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銀河団内には星が生まれにくい場所がある? 70億年前から存在している銀河団の奇妙な銀河分布

2023年01月07日 | 銀河・銀河団
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラで撮られた、70億年前までの宇宙に存在する5000個を超える銀河団。
このデータを統計的に調べてみると、成長をやめてしまった銀河が、銀河団内の特定の方向に偏って分布していることが明らかになったんですねー

このことは、銀河団の内部で銀河の成長を止めるメカニズムが、非等方的に働いている可能性を示すもの。
銀河の形成過程の新たな一面をとらえた成果といえます。
図1.今回の研究に用いた銀河団の一例。銀河団に属する銀河のうち、星形成をしている銀河を青い円で、星形成をやめた銀河をオレンジの円で示している。印が付いていない天体は、この銀河団とは無関係の銀河や星になる。ピンクと水色の影で示された領域は、それぞれ銀河団の中心銀河の長軸に「揃った方向」と「垂直な方向」を表している。右上の画像は銀河団の中心部を拡大したもの。この例のように中心銀河は基本的に楕円に近い形をしていて、楕円の伸びた方向を長軸としている。個々の銀河団の観測から銀河分布の偏りを検出するのは難しいが、今回の研究では5000個以上の銀河団の高品質な撮像データを解析することで、成長している銀河と成長をやめた銀河の分布の偏りを検出している。(Credit: 東京大学)
図1.今回の研究に用いた銀河団の一例。銀河団に属する銀河のうち、星形成をしている銀河を青い円で、星形成をやめた銀河をオレンジの円で示している。印が付いていない天体は、この銀河団とは無関係の銀河や星になる。ピンクと水色の影で示された領域は、それぞれ銀河団の中心銀河の長軸に「揃った方向」と「垂直な方向」を表している。右上の画像は銀河団の中心部を拡大したもの。この例のように中心銀河は基本的に楕円に近い形をしていて、楕円の伸びた方向を長軸としている。個々の銀河団の観測から銀河分布の偏りを検出するのは難しいが、今回の研究では5000個以上の銀河団の高品質な撮像データを解析することで、成長している銀河と成長をやめた銀河の分布の偏りを検出している。(Credit: 東京大学)


銀河の星形成活動

数千個もの星々の集まりである銀河は、ガスを材料にして星を作り出す星形成活動を通じて成長します。

ただ、観測される銀河の星形成の様子は活発なものから、ほとんど停止しているものまで色々…
なので、どのような条件下で星形成が促進あるいは抑制されるかを調べることは、銀河の成長過程を理解する上で重要なことになります。

さらに、銀河の中には、単独で存在するものもあれば、群れて集まっているものもあります。

銀河の群れの中でも、数百から数千の銀河からなる大規模集団は“銀河団”と呼ばれています。
銀河団は300万光年もの広がりがあり、“銀河団ガス”と呼ばれる数千万度から数億度の高温ガスで満たされています。

面白いことに、単独で存在する銀河の多くは星形成をしていますが、銀河団に属する銀河の多くは星形成をやめているんですねー

これは、銀河と銀河団ガスが密に集まっているという、銀河団特有の環境に起因するものだと考えられています。

たとえば銀河団ガスの風圧や、近くを通過するほかの銀河の重力が、銀河の内部から星の材料であるガスを剥ぎ取ってしまうことが知られています。
その結果として、銀河の星形成、つまり成長が止まると考えられています。


成長をやめた銀河の偏った分布

銀河団に着目したこれまでの研究の多くは、銀河団に属する銀河の性質は等方的だとしています。
つまり、銀河団中心から見てどの方向を調べても、銀河の性質は同じであるという仮定の下で行われてきました。

ところが、近年の研究で指摘されているのは、成長をやめた銀河の分布が、銀河団内の特定の方向に偏っている可能性があることです。

多くの銀河団の中心部には巨大な銀河(中心銀河)が1つありますが、成長をやめた銀河は中心銀河の長軸方向に高い頻度で存在しているようです。

このことは、銀河団の中で銀河の星形成をやめる作用が、中心銀河と揃った方向(長軸方向)では強く、それに垂直な方向では弱く働くためだと解釈されています。

このような示唆が得られたのは、現在の宇宙に限られた研究や、少数の銀河団のサンプルの観測からです。
なので、この偏りが宇宙の幅広い年代で普遍的なものなのか? また、どの銀河団でも見られる一般的な傾向なのか? については分かっていませんでした。

そこで、今回の研究で用いられたのは、5000個を超える大量の銀河団のデータ。
このデータは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“Hyper Suprime-Cam(ハイパーシュプリーム・カム)”による大規模探査“Hyper Suprime-Cam すばる戦略枠プログラム”によって、撮像されたものでした。
この銀河団データを対象に、星形成をやめた銀河の割合が中心銀河の向きに対して、どのように変化するのかを調べています。(図1)
今回の研究を進めているのは、東京大学の安藤誠大学院生を中心とするチームです。
その結果、中心銀河の長軸に沿った方向では星形成をやめた銀河の割合が高く、それと垂直な方向では低くなっているが確かめられました。(図2)

さらに、この偏りがおよそ70億年前までの銀河団で検出されたいたので、時代によらず普遍的なものであることも分かっています。


銀河の偏った分布はどのようにして生じたのか

今回検出された偏りは数パーセント程度の小さなもの。
すばる望遠鏡による高品質かつ、大規模な銀河団サンプルを統計的に分析することで、初めて検出が可能になったことでした。
図2.今回の研究で検出された成長をやめた銀河の偏り(左)と、そのイメージ図(右)。左図は約60億年前の宇宙での解析結果で、成長をやめた銀河の割合(白丸)を中心銀河の長軸からの方向ごとに示している。黒色の太線は分布傾向を表す線になる。ピンク色の影で示された「中心銀河の長軸に揃った方向」では、水色の影で示された「中心銀河の長軸に垂直な方向」と比べて、成長をやめた銀河の割合が高くなっている。(Credit: 東京大学)
図2.今回の研究で検出された成長をやめた銀河の偏り(左)と、そのイメージ図(右)。左図は約60億年前の宇宙での解析結果で、成長をやめた銀河の割合(白丸)を中心銀河の長軸からの方向ごとに示している。黒色の太線は分布傾向を表す線になる。ピンク色の影で示された「中心銀河の長軸に揃った方向」では、水色の影で示された「中心銀河の長軸に垂直な方向」と比べて、成長をやめた銀河の割合が高くなっている。(Credit: 東京大学)
それでは、この偏りはどのように生じたのでしょうか?

一般に、「重い銀河」や「密な場所にある銀河」には、成長をやめたものが多いことが知られています。

そこで、考えられるのは以下の可能性。
1.重い銀河が中心銀河の長軸方向により多く存在している。
2.中心銀河の長軸方向では銀河がより密に集まっている。

あるいは、以下の可能性があるのかもしれません。
3.銀河団の外で成長をやめた銀河が、中心銀河の長軸方向に沿った運動で銀河団内部へ移動してきている。

でも、今回検出された銀河の偏りを様々な角度から検証してみると、1や2では検出された偏りの大きさを説明できないこと、また銀河団の外では成長をやめた銀河の分布に大きな偏りがなく、3の可能性も低いことが分かりました。

どうやら、上記の説明では不十分なようです…
では、観測された偏りをうまく説明することはできるのでしょうか?

実は、今回の結果をうまく説明できる説が、シミュレーションを用いた先行研究で提案されているんですねー
この説には、ほぼすべての銀河の中心部に存在するとされる、巨大ブラックホールの存在が関わっています。

銀河団の中心銀河が持つ巨大ブラックホールは、銀河団ガスを吹き飛ばすほどのエネルギーを放出します。
この時、中心銀河の長軸に垂直な方向のガスを集中的に吹き飛ばすので、その方向にある銀河団ガスが銀河に及ぼす風圧は相対的に弱くなります。
結果として、中心銀河の向きに応じて銀河の成長の止まりやすさが変わことになる っという説です。

今回の研究結果は、基本的にこの説と整合しています。

このことは、銀河団における銀河の成長を考える上で、中心銀河の巨大ブラックホールの活動性や、銀河と銀河団ガスとの相互作用が、いつの時代も極めて重要であることを示唆しています。

今回の研究では、すばる望遠鏡の大規模で高品質な観測データのおかげで、銀河団の中で銀河の成長を止めるメカニズムの新たな面と、その普遍性が明らかになりました。

ただ、その直接的な証拠となるブラックホールの活動性や、銀河団ガスの偏在を検出したわけではありません。

これらは、今後X線や電波の観測によって、明らかになると期待されています。
今回検出された、成長をやめた銀河の偏りの原因を解明することで、銀河団における銀河の成長史に迫ることができるといいですね。


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