持しています。
イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope: EHT)は、地球上にある電波望遠鏡を超長基線電波干渉法“VLBI”を用いて結合させ、銀河の中心にある大質量ブラックホールの姿をとらえるプロジェクト。直訳で事象の地平線望遠鏡とも表記される。観測対象は、天の川銀河の中心にある“いて座A*”と巨大楕円銀河“M87”の中心にある超大質量ブラックホールであり、これを撮影可能な解像度を有している。
ただ、電波ジェットへのプラズマの供給機構はまだ有力な理論が無く、ブラックホール天文学における「残された課題」になっているんですねー“電波ジェット”へのプラズマの供給機構
ブラックホールの周囲には、ブラックホールへと落ち込むプラズマ“降着プラズマ”が存在しています。でも、ブラックホール周囲には非常に強い磁場があると考えられているので、その磁場が壁になっていて降着プラズマを電波ジェットへと直接運ぶことはできません。
これまで提唱されたシナリオに、降着プラズマから放射されるガンマ線を用いて、“電波ジェット”へとプラズマを供給するというものもありました。
ただ、これまでの理論モデルで予言されるプラズマの供給量は、電波ジェットの再現に必要な供給量よりも約100倍から1万倍も少ないもの…
プラズマの供給量を達成できる理論モデルの登場が待たれることになります。
ブラックホールが駆動する“フレア現象”
今回、研究チームが気付いたのは、ブラックホールが駆動する“フレア現象”が、“電波ジェット”へのプラズマの供給機構して機能することでした。これにより、観測から要求される供給量を達成できる理論モデルの構築に初めて成功したんですねー
フレア現象は、天体の明るさが突然明るくなる現象。一つの例として、太陽表面で発生する爆発現象である太陽フレアがある。他にも、銀河系内の恒星が起こす恒星フレアや、磁場の強い中性子星が起こすマグネターフレア、超大質量ブラックホールが駆動する活動銀河核フレアなどが観測されている。
近年の数値シミュレーション研究により、ブラックホールへと落ち込む降着プラズマと共に磁場がブラックホールへと持ち込まれ、ブラックホールは強く磁化していると考えられるようになりました。これらのシミュレーション研究では、強く磁化したブラックホールの周囲で、磁気リコネクションにより突発的にエネルギーを開放する現象が見られています。
磁気リコネクションとは、逆向きの磁力線が繋ぎ変わり、磁気エネルギーを開放してプラズマ粒子のエネルギーへと変換する現象。太陽フレアのエネルギー解放機構として知られる。近年の研究から、ブラックホール周囲でも磁気リコネクションが発生すると考えられている。
磁気リコネクションは太陽フレアでよく観測されている現象で、磁場のエネルギーを周囲のプラズマのエネルギーへと変換します。太陽フレアでは、磁気リコネクションにより加熱されたプラズマは、幅広いエネルギー帯域の光子(可視光線、紫外線、X線)を放射します。
一方、ブラックホールの周囲で発生する磁気リコネクションでは、プラズマ粒子一粒当たりのエネルギーが太陽フレアと比べて約10億倍も大きく、ブラックホールが駆動するフレアではより高エネルギーの光子(X線、ガンマ線)が放射されます。
この理論モデルでは、多量の高エネルギーの光子がブラックホール近傍の非常に小さい領域から放射されます。
その結果、光子同士は頻繁に衝突し、多量の電子・陽電子対が生成され、電波ジェットへとプラズマを供給することになります。
この理論モデルで可能なのは、これまでに提案されていた理論モデルの約10万倍のプラズマを“電波ジェット”へと供給すること。
ブラックホール表面近くの小さな領域で、効率的に磁気エネルギーを高エネルギーの光子へと変換することで、高いプラズマ供給量を達成できたわけです。
“電波ジェット”の起源の解明へ
この理論モデルでは、電波ジェットへと供給されるプラズマの量は、ブラックホールの質量やブラックホールへと落ち込む降着プラズマの物質量などに依存するので、天体ごとに“”電波ジェット”の明るさが大きく異なると予言されています。例えば、初めてブラックホールの画像が撮影された“M87”銀河の超大質量ブラックホールでは、多量のプラズマが“電波ジェット”へと供給され、明るい“電波ジェット”が形成されています。
一方、私たちの住む天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール“いて座A*”では、ブラックホールの質量が軽く降着プラズマの物質量も小さいので、“電波ジェット”へと供給されるプラズマの量が少なく、現在の観測技術では“電波ジェット”を見ることができません。
これらの予言は、現状の電波観測結果と一致していて、“電波ジェット”の有無を自然に説明できるモデルになっています。
ブラックホールが駆動するフレアからは、強いX線が放射されます。
これまでにも超大質量ブラックホールからX線の増光現象は観測されていますが、今回の研究で提案する理論モデルでは、より短い時間の“X線フレア”を予言しています。
今までのX線観測衛星では見逃されていた短い時間のフレア。
次世代のX線観測衛星は、“いて座A*”や“M87”銀河の中心ブラックホールが駆動する短い時間の“X線フレア”が観測可能になります。
なので、将来のX線天文学により、“残された課題”である“電波ジェット”の起源の解明ができるかもしれませんね。
天体からの高エネルギーの光子であるX線を観測する人工衛星。本研究と関連する次世代のX線観測衛星として、FORCE計画とHiZ-GUNDAM計画がある。FORCE計画は高いエネルギーのX線に特化した観測装置で、これまでのX線観測装置よりも暗い天体を発見することが可能になる。HiZ-GUNDAM計画はエネルギーの低いX線帯域で最も広い視野を持つ装置で、珍しい突発現象の発見を可能にする。“いて座A*”からのフレアはFORCE計画、“M87”からのフレアはHiZ-GUNDAM計画による検出が期待できる。
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